ベーテニア王国再び
西マギーアが混乱に陥った中、エヴリンとギルバートはスザンナと共にベーテニア王国へ入った。
何とか乗り合い馬車に乗ることが出来たのだ。
しかしベーテニア王国にたどり着くまではかなり時間がかかった。
ようやくベーテニア王国に到着した頃には、エヴリンもギルバートもスザンナも疲れ果てていた。
「ギルバートもこっちに来ていたのか。その髪色も中々似合うな」
ギルバートに声をかけたのは、彼の親友であるエメラルディン侯爵令息ジェレマイア。
ギルバートはまだ左手にブレスレット型の変身魔道具を装着していたのでブロンドの髪である。
「ああ。ありがとう、ジェレマイア。エヴリン嬢とスザンナ嬢も一緒だ」
ギルバートは変身魔道具を外し、髪色が漆黒に戻る。
「お久しぶりでございます、ジェレマイア様」
「ええ、お久しぶりです。エヴリン嬢、スザンナ嬢も」
「お久しぶりですわ、ジェレマイア様。また学園でもよろしくお願いします」
エヴリンとスザンナもジェレマイアに挨拶をし、ほんの少しだけ和気藹々とした雰囲気だ。
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四人は東西マギーアの留学生達が拠点にしているサロンに場所を移した。
ジェレマイアが重々しく口を開く。
「それにしてもギルバート、大変なことが起こっているな」
「そうだな。東の方はどんな感じだ?」
「東の貴族が西の王族に攻撃を仕掛けたことで、西マギーアへの憎悪が大きい者達は大盛り上がり。西を滅ぼせという動きもある。ただ、戦争反対派もいて日々衝突。貴族は魔力を使って攻撃したり、魔力を持たない平民達は石や物を投げたり殴り合いの毎日だ」
「まあ……東はそのような感じなのですね」
ジェレマイアの話を聞いたエヴリンは西マギーアとの違いに目を丸くした。
「エヴリン嬢、西ではどのような感じなのですか?」
「西は、対東マギーア派と戦争反対派による衝突は同じですが、魔道具を用いた攻防戦が続いております。中には炎の魔石を使った爆弾を使用する者もいました」
エヴリンは爆発に巻き込まれそうになったことを思い出し、思わず身震いした。
「なるほど」
エヴリンの話を聞いたジェレマイアはそう頷いた。
「ジェレマイアの話を聞く限り、東もとんでもない惨状になっていそうだが、西も相当だ。内乱による混乱、戦争への道、どのみち大変なことになるのは明らかだ」
ギルバートは悔しそうである。
「私も、このままでは嫌ですわ。せっかく東西の融和を進めようとしていましたのに」
スザンナは悲しそうな目である。
(どうしたら良いのかしら……?)
エヴリンはため息をついた。
(マギーア王国が西マギーアと東マギーアに分断された時はどうだったのかしら? 内乱が起きて……ベーテニア王国が介入したのよね。……どうしてベーテニア王国が介入したのかしら……? 何か理由があったはず)
エヴリンは色々と考え込んでいる。
(あ……!)
エヴリンはその時、昔読んだ本のことを思い出した。
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それはエヴリンが十二歳の時。
サフィーラ公爵家の屋敷にて、マギーア王国が西マギーアと東マギーアに分断された歴史について書かれた本を兄達と一緒に読んでいた。
「お兄様、かつてのマギーア王国が西マギーアと東マギーアに分断された時、どうしてベーテニア王国が介入したのですか?」
エヴリンは本を読みながら首を傾げていた。
「お、エヴリンももうそのページまで来たか。読むの速いな」
下の兄はエヴリンの読む速さに感心していた。
「エヴリン、それについてもここに書いてある。マギーアの土地に炎の魔石が埋まっているのは知っているだろう?」
上の兄はエヴリンが疑問に思ったことの答えにたどり着けるよう教えてくれる。
「はい、お兄様。あ……! 炎の魔石が西と東の軍事衝突で爆発して周辺諸国が巻き込まれかねないと書いてあります。なるほど、だからベーテニア王国が介入したのですね」
エヴリンは目を丸くしていた。
「その通りだ」
上の兄は満足そうな表情をしていた。
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『確か炎の魔石って少しの刺激で爆発しやすかったわよね』
『ああ。だから取り扱いには十分注意しなければならない。もし炎の魔石が採掘される場所で紛争などが起こったら爆発で広範囲に被害が及ぶだろうな。まあこのくらいの大きさなら、小さな花火くららいの規模だろうが』
エヴリンは以前ソルセルリウム帝国の学園の魔獣観察のフィールドワークでギルバートと遭難した時の会話も思い出した。
「炎の魔石……!」
エヴリンがポツリと呟く。
「あ……!」
ギルバートはその意味が分かったようで、目を大きく見開いた。
「そういえば、東西マギーアの土地には炎の魔石が埋まっている。この内乱でもしも爆発したら……!」
「大惨事ですわ……!」
ギルバートの言葉にスザンナが顔を青くしている。
「確かマギーア王国が東西に分断される際に、炎の魔石の爆発を恐れた国があった」
ジェレマイアもマギーア王国の歴史を思い出す。
「その筆頭がベーテニア王国」
エヴリンはゆっくりと呟いた。そして言葉を続ける。
「今回も、もしかしたらベーテニア王国や周辺諸国が解決の糸口になる可能性があるわ」
エヴリンの表情は少しだけ明るかった。
もしかしたら西マギーアと東マギーアの分断が何とかなり、ギルバートと一緒にいることが出来る未来が訪れるかもしれない。
そんな期待が少しずつ胸の中に広がっていた。
「確かに、こうなった以上他国に介入してもらった方がスムーズに行く可能性がある」
ギルバートは力強く口角を上げる。
「私達も、今出来ることをやりましょう」
エヴリンは真っ直ぐギルバートを見た。するとギルバートはゆっくりと頷く。
「ああ、そうだな」
「僕達に出来ること……」
ジェレマイアが考え始める。
「限られてはいると思いますが、何かあるはずですわ」
スザンナも今出来ることを考え始めた。
「東西融和のデモはどうかしら?」
エヴリンは思い付いたことを呟く。
「ベーテニア王国には、西マギーアからの留学生も東マギーアからの留学生もそこそこいる。ベーテニア王国で、その人数でデモをしたら……」
ギルバートはエヴリンの言葉に明るく頷く。
「そうだな。確かにベーテニア王国にも影響を与えることが出来て、炎の魔石のこともあるから動いてくれるだろう」
「エヴリン様、流石ですわ」
「エヴリン嬢の案でいきましょう」
スザンナとジェレマイアも肯定的である。スザンナに至ってはしたり顔だった。エヴリンの活躍が嬉しいらしい。
早速エヴリン達はベーテニア王国にいる西マギーア、東マギーアからの留学生に声をかけ、東西融和のデモを開始した。
かなりの人数が集まったので、エヴリン達の目論見通りベーテニア王国中枢部の目にも留まったようだ。
西マギーア、東マギーアの内乱も確認したベーテニア王国は、自国の軍を両国に派遣して内乱を鎮めている。
こうして、西マギーアと東マギーアの内乱、そして東西の対立は一時的に収束した。
また、ベーテニア王国の介入で少しずつ東西融和の対話が始まるのであった。
「まさか夏季休暇中に東西融和の話が進み始めるとは思わなかったな」
「ええ、そうね」
ギルバートの言葉にエヴリンはクスッと笑う。
少しずつ未来が見え始めていた。
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