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分かたれた二国、惹かれ合う二人  作者: 宝月 蓮


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18/30

ギルバートと共に西マギーアへ

「今まで西マギーアで聞いていた東のことは一体何だったのかしら?」

 一通り東マギーアの様子を実際に見てみたエヴリンはそう呟いた。

「エヴリン嬢がそう思うようになるということは、多分俺もこれから西マギーアを見てそう思うようになるんだろうな」

 ギルバートはフッと笑い、そう呟いた。

 現在エヴリンとギルバートは東マギーアを出て乗り合い馬車でベーテニア王国を経由してから西マギーアに入ろうとしているところである。


 乗り合い馬車はやはり貴族の家の馬車とは違い、地面からの衝撃をダイレクトに受けるので乗り心地はあまり良いとは言えない。しかし、ソルセルリウム帝国からベーテニア王国へ向かう時も乗り合い馬車だったので、ある程度は慣れたものである。


「そうかもしれないわね。ギルバート様、その髪色も似合うわよ」

 エヴリンはギルバートの髪を見てふふっと笑う。

 ギルバートは現在漆黒の髪ではなく、変身魔道具でブロンドの髪になっているのだ。

 ちなみに変身魔道具はブレスレット型で、ギルバートの左手に装着されている。

 漆黒の髪だとすぐに東マギーアの貴族だとバレてしまい、西マギーアの人間から攻撃されかねないのだ。

 エヴリンが髪を漆黒に染めた時と同じ理由である。


「さあ、西マギーアに入るわよ」

 エヴリンがそう言うと、ギルバートはゴクリと息を飲んだ。

「いよいよだな」

 どこか緊張した面持ちのギルバートである。

 その気持ちはエヴリンにもよく分かる。

 エヴリンも東マギーアに入る時、楽しみと不安で胸がいっぱいになっていたのだ。

 エヴリンはギルバートの手をそっと握った。

 するとギルバートの表情は少しだけ和らぐのであった。






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 エヴリンとギルバートは西マギーアの王都で乗り合い馬車から降りた。

「ギルバート様、初めての西マギーアの感想はどうかしら?」

 エヴリンはふふっと笑い、ギルバートの表情を覗き込む。

「ああ……。確かに西も凄いな。東とは違う……」

 ギルバートは周囲を見渡して目を丸くしていた。


 街中魔道具があふれている。エヴリンにとっては見慣れた光景だが、魔道具を禁止されている東マギーア出身であるギルバートにとっては驚くべき光景だろう。

 だが一度ソルセルリウム帝国を見ているので、そこまで衝撃的ではなさそうである。

 しかし、それでも東マギーアでは見ることが出来ない光景であることは確かなことだ。


「東で行動した時と同じように、今回は(わたくし)一旦サフィーラ公爵家に帰るわ。生家に顔を出さないと家族が文句を言いそうだから。ギルバート様はその間一人で街を見て回るのよね?」

 エヴリンがそう予定の確認すると、ギルバートは頷く。

「ああ。東の時のように、予期せぬトラブルで変身魔道具が壊れないことだけには気を付ける」

「ええ。この国は貴方にとってかなり危険だものね。西と東は敵対しているから」

 エヴリンは少し悲しそうに笑う。

「まあ、覚悟はしていた。大丈夫だ、エヴリン嬢。そう気にするな」

 ギルバートはエヴリンを安心させるかのように力強く微笑む。

「ギルバート様……」

 エヴリンの表情は少しだけ柔らかくなった。

「ではエヴリン嬢、また後で」

「ええ」

 こうしてエヴリンとギルバートは東マギーアの時と同じようにまずは別行動をすることになった。






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「ただいま戻りました」

 エヴリンは久々にサフィーラ公爵家の屋敷に帰った。

「エヴリン、元気だったか?」

「お帰りなさい、エヴリン」

「おお! エヴリン、ソルセルリウム帝国に美味しい食べ物はあったか?」

「色々話を聞かせてくれよ」

 エヴリンは両親と二人の兄に出迎えられていた。

「はい。お土産もありますから、後でゆっくりお話ししますわ」

 久々の生家に、エヴリンはどこかホッとしていた。

(不思議ね。こんなに安心感に包まれるなんて)

 たった数ヶ月、祖国や生家を離れていただけでここまで懐かしさが込み上げて来るとは思わなかった。


「エヴリン、帰ったのか」

 そこへ、祖父がやって来た。

「ただいま戻りました、お祖父(じい)様」

 エヴリンは少しだけ背筋を伸ばした。

「ああ、お帰り、エヴリン」

 そんなエヴリンを見た祖父は、少しだけ表情を綻ばせた。

 エヴリンは祖父の様子に少しだけ安堵する。

 しかし次の瞬間、祖父の表情は厳しいものになった。

「ところでエヴリンよ、ソルセルリウム帝国では東の奴らと関わることはなかったか?」

「そのようなことはございませんでしたわ……」

 エヴリンは咄嗟に嘘をついた。

 エヴリンの祖父はサフィーラ公爵家の中で特に東マギーアへの憎しみを持っている。

 そんな祖父に、ギルバートとの関係を口が裂けても言えるわけがないのである。

(ごめんなさい、お祖父様……)

 ここで下手に目を逸らしたり動揺すると祖父に隠し事をしていることがバレてしまう。

 エヴリンは内心ドキドキしつつも平然を装っていた。

「ならば良い。エヴリン、これからもしっかり励むのだ」

「はい、お祖父様」

 エヴリンはホッとした。

「エヴリンよ、大切なことだから何度も言うが、東マギーアは我々の敵だ。東マギーアは魔力を持つ王族、貴族達が平民を押さえつけている。東マギーアは魔力を持たない平民を虐げている野蛮な国家だ」

 祖父の表情は険しいものだった。

「……存じ上げておりますわ、お祖父様」

 祖父の言葉を聞き、エヴリンはやはり悲しくなってしまう。

「お祖父様、せっかくエヴリンが帰って来たのですよ。東に対する意識も大切ですけど、今はエヴリンとの時間を楽しみましょうよ」

「そうですよ、お祖父様。数日滞在したらエヴリンはソルセルリウム帝国にまた戻るんですから」

 二人の兄達は祖父を宥めていた。

 エヴリンは兄達に感謝した。

(今はとてもじゃないけれど、お祖父様にギルバート様との関係のことは言えないわ。だけど、いずれは……)

 いつまでも隠しておくことは出来ないだろう。

 右手に着けている、ギルバートの魔力が込められたルビーのブレスレットにそっと触れる。

 まるでギルバートが力をくれたような気がした。

(きっと大丈夫。そうなる日が、きっと訪れるわ)

 エヴリンはいずれ祖父にギルバートとの関係を言える日が来るよう努力しようと決意するのであった。


 その後、丁度お昼時だったので、エヴリンはサフィーラ公爵家の家族と一緒に昼食を取る。

「エヴリン、実は今日王家の方々が街に視察にいらっしゃるそうだ。知っていたか?」

「いいえ、お父様、知りませんでしたわ」

 食事中、父の言葉にエヴリンは目を丸くした。

「そうか。もし今日この後街に出るのなら、くれぐれも陛下達に失礼のないようにと思って」

「はい、お父様。承知しておりますわ」

 エヴリンはクスッと笑った。

 その後、エヴリンは食事を楽しみながら家族にソルセルリウム帝国で学んだ魔法薬学のことなどを話すのであった。

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