5. 2日ぶりの一緒
時計を見上げると、17時30分でした。
着替えもありますし、準備をした方が良いですね。
自分で気づけて良かったです。
あともう少しという気持ちを抑えて、パズルから手を離します。
「カラン、お夕食の準備をしましょう」
「了解いたしました」
カランはよくできましたというような顔をして、頷きました。
「今日はこれでいかがでしょう?」
「いつものよりも少し豪華ですね」
「今日はファリナ様とクリム様が2日ぶりにご夕食の席に付かれるようですから」
そういえば、今日お帰りになるとのことでしたね。
2日とはいえ久しぶりにお会いできるのは嬉しいです。
何をお話いたしましょうか。
新しく習ったことをお話したら、お母様とお父様は褒めてくださるかしら。
−−−−−
食事の間につくとお父様とお母様はもう座っていらっしゃいました。
お母様は私と同じ碧眼に銀髪で緩い三つ編みで髪を結んでいます。
お父様は緑色の目にお姉様と同じ金髪です。
「お久しぶりです、お父様、お母様」
「えぇ、久しぶりね、ルリィ。お誕生日おめでとう」
お母様の出身地の習慣らしく、お母様は私のことを愛称で呼びます。
「久しぶり、ルメリア。そして、お誕生日おめでとう。授業が始まったようだけど、どうだい?」
お父様は変わらず落ち着いた笑みで私を迎えます。
「ありがとうございます、お父様、お母様」
私のお誕生日覚えていただけていたのですね。
もしかしたら、覚えていただけていないかもしれないと思っていたので祝っていただけて嬉しいです。
なんとか、淑女らしく御礼を言えたと思いますが、つい口が緩んでしまいますね。
「授業では新しいことを学べて楽しかったです」
「エリス先生にもう綺麗に立つことが出来るようになった、と聞きましたよ。よくできましたね」
「習い始めてすぐなのに凄いな」
褒めていただけました。
それに、お家に帰ってきて直ぐなのにもう私のことについて聞いてくださっていたのでしょうか。
「いえ、これからも頑張ります!」
嬉しくてつい気合いがこもってしまいます!
「お久しぶりです、お父様、お母様。こんばんは、ルメリア」
お姉さまもいらっしゃいました。
私の隣に座ります。
「久しぶりね、フローラ」
「久しぶりだね、ルティフローラ。では、夕食を始めようか」
お父様がそう言うと直ぐに、お料理が運ばれてきました。
やっぱり、4人で囲む食卓は賑やかですね。
2日目ぶりにお会いしたためかお話はいつもより会話が弾みます。
「フローラ、お披露目までもう少しね。準備は出来ていますか?」
「はい、一通りは出来ています」
「そうですか。では、明後日リハーサルをしましょう」
お披露目というのは、6歳になるときに他の領主の方々に自分の子供をお披露目する儀式のことでしたよね。失敗は許されないとお母様が仰っていたように思います。
想像するだけでも恐そうです…
皆のお皿が空いてきました。
いつもでしたらお父様が「ごちそうさま」の挨拶をするのですが、今は扉の方を見ていらしゃいます。
どうしたのでしょう?
それに、何だか雰囲気がふわふわしているような。
扉が開き"ごろごろ"とワゴンをおす音が扉の方から聞こえてきました。
あれっ!
大きなケーキではありませんか!?
それもろうそくは4本!
もしかしてっと思ってお父様とお母様を見ると、お父様は"そうだよ"というように頷き、お母様は"上手くいった"というような悪戯っぽい笑顔で私に笑いかけました。
「ルリィ、お誕生日ケーキよ。当日はお家に居れなかったから、今日料理長に相談して用意してもらったの。改めてお誕生日おめでとう」
「ルメリア。お誕生日おめでとう。4歳になってこれからも大変なことがあると思うけど頑張るんだよ。」
「お誕生日おめでとう。ルメリア」
「ありがとうございます」
不意打ちはずるいです。
本当はお父様とお母様がいらっしゃらなくて、寂しかったし、大事に思っていないのかなって思ったりしてしまったのです。
だから嬉しくて、嬉しくて胸がいっぱいです。
「ルリィ」
皆がカトラリーを置いた頃、お母様から声をかけられました。
「明日の朝、私の部屋にいらっしゃらい」
「はい、承知いたしました」
お母様はいつものお優しい笑顔ではなく、真面目な笑みを浮かべています。お母様が真面目なお顔をするときは真剣なお話の時です。
どんなお話なのか気になりますが、明日の朝まてお預けなのでしょう。
「では、「「「ごちそうさまでした」」」」
お父様の合図で食事を終えます。
「2人ともおいで」
「「はい」」
「おやすみ」
いつもどおりお父様とお母様とおやすみの抱擁をかわします。
温かい抱擁はとても心地よいがです。
「では、おやすみなさい。お父様、お母様」
「はい、良い眠りを」
「2人ともお休み」
食事の間でお二人と別れます。
廊下ではカランとエルムが待っていました。
「では、お二人とも、お風呂へ参りましょう」
その時です。
ドガン ドシャ ガラガラ
外から何か崩れるような大きな、大きな音が聞こえましました。