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吸血鬼に口付けを  作者: 梅丸
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7,後悔と贖罪

 横たわるディーンを眺めながらアメリアはどうしても心に引っかかることがあった。

 ディーンに害を及ぼした者をこのまま黙って見逃すことができなかった。

 思い出すのは約100年前、剣先で胸を貫かれたディーンの姿。

 深い眠りの中でさえ、心に食い込んだその光景は夢の中で何度も繰り返された。

 そんな思いは二度とディーンを失いたくない気持ちを一層強くしていた。


 そして危うくディーンを失いそうになった切っ掛けを作った者。

 アメリアが長い間待ち続けた愛しい人を脅かす存在を見て見ぬ振りをすることができないのは当然のことだろう。


 いつの世にも私利私欲のために人に害を及ぼす人は一定数いる。

 その傾向は権力を所持しているものほど強いのかもしれない。

 100年前も今も本質的にその傾向は変わらない。

 あの時、ディーンを失って初めてわかった。

 アメリアの後悔は尽きることがなかった。


 レスターをディーンの兄だからと言って警戒していなかった。

 アメリアの油断で封魔の腕輪を嵌められなければディーンを犠牲にすることはなかった。

 そのことがずっと心に引っかかりアメリアの中にはディーンに対して僅かばかりの後ろめたさが残っていた。


 だから、アメリアはディーンが眠っている間に復讐を果たそうと決心した。

 あの時の贖罪を果たすように。


「ディーン、待っていてね」

 そう一言声を掛けてベランダへ向かおうとした。

 しかし、その瞬間後ろから抱きしめられる腕によって阻まれた。


「向こう見ずなところは相変わらずだな」

「ディーン、もう起きて大丈夫なの?」

 後ろを振り向きたくてもしっかりと抱きすくめられてそれは叶わなかったので腕の中に埋もれたままアメリアはディーンに問いかけた。


「それより、君は今どこへ行こうとしていたんだ?」

 ディーンはアメリアの肩を優しく掴み正面を向かせた。

 僅かに部屋に注ぐ月明かりを浴びるディーンの瞳は緋色に揺らめいていた。

 ディーンの問いに答えることが出来ないアメリアはそっと視線を反らせた。


「まぁ、だいたい予想はつくけどね」

 ディーンは、嘆息しながら苦笑した。

「アメリアの気持ちはわかるけど、ここは俺に任せて欲しいな」

「あなたをあんな目に合わせた人が誰か予想がついているのね」

 ディーンの言う意味を察してアメリアは答えた。


「ねぇ、ディーン、ディーンのお母様である第二皇妃を殺したのも同じ人物だって気がついているかしら?」

 ディーンは最初アメリアの言っている意味を直ぐに理解できなかった。

 しかし、思い当たる事があったのか双眸を大きく見開きハッとした。

「まさか……」

 ディーンの顔が苦渋に歪んだ。


 頭の中で考えを逡巡させるディーン、それを静かに見守るアメリア。


「アメリア、俺は一度皇城に戻るよ。心配することはない、必ず結着を付けて君の所に帰ってくると誓おう」

「ディーン……」

 アメリアはディーンの言葉に何かを言いたくても何も言うことは出来なかった。

 確かにディーンを殺そうとした者を許すことは出来ない。

 でも、ディーンがアメリアを見つめる瞳の中には有無を言わせぬ説得力があった。


 アメリアに向かって安心させるように微笑んだディーンは月明かりが差し込むバルコニーに向かって一歩踏み出した。

「待って……」

 ディーンの服の裾を掴み、怖ず怖ずとディーンを呼び止めるアメリア。

 ディーンはアメリアの次の言葉を待つように何も言わず目でその先を促した。

 アメリアには一つずっと心に引っかかっている事があった。

 あのパーティーの夜からずっと。


(こんな時にあの時のことをディーンに聞いて良いのかしら?私の事鬱陶しがったりしないかしら?)

そんな気持ちが心を掠めたが、やはりディーンの口からハッキリ聞きたい。

意を決して声に出す。

「あ、あの……」

 言い淀むように次の言葉を口にするのを躊躇するアメリア。

「アメリア、大丈夫だよ。君のおかげで俺は人外となったのだから、そう易々殺られはしないさ」

「そ、そうじゃなくて」

 それでも言い淀むアメリアは中々言葉を発することはできない。

「アメリア……?」


「ヒ、ヒルデ嬢だっけ?あの人はどうするの?」

 アメリアの言葉にきょとんと首を傾げるディーン。

「だから、婚約者のヒルデ嬢よ」

「あぁ……彼女は周りが勝手に決めたんだ、それに婚約者として正式に決まっていたわけじゃない。婚約者候補の1人に過ぎないよ」

 心配そうな顔のアメリアを安心させるようにディーンはアメリアの頬を両手で優しく包んだ。


「ディーン、ごめんなさい、余計な事を言ったわ」

「いいや、君がそこまで気にしてくれていたなんて嬉しいよ」

 目を伏せるアメリアをそっと腕の中に抱き寄せた。


「さあ、アメリア心配しないで、全てを終わらせてくるから」

 ディーンはアメリアの額に軽く唇で触れてから外に飛び出していった。


 白み始めた空には残月が薄い光を放っていた。




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