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分かたれた二国、惹かれ合う二人  作者: 宝月 蓮


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ギルバートの家族・後編

 少し緊張が解れた中、エヴリンはギルバートの家族と共にルビウス公爵家の屋敷で昼食をご馳走になっていた。

「エヴリンちゃん、これ、東マギーアで採れた野菜を使ったポタージュよ。是非食べてちょうだい」

「はい。いただきます」

 エヴリンはバーバラに言われるがまま、運ばれて来たばかりのスープを一口食べた。

「野菜本来の味、野菜の旨味が感じられて食べやすいです」

 エヴリンは表情を綻ばせている。

 この先運ばれる料理にも期待感が増していた。

「まあ、良かったわ」

 バーバラは楽しそうに微笑んでいる。

 そのお陰で、エヴリンは肩の力を抜くことが出来た。

 その様子を見たギルバートはホッとしている。

「エヴリン嬢、このサラダは東マギーア産の野菜がふんだんに使われている」

 サラダが運ばれて来た際、エヴリンにそう声をかけたのはギルバートの父ジョゼフだ。

「はい。新鮮でとても美味しいです」

 エヴリンは公爵令嬢らしい所作でサラダを口に運び、満足そうに微笑んでいた。

「そう言ってくれて嬉しいよ」

 ジョゼフは朗らかだった。

「エヴリン嬢、メインは東マギーア名産の香草を使った鶏肉のパン粉焼きですよ。これは僕も大好物ですから是非食べてみてください」

 メイン料理が運ばれた際にそう言ったのはギルバートの上の弟ベンジャミン。

 エヴリンは言われた通り食べてみる。

 サクッとした食感と共に、香草の香りが口の中に広がる。これだけで更に食欲がそそる。そして鶏肉の旨味と絡み合い、エヴリンは思わずうっとりと表情を綻ばせた。

「これ……本当に美味しいですわ」

「ですよね」

 エヴリンの言葉に、ベンジャミンは満足そうだった。

「エヴリン嬢、デザートも食べてみてください!」

 エヴリンにデザートを勧めるのは、ギルバートの下の弟トマス。真紅の目はキラキラと輝いていた。

「まあ、フルーツタルト」

 エヴリンは青い目を輝かせた。

 実はエヴリンの好物である。

 エヴリンは嬉しそうにフルーツタルトを口に運んだ。

 ギルバートはそんなエヴリンや家族の様子を優しく見守っている。

「どれもとても美味しかったですわ」

 エヴリンは微笑み、ギルバートの家族を見渡した。

(多分打ち解けられたわよね。だけど……)

 エヴリンはチラリとギルバートの母リンジーに目を向ける。

 食事中、エヴリンはリンジーと一言も話さなかったのだ。

(リンジー様は……(わたくし)のことをあまり良く思っていないのかもしれないわ……。まあ、いきなり西マギーアの人間が来たのだから、仕方ないわよね)

 ほんの少し、エヴリンは俯いてしまう。

(いいえ、諦めては駄目ね。リンジー様と仲良くなりたいわ。ギルバート様のお母様なのだから)

 エヴリンは再び顔を上げた。

「エヴリン嬢はソルセルリウム帝国の学園で主に何を学んでいるのですか? 兄上は魔力強化しかやっていないみたいですが」

 すると、ベンジャミンからそう聞かれた。

「ベンジャミン、俺は魔力強化以外のこともやってはいるぞ」

 ベンジャミンの言葉に苦笑しながらそう突っ込むギルバート。

 エヴリンはその様子に思わず笑ってしまう。

(ギルバート様、ご家族の前ではこんな感じなのね)

 ギルバートのより普段に近い姿を見ることが出来て、エヴリンは嬉しくなっていた。

(わたくし)は主に魔法薬学を学んでおります」

「以前魔獣観察のフィールドワークでトラブルに巻き込まれた際、エヴリン嬢の魔法薬学の知識などのお陰で助けられたな」

「ギルバート様の方が(わたくし)のことをたくさん助けてくれたわよ」

 エヴリンはかつての魔獣観察のフィールドワークのことを思い出し、懐かしい気分になった。

 あの時はまだギルバートに少し警戒心を持っていた。

 しかし、疑問をぶつけたり胸の内を打ち明かすことで、ギルバートとは今のような関係になれたのだ。

「魔法薬学……僕にも教えていただけますか?」

「ええ、もちろんです」

 ベンジャミンの言葉に、エヴリンは微笑んで頷いた。


 その後もギルバートの家族と雑談を楽しむエヴリンであった。

 しかし、その際もリンジーとはあまり話せなかったのである。






᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥






 昼食も終わり、しばらく落ち着いた頃。

 エヴリンはルビウス公爵家の屋敷をギルバートに案内されていた。

「エヴリン嬢、この屋敷の庭園はどうだ?」

「とても素敵よ、ギルバート様」

 エヴリンはルビウス公爵家の屋敷の庭園を見てうっとりとしていた。

 色とりどりの花々が咲き誇っている。

 流石は公爵家の庭園である。

「エヴリン嬢に気に入ってもらえて良かった」

 ギルバートはフッと表情を綻ばせていた。

 その時、庭園にリンジーがやって来る。

 何やら複雑そうな表情のリンジーだ。

(リンジー様……)

 エヴリンは少しだけ緊張してしまう。

「エヴリン嬢、少し来てもらえるかしら?」

 リンジーの言葉に、エヴリンは少しだけ肩をピクリと震わせた。

「……はい」

「母上……」

 ギルバートもエヴリンとリンジーがあまり上手く話せていない様子を察知して心配そうである。

「ギルバート、エヴリン嬢を少し借りるわね」

「……はい。エヴリン嬢、じゃあまた後で」

「ええ、ギルバート様」

 こうして、エヴリンはリンジーについて行った。


 リンジーに連れられた先は、彼女の私室だった。

「エヴリン嬢……」

「はい……」

 エヴリンはリンジーから何を言われるのかと、緊張で鼓動が速くなっていた。

(良いことではなさそうだわ……)

 リンジーから心ないことを言われるかもしれない。

 エヴリンはそう覚悟した。

 しかし、リンジーからの言葉は予想外のものだった。

「エヴリン嬢、貴女、これの使い方を知っているかしら?」

 リンジーに差し出されたのは暗い時に明かりを灯す魔道具である。

「へ……?」

 予想外過ぎてエヴリンは目を丸くし、素っ頓狂な声を出してしまう。

「夜、暗くなってから本を読もうと思ったの。だけど、この魔道具の使い方が分からなくて、読めた試しがないわ」

 やや硬く、ぶっきらぼうな声のリンジーである。

 エヴリンにとって、正直意外な状況だった。

 ギルバートとの交際を反対されると思いきや、拍子抜けである。

「えっと、少しその魔道具を貸していただけますか?」

 エヴリンはおずおずとした様子である。

「ええ、どうぞ」

「ありがとうございます」

 少し緊張しながらエヴリンはリンジーから魔道具を受け取った。

(えっと、この魔道具は……)

 エヴリンは魔道具の形状などを確認した。

「こちらに炎の魔石を入れたら使えるようになります」

「炎の魔石を……それなら棚の中にあったはずだわ」

 エヴリンの答えを聞き、リンジーは棚から炎の魔石を取り出した。

 そしてエヴリンが言った通り、魔道具に炎の魔石を入れる。

 すると、魔道具に明かりが灯った。

「エヴリン嬢、ありがとう」

 リンジーの表情はほんの少し柔らかくなっていた。

 エヴリンはその表情を見て、少しだけ表情を綻ばせる。

「いえ、使えるようになって良かったです」

 すると、ゆっくりと話し始めるリンジー。

(わたくし)は、西マギーアがあまり好きではなかったの」

「そう……でしたか」

 エヴリンは俯き苦笑する。

 予想出来た言葉ではある。

「ええ。西マギーアは怠惰で悪い国だと、生家にいた頃はずっと聞かされていたわ。だけど、ルビウス公爵家に嫁いで驚いたの。お義母(かあ)様は全然西に対して嫌悪感を抱いていない。亡くなったお義父(とう)様もよ。その影響で、ジョゼフ様も西に対してほとんど嫌悪感を抱いていない。ギルバート、ベンジャミン、トマスもよ……」

 リンジーは困ったような表情で、そのまま言葉を続ける。

「だけど、この夏に色々と起こって、少しずつ東西融和ムードになっていて、魔道具も入って来たわ。この変化に戸惑ったものよ。だけど……」

 リンジーはフッと表情を綻ばせて魔道具に目を向ける。

「魔道具って便利ね。(わたくし)は、光の女神ポース様と闇の神スコタディ様が授けてくださった魔力を重視していたけれど……これもアリだわ」

「リンジー様……」

 エヴリンはリンジーの言葉に嬉しくなった。

(わたくし)も、ギルバート様と出会うまでは東マギーアのことをあまり良く思っていませんでした。悪い国だと教わって来ましたから。でも、ギルバート様とソルセルリウム帝国の学園の授業で一緒になって、色々と話をしていくうちに、誤解が解けました。西マギーアと東マギーア、魔道具と魔力、ただ信条としているものが違うだけだったと知りました。それに、西も東も光の女神ポース様と闇の神スコタディ様、同じものを信仰しています」

 エヴリンはふふっと微笑む。

「本当ね」

 リンジーはエヴリンの言葉に柔らかな笑みを浮かべた。

 ようやく自然な表情になったのだ。

「エヴリン嬢、ギルバートのことをよろしくね」

 リンジーからその言葉を聞き、エヴリンは表情を明るくした。

「はい!」

 エヴリンは心底嬉しそうに頷くのであった。

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