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分かたれた二国、惹かれ合う二人  作者: 宝月 蓮


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ギルバートの西マギーア巡り

 エヴリンがサフィーラ公爵家にいる間、ギルバートは西マギーアの王都を見ていた。

(……西マギーアの平民達、表情がとても明るいな)

 街にいる者達をじっくりと観察するギルバート。

(東では、西は光の女神ポース様と闇の神スコタディ様を冒涜しているだの、西の王族、貴族は平民を守らない悪人だの言われているが、やはり実際に西を見てみるとそうは見えないな)

 ギルバートはフッと笑った。

(それに、やはり西の方が東よりも発展している。魔道具の力でもあるだろうな)

 ギルバートは西マギーアを見て、改めて東マギーアの平民達の生活水準が低いことを痛感した。


『東マギーアは最低な国! 悪の国である!』

『東マギーアは発展を拒む怠惰な国!』

『東マギーアの王族、貴族は平民に不自由な生活を強いる悪人だ!』

『東マギーアの平民を救い出せ!』


 街のあらゆる所に貼られているプロパガンダポスターを見たギルバートは苦笑した。

(まあ、ある意味仕方のないことか。東にもこういったポスターはありとあらゆる場所に貼ってある)

 特に腹を立てることはなく、ギルバートは再び街を観察する。

(魔道具専門店か……)

 ギルバートは祖国である東マギーアにはない魔道具専門店に足を踏み入れた。

(……ソルセルリウム帝国ではあまり触れないようにしていたが……これが魔道具なのか)

 ギルバートは魔道具をまじまじと見つめていた。

「兄ちゃん、それは最近入った新作だよ」

 店の者に話しかけられたギルバートはハッと驚く。

「ああ、驚かせてしまったようだな。申し訳ない」

 気さくな店員である。

「いえ、気にしないでください」

 ギルバートは戸惑いつつもそう答えた。

「それは凶暴な魔獣を鎮静化させる魔道具さ」

「そうですか……」

 ギルバートは魔道具をあらゆる角度から見ている。

「光の魔石と闇の魔石が使われていてね。凶暴な魔獣の精神に上手く働く」


 光の魔力と闇の魔力は人間や魔獣の精神を落ち着かせる効果があるのだ。よって、光の魔石と闇の魔石も同様の効果がある。


「ちなみに、この魔道具はアミティスタ侯爵領で作られているんだよ」

「アミティスタ侯爵領……!」

 ギルバートはベーテニア王国で会ったエヴリンの友人、アミティスタ侯爵令嬢スザンナの存在を思い出した。

「ああ、そうだよ。アミティスタ侯爵家の方々は魔道具作りに精通していらっしゃるんだ」

 店員は今この場にはいないアミティスタ侯爵家の者達に尊敬の眼差しを向けていた。

「お貴族様は我々平民生活を豊かにしたり、何かあったときに我々で対処出来るように魔道具を開発してくださっているんだ」

「そう……ですか」

 ギルバートは祖母バーバラの影響で、西マギーアに対する憎悪感情はない。しかし改めて東マギーアとは違う価値観の国であることを知り、衝撃を受けていた。

(西マギーアはそういう考え方なのか……。実際に触れてみると、面白いな)

 ギルバートはフッと口角を上げた。

「ありがとうございます」

 ギルバートは店員にお礼を言い、他の魔道具も見てから店を出るのであった。






᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥






 魔道具専門店から出たギルバートはその後も街の様子を観察していた。

 その時、街の者達が何やら騒がしくなった。

(何事だ?)

 ギルバートは疑問に思い、騒ぎのある場所へ向かう。


「おい! 井戸が使えなくなっているぞ!」

「ええ!? 水が汲めないじゃない!」

「水が汲めなきゃ生活できないぞ!」

 どうやら井戸が壊れたようだ。

(なるほど。こういう場合は水の魔力を持つ貴族が何とかするのか?)

 炎の魔力を持つギルバートは残念ながら力になれそうにない。

「水の魔力を持つお貴族様はいるんだろうか?」

「ちょっと探してみるわ」

 このような場合、魔力を持つ王族や貴族がその力を使って解決することが多い。

 特に東マギーアではそれが当たり前だったので、ギルバートはどんな貴族が来て、どんなことをするのかが少し気になっていた。

 しかし、いつまで経っても貴族が来る様子はない。

「駄目だ。水の魔力を持つお貴族様が近くにいない」

 しばらくすると、貴族を探しに行った平民が戻って来てそう言った。

(では井戸は修理出来ないということか……。ここの平民達の暮らしはどうなるんだ?)

 ギルバートはそのことを不安に思った。

 しかし次の瞬間、ギルバートにとって驚くべきことが起こる。


「おーい! 修理用の魔道具を持って来たぞ!」

「修理を開始しましょう!」

「みんな、手伝ってくれ!」

 井戸が壊れて困っていたところ、数名の平民が魔道具を持ってやって来た。

 そして当たり前のように自分達で井戸の修理を始めたのだ。

「俺はこっちを修理するから、あんたはそっちを頼む」

「了解。任せな」

「追加の魔道具、持って来ました!」

「おう! ありがとな! そこに置いといてくれ!」

 協力して井戸を修理する平民達。そのスピードは非常に速いものだった。


 みるみるうちに井戸が直っていく様子を見たギルバートは目を丸くする。

(魔力を持つ貴族を頼らず自分達で修理するだと……!?)

 ギルバートにとって、平民達のその姿は衝撃的だった。

(それに、井戸の修理スピードが速い! 魔道具があるとこんなにも便利なのか!)

 魔道具の力を実際に見たギルバートは衝撃で声が出なかった。

(エヴリン嬢が言っていた言葉の意味がようやく理解出来た。西マギーアの王族、貴族は、平民に自分達で問題を解決出来る手段を与えているのか)

 ギルバートはふと魔獣観察のフィールドワークでトラブルに巻き込まれた時、エヴリンが話したことを思い出していた。

 そっと右手に着けているサファイアのブレスレットに触れる。

(西マギーアは、平民に対して魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えるといったスタンスだったのか。東とは大違いだ。これはこれで一種のノブレス・オブリージュだな。東にも必要な視点かもしれない)

 ギルバートは自分の中で納得していた。

(ただ、西の貴族達ももっと己の魔力を鍛えるべきではあるが)

 実際に見ることで、西マギーアの良い点や改善すべき点を知ったギルバートである。

(実際に見てみないと、分からないものだな)

 ギルバートは満足そうにフッと笑った。

読んでくださりありがとうございます!

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