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花と氷  作者: わたあめ
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波乱

花菜がいつものように図書室で勉強していると、正面に誰かがすわってこちらを見ている気がした。顔を上げると、2組の桜井君がニコニコしながらこっちを見ている。


「あ、もしかしてここ使う?」

「ううん、早田さんと話してみたくて」


どういうことだろうか、瞳子なら美人でモテそうだから好意を持たれてこういわれることはありそうだが、私の場合は多分違う。ということは・・・


「私何かやらかしましたか?」

恐る恐る聞く。桜井君は驚いた顔をした後に

「何も。おれ、深山の友達なんだ。よろしくね、早田さん」


桜井君は深山君の友達なのか。私は深山君のことをまだ何も知らないんだな、と花菜は思う。


「よろしく」

なんて言っていいのか分からずとりあえず答える。


「深山が君を選ぶなんてちょっと意外だった」


桜井君は周りに誰もいないけど小声で話す。


「それは、私もです」


つられて花菜も小声になる。


「おれはさ、似合ってないと思う。二人は」


桜井君はニコニコしている。

「ついでに言うと西園寺さんと君もつり合わないと思ってる」


どちらについても、私も思っていることなので何も言えない。


「あの二人は君が想像する以上に上流階級の人だから、本来君が仲良くできるような人たちじゃないんだよ」

桜井君は席を立った。

「君があの二人から離れてくれることを俺は心から望んでいる」

冷たい笑顔でそう言って去っていった。


そうだよね。でもそれは二人が決めることだから自分から離れるのは違うと言い聞かせてはみるが、心には小さなとげが刺さったように思った。


次の日、3組の女子5人がうちのクラスにやってきて花菜の席に立ちはだかった。

「早田さん、ちょっといい?」

ただならぬ雰囲気にクラスがざわつく。

「花菜に何の用?」

瞳子が毅然とした態度で言う。

「西園寺さんには関係ないの、騒がせてごめんなさい」

花菜に対する態度とまるで違う。

「早田さん、ちょっと来てくれるよね?」

分かった、と言って私は席を立ちあがる。

「花菜、私も行こうか?」

瞳子が心配そうにいう。

「ありがとう、瞳子。でも大丈夫。とりあえず行ってくるよ」

3組の5人は花菜をにらみつけている。

深山君のことかな、と察しが付く。

瞳子を安心させたくて花菜はできる限りの笑顔で手を振った。


「深山君と付き合ってるって聞いたんだけど」

やっぱりそれか・・・花菜は認めるべきか迷って何も言えずにいる。

「自分の顔、鏡で見たことある?」

そりゃあ、あります。深山君とお似合いではないことも分かってます。と花菜は思う。

「あんたみたいなブスが深山君と付き合ってると思うと吐き気がするのよ」


ブスという言葉は気を付けていても心が痛む。


「西園寺さんだって、本来あなたが呼び捨てにしていいような人じゃないのよ。」


そりゃあね…松濤に住んでる二人と23区ですらない私とではね・・・


「とにかく、自分の立場を考えて行動しなさいよ。あなたみたいなのと一緒にいると二人の評価が下がるのよ」


私ごときで二人の評価は下がらないと思うけれど、もしそういうことになったら、と思うと声が出ない。


「あんまり調子に乗るとただではおかないから」


そう言い残して5人は去っていった。怖くて悲しくてショックで。

花菜の心はいろんな感情でぐちゃぐちゃになっている。


トボトボと教室のほうへ歩いていく。

メンタルは割と強いと思っていた花菜だが、やっぱり人からああいうことを言われるのは、なかなか精神的にきつい。


教室に戻ると瞳子が心配そうに声をかける。

「大丈夫?何を言われたの?」。

「大丈夫、大丈夫。ちょっと身の丈というものを教えてもらったというか。そんな感じ」

自分でもよく分からないことを言ってしまった。

「そんな・・・」

瞳子が言いかけたところでチャイムが鳴った。

授業始まるから、席につこう、と花菜は瞳子に着席を促した。

瞳子は席に着いてからも心配そうに花菜のほうを何度も振り返った。

花菜はそのたびに力なく手を振り返すことで精いっぱいだった。


授業が終わると瞳子は一緒に帰ろうと言った。

花菜も勉強する気になれなかったし、一人になるのが怖かったので瞳子に甘えることにした。


「そんな、ひどいわ」

瞳子は珍しく感情的になっている。

「うん、でも5人はきっと深山君のことが好きだったから、」

「だからって」

「客観的に見て似合ってないのは事実だと思うし」

「そんなことないわ!」

瞳子が大きな声を出したのをこの時初めて聞いた。

「大きな声を出してごめんなさい。私、深山君が花菜を選んだ気持ちなんとなくわかるのよ。」

瞳子は下を向いたまま悲しそうな顔をしている。

「私と深山君は同類だから。」

「…。」


花菜も瞳子と深山は似ていると思っていた。


「ごめんなさい、つらいのは花菜なのに」

「ううん、私、瞳子が私のこと心配してくれて、その、大事にしてくれてる気がして、それにすごく救われてる。だからありがとう」


心からの本音だけれど、瞳子に伝わるだろうか、と花菜は心配になる。


「花菜・・・。これは私のわがままだけど、つらい思いさせるけど、お願いだから今回のことで私と深山君を遠ざけないでほしいの。」


瞳子の肩がかすかにふるえている。


「私、瞳子と深山君と一緒にいたい。遠ざけることなんてできないよ」


花菜はこらえきれず涙があふれ出た。

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