少しの希望
恋人同士になったエヴリンとギルバート。
二人は学園で一緒にランチを食べたり、共に過ごす時間が今まで以上に増えていた。
エヴリンはギルバートからプレゼントされたラナンキュラスの髪飾り、色違いのブレスレット、そして薔薇のネックレスを常に着用している。
二人は日々幸せな時間を過ごしていた。
この日の昼休みも、エヴリンとギルバートはカフェテリアでランチを食べながら話をしていた。
「エヴリン嬢、もうすぐ夏季休暇だな」
「ええ、そうね」
学園は夏季と冬季に長期休暇がある。
ソルセルリウム帝国以外から留学している生徒はこの機会に一時帰国をしたりする。
「あのね、ギルバート様……」
エヴリンは覚悟を決めたような表情になる。
「夏季休暇中、東マギーアに行ってみたいの」
「エヴリン嬢が、東マギーアに……!?」
ギルバートは驚き、真紅の目を大きく見開いた。
エヴリンは「ええ」と頷いて言葉を続ける。
「私はもちろん西マギーアが好きよ。祖国だから。正直に言うと、最初は東マギーアが怖いとも思ったわ」
少し喉が渇いたので、エヴリンはそこで一旦紅茶を飲む。
ギルバートは黙って話を聞いてくれている。
「だけど、ギルバート様の祖国だから、もっと知りたいと思うの。……怖いと言う気持ちもまだ少しあるけれど、それは西でそう教えられたからというだけ。貴方のような方もいると知ったわ」
エヴリンはまた一口紅茶を飲んだ。
「人は、環境や周囲の人々に左右される。ギルバート様が真面目で真っ直ぐなのは、お祖母様だけでなく、他にも周りに素敵な方達がいたからだと思うの。だから、信じてみたいと思ったの。それに、西も東も光の女神ポース様と闇の神スコタディ様を信仰しているじゃない」
ふふっと柔らかく笑うエヴリン。
その青い目は、真っ直ぐだった。
「エヴリン嬢……!」
ギルバートは嬉しそうな表情になる。
しかしすぐに何かを考え込むような表情になった。
「ただ、エヴリン嬢の髪色だと一発で西の人間だとバレるんだ」
エヴリンの髪色は蜂蜜色。
西マギーアの貴族は蜂蜜色やブロンド系、淡褐色など色素が薄めの髪が多い。
東マギーアの貴族は黒系や赤系の髪が多い。
エヴリンが東マギーアに行けば、すぐに彼女が西マギーアの人間だとバレてしまい危険な目に遭う可能性が高い。
その逆で、ギルバートが西マギーアに行った場合も、すぐに彼は東の人間だとバレてしまう。
「髪色を変える魔道具を使えば解決するのでは?」
エヴリンはきょとんとしているが、ギルバートは難しそうな表情になる。
「東マギーアは魔道具に対して制限がある。持ち込みもほぼ禁止だ。だから、東マギーアに入る時に取り上げられる」
「まあ……」
エヴリンは困ったように苦笑する。
当たり前のように魔道具に触れて来たエヴリンにとっては衝撃的だった。
「だから、原始的なやり方で髪色を変えるしかない。植物か何かから抽出される染料を調達しよう」
ギルバートはフッと笑った。
「本当に原始的なやり方ね」
エヴリンはクスッと笑った。
「でも……夏季休暇が楽しみになって来たわ」
エヴリンはカフェテリアの窓の外に目を向ける。
日差しは強くなっており、既に夏の気配を感じた。
「そうだな」
ギルバートも窓の外に目を向ける。
「俺も、夏季休暇に西マギーアを見てみようと思う。エヴリン嬢、付き合ってくれるか?」
「ええ、もちろんよ」
エヴリンはギルバートの言葉に嬉しそうに頷いた。
「エヴリン嬢、それぞれ西と東に行く日程はいつにするか?」
「そうね……一旦隣国、ベーテニア王国に寄ってからにしたいわ。ベーテニア王国に留学中の友人がいるから、会おうと思って」
エヴリンは少し考え、そう発言した。
「ベーテニア王国か。俺の友人の中にもその国に留学中の者がいる。せっかくだし俺も彼らに会ってみるか」
エヴリンの言葉を聞き、ギルバートは予定を練り始めた。
ベーテニア王国は、西マギーアと東マギーアに隣接する国である。
かつて一つの国だったマギーア王国が西マギーアと東マギーアに分裂する時に介入した中立国だ。
ベーテニア王国の魔法学園は、西マギーア、東マギーア両国からも留学生を受け入れているようである。
二人は昼休み中、カフェテリアでずっと夏季休暇の予定を立てていた。
᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥
数日後、エヴリンの元に手紙が届く。
エヴリンは少し前にベーテニア王国留学中の友人に手紙を書いていた。
今回届いた手紙はその返事である。
「まあ……!」
エヴリンは手紙の内容に驚きの声をあげた。
「ギルバート様にもこの事実を伝えた方が良いわよね」
エヴリンは口角を上げる。
それは期待に満ちた表情であった。
エヴリンはすぐにギルバートの元に向かう。
「ギルバート様、この手紙を見てちょうだい」
「おお、これは……!」
ギルバートは驚くと同時に嬉しそうに表情を綻ばせていた。
「ベーテニア王国では、東と西が共同になるコミュニティーを作っているとは」
エヴリンの友人からの手紙にはこのような内容が書いてあった。
ベーテニア王国にも西マギーアと東マギーアの留学生がそこそこいること。
両国の留学生は最初は対立気味であったが、次第に理解を深めたこと。
そして今では共同のコミュニティーを形成し、西マギーアと東マギーアから来る新たな留学生を迎え入れていること。
どうやらエヴリン達のような若い世代は、西マギーアと東マギーアで対立しない道を進もうとしているようだ。
「私、ソルセルリウム帝国に留学しなかったら、きっとお祖父様や周囲の大人達の影響で理由なく東マギーアを嫌い続けていたかもしれないわ。……まだ実際の東マギーアを見たことがないから、少し怖いと思っている部分はあるけれど」
ポツリとエヴリンはそう漏らす。
「確かに。俺も、西マギーアに対する憎悪や偏見が少ない祖母がいなければ、理由なく西を毛嫌いしていただろうな。魔道具に対する抵抗は少しあるが」
ギルバートはフッと笑う。
「だけど、ソルセルリウム帝国に留学したからこそ、ギルバート様に出会えて、東マギーアを知りたいという気持ちが芽生えたの。それに、ベーテニア王国の方に留学している方々はもっと東西の融和に向けて進んでいる」
エヴリンの表情は明るくなる。
もしかしたら堂々とギルバートと一緒にいられる世界になる可能性が少し見えたのだ。
「ああ。俺達もまずはベーテニア王国にいる者達と合流して、情報を得よう」
ギルバートは力強く頷いた。
エヴリンとギルバートは手を取り合う。
二人の右手に着けてある、ルビーのブレスレットとサファイアのブレスレットは窓から入る陽射しで輝いていた。
「まあ、その前に夏季休暇前の試験を頑張らないといけないのだが」
ギルバートは悪戯っぽい表情になる。
「そうね」
エヴリンは試験の存在を思い出して苦笑した。
「私、魔法薬学は自信あるけれど、魔力強化の方は自信があまりないのよね」
「エヴリン嬢、魔力強化は俺の得意分野だ。良かったら教えるぞ」
「ええ。ギルバート様にお願いするわ」
「任せてくれ。その代わり、魔法薬学を教えてくれ」
「分かったわ。放課後一緒に勉強しましょう」
二人は希望に満ちあふれた表情で、クスクスと笑っていた。
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