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君へ

 書き始めてから、今日でちょうど2カ月。その間も僕は、夢の世界への扉を探した。しかし、見つけることはできなかった。


 あの事故は僕に、2人分の記憶と体験を残した。長かったようで、あっという間だったパラレルワールド。


 彼の人生は、僕の想像を絶するものだった。僕があの立場だったら、どうしてしまっただろう。僕が当たり前に感じる幸せは、多くの異なる僕の上にできているのかもしれない。僕が歩んできた、僕の人生。それはきっと、僕だけのものではないのかもしれない。


 あの転移で一番得をしたのが、僕だったとしたら。1つの最高の人生を組み立てるために、多くの僕が犠牲になってくれたのだとしたら。


 そして、僕にそれを与える代わりに、最悪の僕を体験させたのだとしたら。だとしたら僕は、そのすべてを受け入れたいと思う。


 いつも突然やってきたそれは、突然消えていった。彼らがその後どうなったのか、僕は答えを知らない。彼は迎えに行っただろうか。彼女と走り続けるために。


 僕はその答えを知らずに、一生を終えるのかもしれない。たくさんのことを忘れていきながら。でも僕は、あの日の2人が感じたことだけは忘れないでいたい。2人の再会を。つながりを。そして匂いを。


 できることならば、僕はまた会いに行きたい。願わくは、その時彼らがまた1つに、そして家族になっていることを。


 今日まで僕は、あの世界での体験を記してきた。僕の記憶が薄れていく前に、まだ鮮明なうちに。いつか役立つ日が来ることを願って。


 その世界は二度と、僕を導いてくれないかもしれない。二度と起きないどころか、実在しないただの夢だったのかもしれない。


 それでもやっぱり、役立つ日が来ることを望んでしまう。もう1人の憐に会える日を願ってしまう。だってあなたは、やっぱり憐だから。僕の最愛の人だから。


「パパー! 早く来てよ! はじめるよ!」


 キーボードの音が響く僕の書斎に、月が走り込んできた。


 書き始めてから、今日で2カ月。僕の想い出の旅は終わった。月に連れられて、憐のいるリビングへと向かう。


 3月10日水曜日、今日は憐の47回目の誕生日だ。


「憐! お誕生日おめでとう!」

「ママ! お誕生日おめでとう!」

「ママ! ハッピーバースデー!」

「みんな、ありがとう! ママ、1つ年をとっちゃった」


 憐は子どもたちに微笑みかけた。それはとてもやさしい表情だった。子どもたちの楽しそうな笑顔と、それを受け止める愛にあふれた目。その瞳はまるで、どこまでも透き通る水面のように。


「ママ! はやくフーして! フー!」

「いくよー!」


 ろうそくを吹き消す憐の姿を見ながら、僕は夢の世界の憐を思った。


「お誕生日おめでとう。あなたがいてくれるから、彼は生きていけるんだよ。そしてありがとう。再び彼と会ってくれて」


 僕は一生忘れないでいたい。君と過ごした時間を、景色を、匂いを、そのすべてを。温かな笑顔を、静かに流した涙を。そしてあなたが必死につなごうとした、未来への希望を。ここに記した記憶を大切に、あなたの笑顔が続くことを祈りながら。


 どうかお元気で。またいつか逢える時まで。その日が来ることを夢見て。


 2021年3月10日。この想いを、あなたの誕生日に捧げます。


 僕の大切な、もう1人の憐。異世界の君へ。


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