誕生日
金曜日の放課後、深山がいつものように裏庭のベンチで本を読んでいると、瞳子がやって来る。
「深山君」
瞳子が声をかけると、深山はゆっくり瞳子の方を見る。
「なに?」
「明日、何の日か、知ってる?」
深山は少し考えてから
「土曜日」と答える。
深山は真面目に答えたつもりが瞳子は軽蔑のまなざしで見てくる。
「なんだよ」
瞳子はため息をつく。
「明日は花菜の誕生日よ」
深山はやばい、という顔をする。
「やっぱり知らなかったのね」
「…。知らなかった。教えてくれてありがとう」
瞳子はやれやれといった表情になる。
「明日は部活ないみたいよ。じゃあね。」
そういって瞳子はさっさと立ち去る。
誕生日、か。と深山は考える。
そういえば誰かの誕生日を祝ったことなんてないな、と深山は思う。
とりあえず、帰りに何か買うかと思い立ち上がる。
夜、深山は花菜にLINEする。
“明日の放課後あいてる?”
“明日?あいてるよ!”
“授業午前中だし、どっかお昼食べに行かない?”
“行く!絶対行く!”
わーい、と猫がはしゃぐスタンプを花菜は送った。
“何食べたい?”
“学校の近くに新しくできたカフェ行ってみたい”
“わかった”
花菜は嬉しくて楽しみで、幸せな気持ちで眠りにつく。
朝、学校に行くと、瞳子がきれいに包装された包みを渡す。
「誕生日おめでとう、花菜」
瞳子の笑顔に花菜は嬉しくなる。
「ありがとう、瞳子!開けてもいい?」
もちろん、と瞳子は言う。
「素敵…!小物入れかな?」
「そう、アクセサリーケースなの」
ガラスでできたきれいな入れ物で、瞳子のセンスの良さを感じる。
「すごくうれしい。大事にするね」
と花菜は嬉しそうにプレゼントを眺めている。
「今日、深山君とお昼ご飯食べに行くんだ」
花菜が嬉しそうに瞳子に報告する。
「そう、それは楽しみね」
瞳子は嬉しそうな花菜の姿を見て嬉しく思った。
授業後に深山とカフェに行くと、土曜日だからか混んでいる。
「入れるかな」
と花菜が心配そうに言うと
「予約しといた」
と深山が言う。
深山君、さすが大人の対応だな、と花菜は思った。
一番奥のソファに並んで座れる席に案内される。
「何にする?」
と深山がメニュー表を渡す。
「うーん、じゃあこのランチプレートにする」
「わかった」
深山は店員に注文してくれる。
「あ、誕生日おめでとう」
「えっ知っててくれたの?」
花菜は驚く。
「うん、西園寺から聞いた。」
それが瞳子の優しさだと花菜はわかってうれしい気持ちになる。
「プレゼント、何買っていいか分からなくて。早田っぽいもの買ってみた」
そういってリボンのかかった小さな箱を渡すと、ぱぁと花菜が笑顔になる。
「ありがとう!開けていい?」
「どうぞ」
箱を開けると、春らしい花の形をしたネックレスだった。
花菜は驚きと感動で顔が真っ赤になる。
「すごく、かわいい!」
花菜の笑顔を見て深山は安心する。
「でも、こんなに素敵なものもらっちゃっていいのかな」
花菜は深山をきらきらした目で、でも少し申し訳なさそうに見上げる。
「春休みに家庭教師してちょっと臨時収入あったし」
「家庭教師?」
「そう、親戚の子だけど」
「そうなんだ。深山君のお金で買ってくれたんだ」
花菜はすごくうれしそうにずっとネックレスを見ている。
「つけてみていいかな」
「うん」
花菜が自分でつけようとすると、深山がネックレスをもって花菜の首に腕を回してつけてくれる。
抱きしめられるような態勢になり花菜はドキドキする。
「つけた」
花菜は自分に着いたネックレスを手にもってもう一度見てみる。
本当にかわいい。これを深山が選んでくれたことも嬉しい。
「すごくうれしい!深山君、ありがとう!」
深山は穏やかに笑いかけた。
花菜はことあるごとにネックレスを視界に持ち上げては嬉しそうに見ていた。
そんなに喜んでもらえるようなものなんだな、と深山は暖かい気持ちになる。
二人でランチを食べている時間も楽しくてこのまま時が止まればいいのに、と花菜は思った。
「大好きな人に誕生日を祝ってもらえるってうれしいね」
花菜ははしゃいでいた。
「喜んでもらえて良かったよ」
深山はそんな花菜を穏やかな気持ちで見つめていた。




