東西一触即発
西マギーアに密入国した東マギーアの貴族の男が西マギーアの王族を攻撃した。
どうやら王族に攻撃をした男は自分から見た敵国である西マギーアを滅ぼしたかったようだ。しかし、男はすぐに捕えられて西マギーアにある重罪人が収容される地下牢に入れられた。処刑は確実だろう。
これにより、西マギーアと東マギーアの対立が深まってしまった。
連日一触即発の雰囲気である。
街では東マギーアを滅ぼそうとする動きが活発になっていた。
「エヴリンよ、やはり東の王族、貴族はろくでもない。奴らを滅ぼさなければならぬ。虐げられている東の平民を救う為にも」
「お祖父様……」
サフィーラ公爵家の屋敷にて、祖父の言葉にエヴリンは複雑そうな表情になる。
(東マギーアの王族や貴族はは決して平民を虐げているわけではないわ。だけど……どうしてこんなことに……?)
「エヴリン、お前は私の妹シャーロットに似ている。だから心配なんだ」
エヴリンは祖父の言葉にハッとする。
『兄上、確かマギーアが東西に分裂したのはお祖父様が十五歳の時でしたよね?』
『ああ。お祖父様はその時の内乱で今の東陣営に妹を殺されたらしいから、東への恨みは強いんだろう』
かつて兄が言っていたことを思い出した。
(シャーロット大叔母様……お祖父様の……亡くなった妹……。確かに、東陣営に妹を殺されたのなら、恨みが深いのは分かるけれど……)
エヴリンは俯き、唇を噛み締める。
(それに、まだ西マギーアに滞在しているギルバート様のことも心配だわ……)
エヴリンの表情は曇ったままだが、ひとまずギルバートの元へ向かうことにした。
᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥
「エヴリン嬢、大丈夫か?」
「ギルバート様の方こそ……」
エヴリンはサフィーラ公爵家の屋敷から出て、ギルバートが拠点にしている宿に来ていた。
ギルバートは今の状況で東マギーアの人間であるということがバレたら大変なのにも関わらず、エヴリンの身を案じてくれていた。
「俺はこの変身魔道具のお陰で事なきを得ている」
ギルバートは左手の変身魔道具をエヴリンに見せてニッと明るく笑った。
エヴリンはその笑みを見て少しだけ表情を綻ばせた。
しかし、窓の外から聞こえる街の喧騒でハッと現実に引き戻される。
「東を滅ぼせ!」
「東は敵だ!」
街の人々は東マギーアを倒そうとデモを起こしている。
デモは次第に激しくなり、魔道具を用いた乱闘にまで至っていた。
「戦争反対!」
「我々に安全を!」
「何だと!? お前達は東に迎合すると言うのか!?」
「そうではない! 戦争に巻き込まれたくないだけだ!」
「それは西を捨てると言うことと同意だ!」
中には戦争を避けたい者もいるが、反東マギーア陣営と闘争になっている。
ギルバートが拠点にしている宿も壊されかねない勢いである。
「……ここも安全とは言えないな。エヴリン嬢、外に出る準備をする」
「分かったわ。じゃあ、一旦出るわね」
「ああ、くれぐれも気をつけるように」
「ありがとう」
エヴリンはギルバートの準備が終わるまで、外の安全な場所で待つことにした。
外は予想以上に物騒だった。
東マギーアを滅ぼそうとする者と、戦争には反対する者が対立し、闘争が起こっている。
街では魔道具を使い自分と反対意見の者を攻撃したり、物を壊されたりと物騒だ。
(どこで待てば良いかしら? ギルバート様がいる宿の前も、今はデモや乱闘で通れない状況だから……)
エヴリンはデモや闘争に巻き込まれないよう、身を縮めていた。
その時、エヴリンの近くに炎の魔石が使われた爆弾が投げ込まれた。
爆弾は大きな音を立てて爆発する。
(嘘……!? 私、ここで死ぬの……!? それは嫌……!?)
咄嗟のことで、逃げる時間がなかったエヴリン。
思わずギュッと目を瞑る。
しかしその時、右手首のブレスレットのルビーの部分が強く光った。
それはまるでエヴリンを守るように結界を張っていた。
そのお陰でエヴリンの周りだけ爆発に巻き込まれずに済んだのだ。
「これは……」
エヴリンは目を大きく見開く。
『このネックレスやブレスレットの宝石部分に魔力を込めるんだ。そしたら、ピンチが迫った時に助けてくれる。自分で魔力を込めたものを身に着けるより、家族や友達、恋人なんかに魔力を込めてもらったものの方が効果が高い。お二人さんみたいなね』
エヴリンは以前ソルシエ魔法祭でこのブレスレットを購入する際、店主に言われたことを思い出した。
(ギルバート様が守ってくれたのね)
エヴリンは少しだけ表情を綻ばせた。
「エヴリン嬢! 大丈夫か!?」
ギルバートも先程の爆発を見ていたので、血相を変えてエヴリンの元へやって来た。
準備が終わり、混沌とした中を通り抜けて来たようだ。
「ええ。このブレスレットのお陰でね。ギルバート様が魔力を込めてくれたから、私は無事よ。貴方が守ってくれたようなものだから」
エヴリンはクスッと笑った。
「それなら良かった」
ギルバートはホッと肩を撫で下ろしていた。
「まさかたった一日でこんな事態になるなんて……」
エヴリンは表情を曇らせる。
「ああ。これは内乱状態だな。恐らく東でも同じことが起こっているだろう」
「この先どうなってしまうのかしら?」
エヴリンの胸の中は、不安でいっぱいだった。
「エヴリン様!」
その時、エヴリンにとって聞き慣れた声が聞こえた。
「スザンナ様! 貴女も西マギーアに戻っていたのね」
やって来たのはエヴリンの親友、アミティスタ侯爵令嬢スザンナだ。
「ええ。エヴリン様が西マギーアに向かわれた後、すぐに私も西マギーア、アミティスタ侯爵家の屋敷まで戻りました」
「そうだったの」
親友の姿を見たことで、エヴリンは少しだけ安心した。
「あら、ギルバート様もいらしたのですね。よく東の人間だと気付かれませんでしたね」
「ああ。変身魔道具のお陰だ」
「東の方なのに、魔道具に抵抗がないのですね」
ブロンド髪のギルバートを見てそう言うスザンナ。
ギルバートがエヴリンの恋人ということで、スザンナはややギルバートに棘のある言い方になる。
エヴリンを取られたみたいで悔しいようだ。
そんなスザンナにギルバートは苦笑する。
「まあ、少し抵抗はあったが慣れた」
「そうですか」
ギルバートに対してスザンナは少し素っ気なかった。
(スザンナ様……)
エヴリンは少し苦笑してしまった。
一方、スザンナはエヴリンの方を向く。
「それで、エヴリン様はこれからどうなさいますの? 私は留学先のベーテニア王国に早めに戻ろうと思いますが」
「そうね……」
エヴリンは少し考える。
(このまま西マギーアにいても危険なだけよね。ギルバート様も、今の状況だと早く西マギーアを出た方が安全かもしれないわ)
エヴリンはギルバートに目を向ける。
「ギルバート様、一緒に西マギーアを出ましょう。一旦ベーテニア王国へ行こうと思うの」
「……確かに、その方が良いかもしれない。恐らくジェレマイアも早めにベーテニア王国へ向かっているはずだ」
ギルバートはエヴリンの提案に頷いた。
こうして、エヴリンとギルバートはスザンナと共にベーテニア王国へ行くことになった。
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