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吸血鬼に口付けを  作者: 梅丸
10/13

10,復讐と傀儡の王

今回で完結です。

「まぁ、アメリア、とてもよく似合っているわ」

「お母様、ありがとう」

 ミルドレッドの言葉に嬉しそうに応えるアメリア。

 深い蒼のドレスはディーンの瞳の色。

 大振りの花の刺繍はディーンの髪と同じ銀色で豪華さの中にも品があった。

「お母様、言ってくるわ」

 今回はドラキュリア伯爵家の馬車で皇城に向かった。

 血の眷属である御者と従者を携えて。

 黒曜石(オブシディアン)の居城を背に馬車は走り出した。

 血の結界が張られた馬車は魔獣さえも近寄ることはできない。


 今回は正式な招待だから堂々と馬車で行けるわね

 アメリアは最初に行ったときのパーティーを思い出していた。


 皇城に着くとディーンが出迎えてくれた。

「ああ、アメリア、何て綺麗なんだ。冥府の神に攫われてしまいそうで心配になるほどだ」

「ふふっ、ディーンありがとう。ディーンも素敵よ」

 差し伸べられた手にエスコートされアメリアは軽やかな足取りでディーンと共に会場に向かった。

 皇族が入場し、ディーンの横にいるアメリアに目を止めるた会場中の貴族達の間にざわめきが起こった。


「どちらのご令嬢だ?」

「見ない顔ね」

「他国の姫か?」

 口々に上る憶測を無視してアメリアはディーンの婚約者として紹介された。

 そして、もちろん皇太子も第二皇子ディーンが任命された。


 パーティーは滞りなく開催されているかに思われた。


 ふとアメリアはディーンの後ろに目を止めた。

 近寄ってくる令嬢に見覚えがあったためだ。

 アメリアの目線に気がついたディーンは後ろを振り向いた。


「殿下、この度はおめでとうございます。ご婚約と立太子を心よりお祝い申し上げます。付きましては私からこちらのワインをお送り致します。どうぞ」

 そう言ってグラスをディーンに渡したのは、元婚約者候補のヒルデ・リア・マクベイ公爵令嬢だった。

「ああ、ありがとう、喜んでいただくよ」

 そう言ってグラスを受け取りゆっくりと口に運んだ。

 それを見守るマクベイ公爵令嬢。

 アメリアは黙って2人のやり取りを眺めていた。


 不意にディーンの手からグラスが滑り落ちた。


 ガシャーンっ!!


 砕け散るグラスの破片。

「ディーンっ!!」

 ゆっくりと傾くディーンの身体を支えるアメリア。

 何が起こったのか把握できず呆然と佇むマクベイ公爵令嬢。

 その場は騒然となった。


「衛兵っ!そのものを捉えよ!」

 皇帝陛下が叫び、マクベイ令嬢が兵士に捉えられた。

「わ、私、何もしてないわ。だって、あれは毒ではなかったし……」

 マクベイ公爵令嬢はなにやらブツブツと呟いていた。


「まぁ、何と恐ろしい!」

「皇妃様……」

 ヘレン皇妃の言葉に反応したマクベイ公爵令嬢はその声の主に向かって呟いた。

「皇妃様、だってあれは毒ではないって……」

 涙を浮かべながらヘレン皇妃を凝視するマクベイ公爵令嬢は信じられない面持ちで呆然としていた。

 ヘレン皇妃の睥睨する瞳はマクベイ公爵令嬢を萎縮させるに十分だった。


 そのままパーティーは中断され、詳細は追って公表するとされた。


 ディーンは一命を取り留めたが予断を許さない状況だと発表された。

 そして、その翌日謁見の間に置いて取り調べが行われた。


 玉座に座る皇帝陛下、その隣には王妃が反対側には第一皇子が座していた。

 両側には重鎮達が並び、張り詰めた空気がその場に漂っていた。

 衛兵がマクベイ公爵令嬢を連れて玉座より低い位置にあるカーペットの上に跪かせた。

 憔悴しきった顔色は蒼白で全身は微かに震えている。


「マクベイ嬢、その方、第二皇子ディーンに毒を盛って殺害しようとしたのは真か?」

「毒…………いいえ殺害するつもりはありませんでした。それに……毒ではありません」

 皇帝陛下の厳しい問いかけに震えながら反論するマクベイ嬢。

「あ、あれは惚れ薬で王妃様から頂いた……」

「嘘を言うのではありませんよ。マクベイ嬢」

 被せるようにマクベイ嬢の言葉を遮るヘレン王妃。

「う、嘘だなんて、だってあの時……」

「お黙りなさい! 不敬ですよ!」

 マクベイ嬢はヘレン王妃の叱責にビクッと身体を震わせた。


「嘘ではありませんよ!」

 その声に室内にいた者達は一斉ドアに立つ声の方に顔を向けた。

「ディーン、そんな、其方は重体で動けないはずでは……」

 目を見開き、ディーンを凝視するヘレン王妃は信じられないものを見るように言葉を詰まらせた。

「私は何ともありませんよ。私には毒は効きませんから。ああ、毒ではありません、惚れ薬でしたかねマクベイ嬢?」

 ディーンは確かめるようにマクベイ嬢の方に目配せした。

「嘘ではないとはどういう意味ですかディーン。あなたと言えど王妃である私に対して不敬ですよ。証拠はあるのですか?」

「証拠? もちろんありますよ。衛兵!」

 ディーンが衛兵に声を掛けると2人の人物を拘束して連れてきた。

「お、おまえは……」

 ヘレン皇妃は驚愕の声を上げるがハッとして黙った。

「こっちの女性の方は、義母上に毒薬を売った承認、そしてそっちの従者は私を魔窟の森に置き去りにして殺そうとした従者ですよ」

「なっ、何を戯けたことを!そんなの証拠にはなりません。私を嵌める罠です!」

「あ〜あ、仕方ありませんね。それでは義母上自身に告白していただきましょうか?」

「なっ、何を!」

 ディーンの言葉の意味を咄嗟に掴めず疑問が頭に浮かんだ瞬間、室内にいる者達はディーンの瞳が緋色に変化していることに気付いた。



「さあ、告白して頂きましょう。本当のことを」

 そうディーンがヘレンの方に向かって告げた。

「そうよ、私がディーンを殺そうとしたのよ。小さい頃から何度も何度も毒を盛って病気に見せかけて殺そうとしたのに何故か朝になると復活していたから、睡眠薬を呑ませて寝ているすきに従者に頼んで魔窟の森に捨てるように命じたのよ。ソフィアの時には病気に見せかけて上手く殺せたのにあなたは何てしぶといのよ。魔窟の森から無事に帰ってくるし、マクベイ嬢に惚れ薬だと偽って毒を盛るようにしむけたのに何故生きているのよ!」

 言い切ったヘレン皇妃はハッとして両手で口を抑えた。

「ヘレン、まさか其方がそこまで手を下していたとは……」

 絶句する皇帝陛下。

 室内にいたものはあまりの驚愕に第一皇子クラウスを始め誰1人として発することができない。

 しかし、ヘレン皇妃が公で告白したことをもう覆すことはできなかった。


「なっ、なぜ……?」

「私の異能は真実の追究者。私の追求から逃れることはできないのですよ」

「異能……? 何を分けの分からないことを。お前さえいなければ! 何故私の邪魔をする! このまま破滅するならばお前を道連れにしてやる!」

 ヘレン王妃がそうと叫ぶと魔力が高まった。

 室内を稲妻が走った。

 しかし、ディーンには何も影響は無かった。


「あらあら、大変なことになっているわね」

 ディーンの後ろから素っ頓狂な声を出して笑みながら顔を覗いたのはアメリアだった。

「クスクス、ディーン、あんまり遅いから迎えに来たわ」

 アメリアの目にはディーンしか映っていないようだった。


「アメリア嬢、どうやってここまで、ここには関係者以外通さないように命令していた筈だが?」

「あら、皆さんには眠って頂いたわ」

 皇帝陛下がの言葉にアメリアは臆面もなくにこやかに返事をした。

「眠って……?」

「ええ、こんな感じに!」

 アメリアの言葉と同時にどこからともなく黒い霧が辺りを覆い、謁見室にいた衛兵達が次々に床に倒れていった。

「なっ何を! 私の前で無礼な!」

 皇帝陛下が声を上げ、咄嗟に魔法を発動させた。

 炎の塊がアメリアだけに向かって飛んでいったが到達する前に霧散した。

「クスクス、今何かしたかしら」

 アメリアの双眸が緋色に光る。

「ああ、だから人間っていやよ。何でも権力で封じ込めようとするのね。ディーンを守れなかったくせに!」

 皇帝陛下に怒りの目を向けるアメリア。

 アメリアを凝視する皇帝陛下。

「私利私欲のためにディーンを殺そうとしたヘレン王妃もそれを見て見ぬ振りした第一皇子、そして波風を立てるのが嫌でヘレン王妃を好きにさせてきた皇帝陛下も同罪ね。ねぇ、陛下周りを見てみて、みんな死んだように眠っているわね。この人達本当に眠っていると思う?この状況、100年前にもあったこと知らない?この地がスメリア帝國となるまえのアテナ王国で……」

 アメリアがそこまで言うと皇帝陛下は思い当たったようにハッと顔を向けた。

「まっ、まさか」


 その場は異様な光景が広がっていた。

 床に伏せる衛兵や重鎮達は身動き一つしない。

 皇妃ヘレン、第一皇子クラウス、皇帝陛下は顔を真っ青にしてただアメリアとディーンの方を見つめるばかりだった。


 100年前に起こった原因不明の流行病。

 王家を中心に謎の衰弱、気がついたら王城にいる多くの人が眠るように床に伏せっていたという。

 そして今、アメリアが発生させた黒い霧は謁見の間にいる重鎮や衛兵を覆い床に倒れさせていった。

「私の正式な名は、アメリア・ドラキュリア。100年前に没落したドラキュリア伯爵家の長女よ」

「バッ、バケモノ!」

「あら、酷い言われようね。吸血鬼(ヴァンパイア)と言って欲しいわ。そして、ディーンは100年前死んだディーン・バラリアン公爵の次男の生まれ変わり、そこの皇妃のおかげで死にそうになってめでたく私と同じ吸血鬼(ヴァンパイア)になったのよ」


 一呼吸置いて周りを見渡し、言葉を続ける。

「何か勘違いしているようだけど、吸血鬼(ヴァンパイア)はバケモノではなく冥府の神の眷属よ。つまり私たちは神の御使い。あなたたち人間の管理者のようなものよ。」

「そういうことだ」

 アメリアの説明が終わるとディーンが一歩前に踏み出した。

「そこでだ。俺はもう人外だからこのまま死んだことにして皇太子には兄上になって貰おう」

「なっ、今更なぜ私が!」

「まぁ、表向きはだが」

「表向き?どういうことだ?」

「兄上は可もなく不可もなく只玉座に座っていればいい。何かあれば私が支持をだそう」

「そっ、其方は私を傀儡の王にするつもりかっ?」

「察しがいいようで嬉しいよ、兄上」

 ディーンの言葉に渋面を作り何も言えなくなった第一皇子クラウスは反論の余地がなかった。

「ディーン、これで一件落着ね」

「ああ」

 微笑み会うディーンとアメリア。


「あっそうそう、ヘレン皇妃にはお仕置きしなくちゃね」

「ひっ!」

 屈託のない笑顔に只ならぬ雰囲気を察知してヘレン王妃は声にならない悲鳴を上げた。

 するとヘレン王妃の周りに黒い霧が纏わり付いた。

 黒い霧はどんどん濃くなりヘレン王妃を飲み込むかのように見えた。

 その刹那、そこにぺったりと座り込んでいたのは2歳にも満たない幼児だった。

「あら、折角小さくしてあげたのに可愛くないわね」

 アメリアの言葉に一同は息を呑んだ。

「私の異能は時の操者、ヘレン王妃の時間をちょっとだけ戻したの。これでおいたはできないわね。その姿はずっと変わらないけど寿命が来たら死んじゃうから気を付けてね」

「さあ、アメリア行こうか」

 2人は手を取り合いその場から立ち去った。





 黒曜石(オブシディアン)の居城の一番高い塔の部屋で向き合う2人。

 月明かりが部屋に差し込み互いの瞳を緋色に輝かせていた。

「ディーン、後悔していない?」

「どうして?後悔するわけがない。君は俺をずっと待っていてくれた。そして、俺の魂はずっと君を求めていたんだ」

「ディーン」

 頬を撫でるディーンの手にアメリアの手が絡む。

 互いに潤んだ瞳は逸らすことがない。

「今度は俺から君に100年分の口づけを、そして永遠の愛を捧げよう」

 2人の影は一つに重なり、お互いを確かめ合う。

 空白の100年を埋めるように、これからの永遠の時に思いを馳せて…………



ここまで読んで頂きありがとうございました。

感謝、感謝です。

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