1. お姉さまは凄い
「お初にお目にかかります。ルメリア・ラカルトと申します。よろしくお願い致します」
「もっと背筋を伸ばしてください!顔もあげて。貴方は公爵家の娘ですよ。もっと堂々となさい」
また、叱られてしまいました。体が揺れないようにすると、背筋が曲がってしまってとても難しいのです。
それに、先生は厳しい方ですし、声も大きいのでついびくついてしまいます。
隣ではお姉さまがレッスンを受けていらっしゃいます。先生には代わる代わる私達を見ていただいているのです。先生によると姉妹で一緒に受けると互いが影響し合ってすぐ上達するとのことでした。何故なのかは私にはよくわかりません。
次はお姉さまが見ていただく番です。お姉さまがお辞儀をすると、その艶やかな金髪の髪が背中にぱさりと広がります。お姉さまのお辞儀はそれはもう私とは比べものにならないほど優雅で素敵なものでした。
先生も当然とばかりに続きの挨拶を見ています。
「お初にお目にかかります。ルティフローラ・ラカルトと申します。以後よろしくお願いいたします。雪の降りゆくこの頃、貴方とお会いできたことに感謝申し上げます。」
「もっと自然体でいてください。お会いできて嬉しいとこちらに伝わるようでなくてはなりませんよ」
「はい、分かりました。先生」
「さぁ、今日はここまでです。ですが、常日頃から淑女らしい動作を心掛けてくださいね。でなければ、ボロがでますよ」
先生はいつものようにレッスンが終るとすぐホールから出て行きました。そのとたん、張つめた空気が緩み私もピンと伸ばした背をつい緩めてしまいます。
ですが、お姉さまは綺麗な姿勢を保ちながら私に笑いかけてくださいました。
「ルメリア、昨日よりもずっと上達していましたね」
「いえ…。私は先生に叱られてばかりで…。それこそ、お姉さまは全ての所作がとても美しものでした。」
「いいえ、昨日は綺麗に立つところでつまづいていたのに、今日はお辞儀まで練習していたではありませんか。レッスンを受け始めてまだ2日目だと言うのに凄いです。あの先生はあまり誉めてはくださらないので気付きにくいと思いますが貴方は十分成長していますよ」
お姉さまはそう言って、透き通るように綺麗な青色の目を私に向け、頭を優しく撫でてくださいました。
気付きもしませんでした。
物心つくときからずっと私についてくれていた側仕えのカランは厳しいところもありましたが、何か出来ると必ず、目を合わせて「良く出来ました」と褒めながら微笑みかけてくれました。
だからでしょうか。
褒めてくださらないということは、何も出来ていないダメな子なのだと思っていたのかもしれません。
それに、先生には叱られてばかりでしたし。
なのに、お姉さまは私を褒めてくださいました。
お姉さまは自分のレッスンもあるなか私のことも見守っていて、出来るようになったことに気付いていてくださったのです。
自分なりに頑張っていたのに全然出来なくて、落ち込んでいた心が晴れていきます。
それにあのように、とても美しい所作を見せていたお姉さまに褒められると、とても嬉しいくてつい口角が上がってしまいます。
「ありがとう存じます。お姉さまのお辞儀もとても素敵でした」
「いいえ、私はルメリアよりも2年も長くレッスンを受けているのです。これくらい当然ですよ」
お姉さまは少し寂しそうにそう言いました。
でも私そんなことないと思います。
お姉さまがレッスンの外でもたくさん、ご挨拶の練習をしているのを見てきましたから。
「当然ではないですよ。それは、先生がおっしゃったのでしょう?お姉さまの挨拶は指の先まで一つ一つが優雅でとても素敵でしてよ。私、お姉さまのように綺麗なお辞儀が出来る方はお母様しか知りません」
とにかく、お姉さまが凄いってことを伝えたくて、少し勢いあまって伝えてしまいました。じっと見ていたのがバレてしまったようで恥ずかしいです。
「ありがとう。ルメリア」
するとお姉さまもびっくりしたように少し目を見開いたあと、柔らかく笑ってそう伝えてくれました。
その笑顔は花が咲くようでとても可愛かったです。