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ソルセルリウム帝国留学

 エヴリンがソルセルリウム帝国に向かう際、家族全員が見送りに来てくれた。

「エヴリン、しっかり学びなさい」

「体には気を付けるのよ」

 エヴリンはそう両親から抱きしめられる。

「はい。お父様とお母様も、お身体にはお気を付けて」

 思わず両親からの愛に笑みがこぼれるエヴリン。

「エヴリン、ソルセルリウム帝国のお土産、期待してるぞ」

「向こうの食べ物とか魔道具とかよろしく」

「もう、お兄様達はお土産のことばかり」

 エヴリンは兄達の言葉に苦笑した。

「エヴリン、サフィーラ公爵家、ひいては西マギーアの名に恥じぬよう、しっかりやることだ」

「はい、お祖父(じい)様」

 祖父の威厳ある声に、エヴリンの背筋はピンと伸びる。

「それから、くれぐれも東の奴らには気を付けることだ。奴らに気を許してはいけない。奴らは敵だ」

「それも承知しております」

「それなら良い」

 祖父はエヴリンの答えに安心したようだ。

「それでは皆様、行って参ります」

 エヴリンは家族にとびきりの笑顔を向け、馬車に乗った。

 

 馬車を引く馬は颯爽と道を駆け抜けるので、外の景色は流れるように移り変わる。

 エヴリンは見慣れた西マギーアの景色を眺めていた。

 その時、馬車が急停車する。

「何が起こったの?」

 エヴリンは馬車の御者に声をかけた。

「申し訳こざいません。道が酷くぬかるんで馬車が通れなくなっているようです」

「あらまあ。そう言えば昨日は土砂降りだったわね」

 エヴリンは昨日の天気を思い出して苦笑してしまう。

 その時、馬車の外からエヴリンに話しかける男性がいた。どうやら平民らしい。

「そこの貴女はお貴族様ですよね? 土の魔力をお持ちでしょうか? もし土の魔力をお持ちでしたら、道のぬかるみを何とかしていただきたいのですが」

「残念ながら、(わたくし)が持つのは水の魔力でございます。お力になれず申し訳ないですわ」

 エヴリンは困ったように苦笑し答える。

 残念ながらこのトラブルを解決する力を持ち合わせていなかった。


 魔力には、光、闇、炎、水、風、土の六種類ある。

 炎、水、風、土の魔力は光の女神ポースと闇の神スコタディが生み出した。

 光の魔力はポースが持つ力、闇の魔力はスコタディが持つ力なので、この二つの魔力は非常に希少なものとなっている。

 魔力を持つ貴族や王族はこうして何か日常的なトラブルが起こった時に頼られることがあるのだ。


「誰も土の魔力を持つ方がいらっしゃらないみたいだよ!」

「おう、そうか! それなら魔道具を持ってきてくれ! 道を整える魔道具だ!」

「了解!」

 平民達は自ら動き出した。

 道を整える魔道具を使い、ぬかるんだ道を固めて整えていく。

 十分もかからないうちに道のぬかるみは解消し、馬車などが行き交うようになった。

 エヴリンが乗っている馬車も再び走り出す。

(魔道具があれば、何か困ったことがあっても平民の方々だけで解決出来るから便利よね)

 先程の平民達の様子を思い出し、改めて魔道具の偉大さを感じるエヴリンである。

(東マギーアでは魔道具を禁止しているらしいわね。こんなに便利なものの使用を禁止して、平民に苦労を強いるなんて……)

 エヴリンは東マギーアについて教わったことを思い出していた。


 ソルセルリウム帝国は西マギーアから複数の国を隔てた先にある。

 かなり距離があるので、エヴリンは道中宿に泊まり三日かけて行く。

(ソルセルリウム帝国にたどり着く前だというのに、もう楽しくて堪らないわ。西マギーア以外の国で宿泊だなんて)

 初めての他国にエヴリンはサファイアの目を輝かせていた。






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「ここがソルセルリウム帝国……!」

 エヴリンは馬車から見える光景を見渡し、生き生きと明るい表情だ。


 西マギーアよりも遥かに大きな国、ソルセルリウム帝国。進んだ魔道具などの技術でこの世界の覇権を握る国である。


 西マギーアでは見たことがない最新の魔道具が至る所にあり、更にはドラゴンなど空を飛ぶ魔獣に乗って移動する者もいた。


 魔獣とは、魔力を持つ獣のことだ。

 人間に害をなす魔獣もいるが、人間と共存出来る魔獣もいる。

 害をなす魔獣は魔獣討伐隊により定期的に討伐されているのだ。


(魔獣とも共存しているのね。流石はソルセルリウム帝国。あそこにいる人に銀貨一枚支払えば、あのドラゴンで移動が出来るのね。画期的だわ。銀貨一枚なら少し裕福な平民も出せるくらいかしら?)

 エヴリンは今銀貨一枚を支払いドラゴンに乗り移動する人を興味深そうに見ていた。


 ソルセルリウム帝国帝都ソルシエにある魔法学園に到着したエヴリン。

 ここでサフィーラ公爵家の御者とはお別れだ。

「お嬢様の留学生活が光の女神ポース様と闇の神スコタディ様の祝福にあふれるようお祈りしております」

「ありがとう。貴方の帰路にも、光の女神ポース様と闇の神スコタディ様の祝福がありますように」

 エヴリンは御者を労い、学園の留学及び入寮手続きをしに行くのであった。






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 ソルセルリウム帝国の魔法学園での生活はエヴリンにとって夢のようだった。


(まあ! これは西マギーアの図鑑や教科書でしか見たことがない薬草! この薬草から必要な成分を抽出して、(わたくし)の水の魔力を付与すると保湿剤に出来るわね)


 実験室にて魔法薬学の授業中、エヴリンはサファイアの目をキラキラと輝かせていた。

 一番楽しみにしていた授業なので気合いの入り具合が違う。

 もちろん、他の授業も真面目に受けるエヴリンではあるが、魔法薬学は特別だった。


「エヴリンさん、一度教えただけでこの高度な技術を使いこなすとは凄いですね」

「ありがとうございます、先生。魔法薬学は特に好きな分野ですので」

 先生に褒められたエヴリンは少し誇らしげだった。

「それと先生、こちらの薬草の効能についてですが……」


 ドーン!


 エヴリンが別の薬草に関する質問をしようとした時、彼女の近くで何かが爆発した。

「きゃー! すみません!」

 エヴリンの近くにいた女子生徒が調合を間違えて爆発させたらしい。

 怪しい色の煙が実験室中に蔓延する。

「皆さん、窓を開けて! それから伏せて!」

 先生の指示に従い、窓の近くにいた生徒は窓を開け、エヴリンを含めた他の生徒はその場に伏せる。

 先生は風魔法を発動させ、怪しい煙を全て窓の外に追いやった。

 しかし、実験室中奇妙な色の液体だらけになっている。

(うわあ……ベトベトだわ。しかも変な匂いね……)

 エヴリンは自身の制服に付着した液体を見て眉をひそめる。ツンと刺激する匂いが鼻奥を掠めた。

「……やむを得ないので今日の授業はここまでです。皆さん、次の授業の先生方には私から連絡しておきますから、まずは着替えましょう」

 先生にそう言われてエヴリンは急いで着替えに行った。

 先生が事情を伝えてくれるとはいえ、次の魔獣観察の授業には遅刻確定である。







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「遅れて申し訳ございません」

 急いで着替えたエヴリンは、魔獣観察担当の先生に謝る。

「いや、魔法薬学の先生から事情は聞いている。ただ、この授業は今回から複数回、ペアで魔獣観察レポートを書く必要があって……その……」

 先生が言いにくそうな表情になる。

 もしかしてもうペアがだれもいないのだろうかとエヴリンは少しだけ不安になった。

「同じように魔力強化の授業でトラブルがあったらしく、遅れてる彼しかもう余っていなくて。その彼もエヴリンさんと同じ留学生なのだが……彼は東マギーアの人なんだ」

「え……!?」

 エヴリンは目をこぼれ落ちそうな程に大きく見開く。

(東マギーア!?)

 まさかその国の名前をこの場で聞くことになるとは思ってもいなかったのだ。

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