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花と氷  作者: わたあめ
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体育祭①

「花菜ちゃん、委員長が呼んでるよ!」

いつものように4人でお昼ご飯を食べていると、花菜と同じ体育祭実行委員会の子が呼びに来る。

「分かった、すぐ行くね!ごめん、ちょっと私行くね」

そういって花菜は慌てて去っていく。

「体育祭の実行委員なんだっけ?」

穂高が瞳子に聞く。

「そうなの。学年の責任者みたいで最近忙しそうなの」

「部活やってても呼び出しかかるのはそういうことか。」

「無理しないといいけど」

瞳子は心配そうに言う。


授業が始まるギリギリに花菜は教室に戻ってきた。

「間に合った~」

ふう、とため息をつく。

「花菜、大丈夫?」

瞳子が心配そうに聞く。

「大丈夫だよ!」

花菜の大丈夫って本当に大丈夫なのかしら、と瞳子は思う。


この日は部活も実行委員会もない日なので、久しぶりに深山と帰れるのを花菜は楽しみにしていた。

二人で廊下を歩いていると体育祭実行委員長の一ノ瀬先輩が花菜を呼び止める。

「花菜ちゃん、体育祭のプログラムもう一度組みなおしたいって話になってるんでけど、今日話せないかな」

花菜に笑いかけた後、深山をにらみつける。挑戦的だな、と深山は思う。

花菜はさみしそうに深山を見る。

「いつでも一緒に帰れるから、気にせず行ってきなよ」

深山は一ノ瀬の視線を無視して花菜に笑いかける。

「うん…分かった」

「じゃあ行こう」

一ノ瀬は花菜の頭をポンポンと触り、横目で深山をにらむ。嫌な感じだな、と深山は思う。


「あの実行委員長、剣道部の元部長なんだよ。夏で引退したけど」

やり取りを見ていた穂高が深山に声をかける。

「まぁ、わかったと思うけど、早田のこと好きなんだよ。一ノ瀬先輩」

「ふーん」

「なんか、余裕だな」

「いや、かなりイラっとしてる」

深山は無表情のまま言う。穂高は思わず笑ってしまう。


夜、深山が勉強していると電話がかかってくる。

めったにかかってくることが無いので誰だろうと思ってみると花菜だった。


「もしもし、花菜?」

「うん、深山君、今大丈夫?」

「うん、どうした?」

「…用は…ないんだけど」

「けど?」

「声が、聴きたくて。迷惑だったかな」

花菜が申し訳なさそうにしているのが電話口からも伝わる。

「いや、いいよ。」

深山の優しい声に花菜は安心する。

「最近、深山君と一緒にいる時間がないから、ちょっと寂しかった」

ふふっと深山は笑う。

「体育祭終わったら一緒に勉強しよう」

「うん!」

と花菜は嬉しそうに言う。

「あんまり、無理するなよ」

「ありがとう」

ほんの数分の会話だけで、花菜の心は温かくなった。


「花菜ちゃん、体育祭前日の準備の振り分けするの手伝ってくれない?」

一ノ瀬先輩が言う。

「分かりました。クラスごとで振り分けますか?それとも…」

花菜が一ノ瀬の方を見ると、一ノ瀬は花菜をじっと見つめている。

「先輩?どうかしましたか?」

一ノ瀬はにっこりと笑う。

「いや、かわいいな、と思って」

花菜は驚いてフリーズする。

「花菜ちゃんが部活に入ってきたときから、ずっとかわいいなと思ってた」

どういう意図か図りかねる花菜の頭をポンポンと触れて一ノ瀬は笑いかける。


花菜はどうしていいのか分からず少し困っている。

「ごめんごめん、困らせたね。振り分けの範囲決めなきゃだし、会場の下見に行こうか。」

一ノ瀬に促されて、体育館の方へ向かう。

向かう途中、一ノ瀬は遠くに深山を見つける。深山もこちらに気が付く。一ノ瀬は花菜の腰に手を回す。

「花菜ちゃん、こっちだよ」

花菜が深山に気が付かないように逆方向へ誘導する。

一ノ瀬は挑戦的な目で深山を見るので、深山も冷たい視線を送る。

一ノ瀬はそのまま花菜を連れて体育館へと去っていった。

その様子を見た深山はイライラしていた。


一ノ瀬は面倒見がよく後輩から慕われるタイプで、いかにも体育会系といった感じだ。

まじめで誠実な性格だと穂高が言っていた。花菜に変なことをするタイプではないが、その一ノ瀬が自分に感情をむき出しにする当たり花菜のことを本気で思っているであろうことは深山にもわかった。

ここ最近、深山が花菜を校内で見かけるときはほとんど一ノ瀬といる。

花菜は一ノ瀬を特別視しているようには見えないが、一ノ瀬の花菜を見る目は好意を隠さない目だった。そのまっすぐさが、深山は怖かった。

自分とは真逆だからだった。

俺なんかかっこわるいな、と深山はため息をつく。


体育祭が早く終わればいいのに、と深山は思った。


体育祭前日、実行委員会で準備の途中で休憩をしていると、花菜の目に深山が写る。

体育祭で使用する道具を運んでいた。

「すぐ戻るね」

そういって花菜は深山の方へ走る。

それを見た一ノ瀬は花菜の後を追う。

深山が人気のない裏庭に入ったところで花菜が声をかける。


「深山君!」

深山が振り返ると、花菜は深山に抱きつく。

持っていた道具が地面に落ちる。

「おっと」

深山は体制を崩しそうになる。

「あ、ごめん」

花菜が申し訳なさそうに体を離す。

深山は花菜の腕をつかんで自分の方へ寄せて抱きしめる。

「どうした?」

深山の匂いに花菜は安心する。


「最近バタバタしていて、やることいっぱいで」

「うん」

「頭の中混乱してて。深山君に会えないのもさみしくて」

「うん」

「頭の中がいろんなことでぐるぐるして整理できないと思って混乱してたところに、深山君が現れて、気が付いたら抱きついてた。」

深山は抱きしめたままゆっくり頭をなでる。

「忙しそうだったもんな、大丈夫?」

「もうちょっとこうしてたら、元気になると思う」

「回復早いな。」

深山が笑う。

「いつも明るくふるまってるけど、しんどい時はしんどいって周りに行ってもいいんじゃないか?」

「今みんな大変だからせめて明るくふるまおうと思って」

「…。花菜のそういうところはすごいと思うけど、でも俺はすごく心配になる」

「深山君心配してくれてたんだ。うれしい。ありがとう。」

「それはいいんだけど」

「いや、謝るとこだったかな、ここは」

花菜が真剣に言うので深山は笑ってしまう。


「体育祭終わったら、また一緒にどこか行ってくれる?」

「いいよ。どこ行きたい?」

「神代植物公園行って一緒に散歩したい」

「分かった」

穏やかな声に花菜は安心し心が満たされていく。


花菜を追いかけてきた一ノ瀬はその様子を複雑な思いで見つめていた。



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