まずはベーテニア王国へ
ソルセルリウム帝国の魔法学園の試験を無事に終えたエヴリンとギルバート。
「少し苦手意識があった魔力強化もギルバート様のお陰で筆記試験と実技試験、両方及第点以上の点数が取れたわ」
「それは良かった。俺も魔法薬学、エヴリン嬢から教えてもらったところはきちんと解答出来て及第点を超えた」
二人共全ての科目で及第点以上が取れたようで、ホッと肩を撫で下ろしていた。
「これで安心して夏季休暇を迎えられるわね」
「ああ。それぞれお互いの祖国……西マギーアと東マギーアを実際に見る。その前に、ベーテニア王国だな」
「ええ」
エヴリンとギルバートは夏季休暇の予定を話していた。
(いよいよギルバート様の祖国……東マギーアをこの目でみられる日が近付いているわね……)
エヴリンの胸の中には、期待と不安が入り混じっていた。
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いよいよ夏季休暇に入った。
エヴリンとギルバートは荷物を準備し、西マギーアと東マギーアの隣国であるベーテニア王国へ向かう。
ベーテニア王国に留学中の友人達に会うのだ。
二人はそれぞれサフィーラ公爵家やルビウス公爵家からの迎えの馬車を事前に断り、乗り合い馬車などを使ってベーテニア王国へ向かう。
それぞれの家の迎えだと、一緒に行けないのだ。
おまけに西マギーアと東マギーアは敵対しているので、エヴリンとギルバートが恋仲であることは生家にまだ知られるわけにはいかない。
「何だか大冒険ね」
エヴリンはギルバートと手を繋ぎながら歩き、クスッと微笑んでいた。
「そうだな」
ギルバートも柔らかく表情を綻ばせた。
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エヴリンとギルバートは複数の国を越え、数泊しながらベーテニア王国に到着した。
(ベーテニア王国……ソルセルリウム帝国へ行く時に通ったけれど……西マギーアと発展の具合が似たような感じよね)
エヴリンはそう思いながら乗り合い馬車から見える景色を眺めていた。
「エヴリン様」
「ギルバート」
馬車から降りた二人を出迎える者達がいた。
片方はエヴリンにとって見知った顔だった。
エヴリンは表情を明るくし、彼女の元へ向かう。
「スザンナ様、お久しぶりね」
エヴリンが声をかけたのは、同郷である西マギーアの侯爵令嬢スザンナ・アミティスタ。
エヴリンと同い年である。
ピンクブロンドの長い髪に、紫の目の持ち主だ。
背丈はエヴリンよりも低いが、どことなく大人びておりミステリアスな雰囲気を漂わせている。
エヴリンがチラリと隣を見ると、ギルバートはもう一人の者に声をかける。
「ジェレマイア、久しぶりだな」
「ああ」
ジェレマイアと呼ばれた者がフッと笑う。
赤毛、鮮やかな緑の目の持ち主だ。
(赤毛……東マギーアの貴族の特徴だわ……。ギルバート様の友人よね?)
ギルバートと出会う前は、東マギーアの者への警戒心は強かったエヴリン。
しかし、ギルバートと出会って以降、そのような警戒心は消えていた。
(ギルバート様の友人だもの。きっと真っ直ぐなお方なのでしょうね)
エヴリンは柔らかに口角を上げた。
「エヴリン嬢、彼は俺の幼い頃からの友人だ。東マギーアのエメラルディン侯爵家長男ジェレマイア」
ギルバートはエヴリンにそう紹介してくれた。
「ジェレマイア、こちらは西マギーアのサフィーラ公爵家長女のエヴリン嬢だ」
ギルバートはエヴリンのこともジェレマイアに紹介してくれた。
「初めまして。ジェレマイア・エメラルディンと申します。エヴリン嬢、貴女のことはギルバートから手紙で聞きました」
「お初にお目にかかります。エヴリン・サフィーラでございます。ギルバート様の友人にお会い出来て光栄ですわ」
エヴリンはジェレマイアと握手を交わした。
(良い人そうだわ)
エヴリンはホッとしていた。
「ギルバート様、私の友人も紹介するわ。彼女は西マギーアのアミティスタ侯爵家長女スザンナ様よ。スザンナ様、彼は東マギーアのルビウス公爵家長男ギルバート様」
「ギルバート・ルビウスだ。よろしく頼む」
「スザンナ・アミティスタと申します。エヴリン様からお話は軽く伺っております」
ギルバートもエヴリンやジェレマイアがした時と同じように、初対面のスザンナと握手を交わした。
「スザンナ嬢、そろそろエヴリン嬢とギルバートを僕達の拠点に案内しないか?」
「ええ、そうね、ジェレマイア様」
ジェレマイアの言葉にそう頷くスザンナ。
(スザンナ様、東のジェレマイア様と友好的だわ。ベーテニア王国の西と東に関する手紙の内容はやっぱり本当みたいね)
スザンナとジェレマイアの様子を見たエヴリンはそう感じた。
エヴリンとギルバートはスザンナとジェレマイアに連れられてある建物にやって来た。
「ここは東西マギーアからの留学生が交流に使うサロンです」
ジェレマイアがそう説明してくれた。
サロンにはそこそこ多くの人数がいた。
ベーテニア王国に留学している西マギーアと東マギーアの者達である。
まだ祖国に帰っていない者達が多い。
蜂蜜色やブロンド系の髪の者達、黒系や赤系の髪の者達が混在している。
「私も、最初は東の方々との交流には戸惑いましたが、私よりも先にベーテニア王国へ留学している西の方々が東西の融和を目指していることを聞いたり、実際に東の方々とお話をしていたら、少しずつですが色々と考えが変わりましたわ」
スザンナは懐かしそうに表情を和らげている。
「まあ、スザンナ様も。……私も、ギルバート様と出会う前は、東マギーアのことを怖い国、悪い国だと思っていたわ」
エヴリンはスザンナと懐かしむように話していた。
「ところでエヴリン嬢はギルバートと同じソルセルリウム帝国の魔法学園に留学をしているのですよね? どのようにしてギルバート交流を開始したのです? ソルセルリウム帝国に留学する者は、西でも東でも少ないので、お互いの存在に気付ける確率も低いのでは?」
ギルバートと話していたジェレマイアがエヴリンの方に顔を向ける。
東西の交流を図る為、ギルバートではなく敢えてエヴリンに話しかけたようだ。
「確かにそうかもしれません。ですが、ギルバート様とは魔獣観察の授業が同じで、偶然ペアを組むことになったのです」
「あの時は俺も少し驚いたな」
エヴリンはギルバートと共にクスッと笑った。
実はスザンナやジェレマイアには、エヴリンとギルバートが恋仲であることはまだ伝えていない。
いつ伝えるかエヴリンとギルバートは探っていた。
そろそろ伝えようかとギルバートはエヴリンにアイコンタクトを取ると、エヴリンは頷いた。
「実はね……」
エヴリンはチラリとギルバートを見ながら、少し緊張気味に切り出す。
「俺とエヴリン嬢は恋仲だ」
ギルバートははっきりと皆に向かってそう言った。
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