飲み会回避のため、卓上カレンダーに架空の彼女との予定を書いてみた。
「下野、今週金曜の飲み会、幹事を頼むな」
昼休み。上司が俺が参加するという前提で話を振ってきた。マジ勘弁。俺は脳みそをフル回転させる。
「あ、すみません。金曜の夜は予定があって」
「どんな予定だ」
聞くなや。
「恋人とデートの約束があるので」
「先約があるなら、まあ仕方ないなぁ。……おーい、山本ー。幹事してくれ」
部長は他のやつにターゲットを変えた。すまん山本。
お酒苦手なんで、飲み会で酒を強要されるのは嫌だ。上司の愚痴を聞かされるのもうんざり。俺は会社のデスクの卓上カレンダーに、架空の彼女との予定を書き込むことにした。
俺の予定はありもしないデートで埋まった。
お弁当は、アパートの近所にある惣菜屋で買ったおかずをそれっぽく詰めて持ってくる工作も施した。
同僚や上司に見られても怪しまれない……はずだ。
ある日、同期の山本がカレンダーを見て話を振ってきた。
「下野さん、今週末は横浜でデートですか。私もその日デートなんで、どうせなら賑やかにダブルデートにしません? 私の彼、賑やかなのが好きで」
架空の彼女だから無理ゲーである。
「ごめんな、悠衣子は人見知りだから」
逃げ口上に、高校時代の同級生の名前を借りてしまった。巽、超ゴメン。
俺の架空デート作戦は功を奏して、飲み会に誘われることはなくなった。
しかし、その代わりに同僚たちが架空彼女の話題で盛り上がり始めた。
下野さんの彼女は、お料理上手でお弁当手作りしてくれるし掃除洗濯もできるのに仕事もきっちりこなす超完璧キャリアウーマン……という人物像が出来上がった。
なにそれそんな彼女欲しい。
上司が一言。
「下野。今度、彼女さんも一緒に飲み会に誘ってみたらどうだ? それなら彼女さんも安心する。我ながら名案だ!」
無理無理無理無理。
どうにか断ったが、次第に嘘を突き通すのが苦しくなってきた。
ある日、山本が言ってきた。
「彼女さんがお料理上手なら教えてほしいな。私の彼氏、肉じゃがが一番の好物って言うから作ってあげたいんです。予定は彼女さんの都合に合わせますから!」
彼女(仮)に合わせられるようにする気遣い。料理教室行きなよとは言いにくい。
「い、一応彼女に聞いておくけど、OKしてくれるとは限らないからな」
「はい!」
ひとまずその場を切り抜けた。
架空の彼女が完璧すぎて、別の危機に陥る日々を送ることになる俺だった。