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吸血鬼に口付けを  作者: 梅丸
3/13

3,冥府の神と血の契約


 程なくして馬車が止まるとレイナードは馬車から降りてディーンを担ぎアメリアを誘導した。


「ここだ」


 岩壁がある場所まで行くと目で一点を示した。


 レイナードはそこに手を翳し魔力を流した。


 すると、岩壁の一部に空洞が現れた。


 よく見ると奥まで道が続いているのがわかる。


 アメリアは驚きに目を瞬いた。


「我が邸は王家の近衛兵に包囲されている。だが心配することはない。この秘密の通路を通れば、目的の部屋に辿り付ける。急ぐぞ」


 魔法灯の僅かな光りで照らされた薄暗い通路をディーンを担いでレイナードはグングン進んでいく。


 アメリアは小走りになりながらもその後に続いた。

 レイナードの後ろを追うアメリアのすすり泣く声が聞こえるが、レイナードはとにかく先を急ぐことを優先した。




 暫く進むと、魔方陣が描かれた大きな扉の前に辿り着いた。


 レイナードは手を翳して魔力を注ぎ込んだ。


 扉がゆっくりと開かれた。

 そこは白い壁に覆われた本邸の地下室、玄の祭壇がある会議室だった。




 そこには、親族会議のメンバーであったアメリアとレイナード以外の7人の顔がそろっていた。


 レイナードは部屋に入ると傍にある長いすにディーンを横たえた。


 その横にアメリアが跪き不安げにディーンに目を向けた。


「お母様、ディーンに治癒魔法を…… お願い」


 アメリアはミルドレッドの方に振り向くと涙を堪えて縋った。ミルドレッドはこのアテナ王国では最も治癒魔法に長けていた。


「無理よ…… ご免なさい…… 私の手には余るわ……」


 ミルドレッドは首を左右に振ると声を振り絞るように呟いた。


 ディーンを一目見てもう既に命の灯火が消えてしまっていることを察していた。


 この中で唯一治癒魔法を使えるのはミルドレッドだけだったが、命の灯火が消えてしまったらどうすることもできなかった。


 死者を生き返らせることなど誰にも不可能であった。




「うそよ…… うそだわ…… ディーンが死ぬなんて、そんなこと……」


 アメリアの泣き声が辺りに響いた。


 この世の終わりが来た様な悲痛な叫び声は、周りの人たちも見るに耐えず慰めの言葉さえかけることが出来なかった。


「ディーンを失って私はこれからどうやって生きていけばいいの? もう生きている意味が無いわ……」


「アメリア!」


 アメリアの呟きにそう言って頬を叩いたのは母親のミルドレッドだった。


「あなたがここで死んでしまったらディーンは無駄死にしたことになるのよ!」


 目を大きく見開くアメリアに涙を流しながらミルドレッドは諭した。




「ねぇ、アメリア、これから私たちは古の魔方陣を展開して禁術を行うわ。ディーンを失ったあなたが絶望するのは分かるけど、でも希望が無いわけじゃないわ」


「どういうこと……?」


 ミルドレッドの言葉にアメイアは疑問を投げかけた。




 血の契約、それがミルドレッドの言う禁術である。


 血の契約は冥府の神との契約であり、古くからドラキュリア伯爵家に伝わっていた。


 契約を交わすと命の限りが無くなり、強靱な肉体と異能を手に入れることができる。


 異能とは冥府の神より授かる恩寵であり魔力を必要とせず力尽きることはない。


 血の契約を行うためには、特殊な魔方陣が必要だった。


 契約出来る資格を持つ者はドラキュリア伯爵家の血を持つ者だけ。




 しかし、魔方陣を発動するためには、膨大な魔力が必要なためそれが成った者は魔力が失ってしまう。


 つまり、その代償に今後魔法を使うことが出来なくなり、相手からの魔法も効かなくなる。

 そしてもう一つ、人外となった身体は他の生物から直接生命エネルギーを取得する必要がある。

 その方法は、直接血液を奪うか直接生命エネルギーを奪うかの二択である。

 しかし、後者の方法は力を定着させてからじゃないとできない為、それまでは前者の方法に限られた。


 それが吸血鬼(ヴァンパイア)と呼ばれる所以であった。


 とはいえ、冥府の神から授かる恩寵により異能が使える様になるのでそれでも余りあるのだが。


 但し、成人前の子供が行うと術が完了する前に魔力が尽き命を失う可能性が高い。


 そのため、術が失敗しない為術を行うのは魔力豊富で安定している成人に達した者のみとされていた。




 人外となるために冥府の神の眷属になり、人間の生命エネルギーを糧として生きることを余儀なくされる。

 

 それが、吸血鬼(ヴァンパイヤ)となる為の禁術。


 ドラキュリア家が消滅するほどの危機に瀕した場合にたった一度だけ行える切り札だった。


 そのことは全て「玄の書」の封印が解かれ、書の中に示されていた。





 ミルドレッドの魔法属性は、光。


 治癒能力はそれなりに高かった。


 更にもう一つ備わっていた力は、予知能力。


 この事態は、20年以上前から予見していたため、「玄の書」に注視していた。

 本当はこの事態を回避するべく対処したかったが、どの様な策を練っても結局この運命を避けることが出来なかった。




 そして、ミルドレッドは長いすに横たわるディーンと嘆き悲しむアメリアの未来がうっすらと見えていた。


(大丈夫、この二人は何れまた巡り会うわ。ディーンの来世で)




「ディーンは死んでしまったけど、輪廻の輪の中にいるわ。生まれ変わったら何れまた会えることが出来るでしょう。だってあなたたちの魂に繋がる運命の糸は消えてはいないのだから」


「運命の糸……?」


「そうよ。でも、あなたまで死んでしまったら、今世での記憶を失ってしまうわ。生まれ変わってもディーンに出会えるかどうかわからないわ。だから血の契約でディーンが生まれ変わるまで待つのよ。そしてあなたと血の契約を結んで血の眷属になればいいわ」


「お母様……」


 アメリアはミルドレッドの言葉に一筋の希望を見いだした。

 吸血鬼(ヴァンパイア)となったものは血の契約により、人間を血の眷属にすることができる。

 つまり、生まれ変わったディーンと血の契約を結んで同じ時を生きることができるのだ。


「その通りだ。それにレイナードの話だとレスターはあの場所から逃げてしまった可能性があるようだ」

「えっ? お兄様が風魔法で倒したのではなかったの?」

 フレディリックの言葉に目を丸くしてアメリアはレイナードの顔を見上げた。


「あぁ、レスターがあの場所から去るのを目の端に捉えた」

 レスターがフレデリックの言葉に重ねた。


「じゃぁ、ディーンを殺したレスター様はのうのうと生きているのね…………」


(ディーンが死んでしまったことは全然受け入れることが出来ない。でも、このまま命を絶ってしまえばディーンの仇を討つことはできないわ)

 レイナードの言葉でアメリアの目に憎しみの炎が灯った。







「ああ、その通りだ。このままで良いわけ無いだろう? いまこそこのドラキュリア一族の力を示すときだ。さあ、早速儀式を始めよう」


 フレデリックは、魔方陣へ集まるように促した。


 ここで、術をかけるのはドラキュリアの血族のドラキュリア伯爵家当主フレデリック、嫡男レイナード、長女アメリア、フレデリックの弟ダニエルの4人である。




 ドラキュリア家の血を持たないドラキュリア伯爵夫人でレイナードとアメリアの母であるミルドレッド、ダニエルの妻のティタニア、まだ成人に達していないダニエルとティタニアの子メイファ、リゼッタ、ダルクは後に血の眷属として契約することになった。




「私たちが出るまでここで待つように」


 フレデリックは術をかけない者達にそう言うと一旦別の部屋に移動させ、術をかける者は魔方陣の中に入った。中心には「玄の書」が置かれていた。




 それぞれの血を玄の書に流す魔方陣が発動し、魔力が高まっていく。次第に黒い霧が魔方陣を中心に立ちこめ4人を包んだ。


 すると、4人は意識が遠のき床に倒れ込んだ。


 それは数秒のことにも数時間経ったようにも感じられた。


 最初にフレデリック、その後レイナード、ダニエル、アメリアの順に意識を回復して立ち上がった。





「「「「さあ、復讐を始めようか」」」」





 口角を上げて妖しげに微笑む4人の髪色は漆黒に変化し、瞳は紅く揺らめいていた。




 吸血鬼(ヴァンパイヤ)の始祖が誕生した瞬間だった。


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