不穏
「深山、今ちょっといい?」
桜井涼太が深山に声をかける。最近よく絡んでくる。
「あぁ」
「3組の高橋知ってる?」
「顔見ればわかるかも」
「深山を呼び出してくれって言われてんだけど。多分告白」
告白されるときは桜井経由で呼び出されることがほとんどだ。
「俺、彼女いるんだ」
桜井は持っていたコーヒー牛乳を落とした。
「誰だよ?」
前のめりで聞いてくる。
「…1組の早田」
「いつも西園寺さんと一緒にいる子?」
「そう」
「……ごめん、意外過ぎて何も言えない。なんかもっとすげぇ美人かお嬢様かと思った。早田はないだろ。なんで?」
深山はムッとして答えない。
「それこそ西園寺さんとか」
「いや、それは絶対ない」
「なんで」
「お互い苦手なんだよ」
「そこから恋が生まれたりとか…」
「100%ない」
桜井は笑いながら、でも早田かぁ、つりあってないよと繰り返す。
「でもさ、早田と付き合ってるって周りにばれたら、早田いじめられるんじゃね?お前のこと好きな女子たちに」
考えたこともなかったが、それは困ると深山は思った。
早田が勉強に手が付かなくなるようなことは避けたい。
「分かったよ、3組の高橋な」
「16時に社会科準備室でよろしく」
深山はその日は花菜とあの場所で会う約束をしていたので15分遅れるとLINEする。
めんどくさいな、と思いながらも社会科準備へ行く。
高橋さんらしき人が待っていた。見覚えがない。
「話って何?」
深山は無表情で聞く。
「私ずっと深山君のこと好きで、付き合ってくれませんか」
「俺、彼女いるから。」
それだけ言ってさっさと部屋から出ようとする。
「彼女って誰?」
涙目の高橋が問う。
深山は一瞬立ち止まったが、
「言うつもりない」
と振り向きもせず、深山は部屋を後にした。
いつもの場所に着くと、花菜は教科書を読みながら待っていた。
「早田」
と深山が声をかけると、花菜はパッと笑顔になって深山を見上げる。
隣に座るとへへへと嬉しそうに笑う。
何がそんなにうれしいのだろうか、と深山は思いながらも照れてしまう。
「深山君の得意科目は何?」
花菜が楽しそうに聞く。
「数学かな。あと物理」
「そっかぁ、私ね数学も物理もイメージがしにくくて難しく感じるんだ。」
花菜は残念そうに言う。
「でもね、生物とか化学を根本から理解しようとするには、物理が必要なんだって中学校の時の先生が言ってたの。まだどういうことか分からないんだけど、いつか理解できるようになりたいなって思ってる」
「物理は難しい言葉も法則も多いからとっつきにくく感じるけど、日常に近い科目だと思う。」
「日常に?」
「そう、例えば物が動いたり熱が発生したり、そういう現象の仕組み。」
花菜は興味深そうに聞いている。
「早田は難しく考えずにシンプルに考えるといいのかも。数学も、物理も」
「シンプルに?」
「そう。苦手っていう気持ちは一旦おいて、教科書に書いてあることをそのままうけ止めるんだ。そういうもんだ、って。」
花菜はほうほう、と真剣に聞いている。
「早田は?得意科目」
「うーん、得意って言えるほどではないけど、生物と化学は興味があるかな!専門的に学びたい分野だから。あとは英語!海外の本とか読めるようになりたい。動物の本がね、海外にはたくさんあるんだ。」
楽しそうに話す花菜が深山にはまぶしく思えた。