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序章

 


 2021年1月10日日曜日、僕はまだ、あの余韻から抜け出せないでいる。毎晩眠る前に願ってしまう。自分の力では、どうすることもできない入り口を求めて。


 それは、昨年末の29日火曜日。あの日のれんが頭から離れない。たくさんの月が絡み合った偶然と、年末の再会、その時の高鳴り。彼女を見つけた時のスローモーションが、胸をギュッと締め付ける。喜びと切なさを伴いながら。


 発端はちょうど1年ほど前。突然に放り込まれた不思議な世界。夢のように思えたそれは、異世界やパラレルワールドと呼ばれるものだったのだと思う。

 その事象は、僕に2人分の記憶と体験を残し、消えてしまった。あの体験が意味するものも、僕が選ばれた理由も、それらは何も分からないまま。


 僕が当たり前に感じる幸せは、多くの異なる僕の上にできているのかもしれない。僕が歩んできた、僕の人生。それはきっと、僕だけのものではないのかもしれない。

 幸福な人生と、最悪な人生。僕の転移と、彼の転移。それらはどのように干渉しあっているのだろう。どのように影響しあっているのだろう。


 ただ1つ言えるのは、それは、僕らの意思に関係なく起こったということ。僕らには、どうすることもできなかったということ。そして2人の憐にも、影響を与えてしまったということ。


 2人の憐が歩んだ、2つの異なる世界。それは全く異なる人生となった。僕は当たり前のように憐と暮らし、もう1人の憐を思い出す。異なる人生を歩むことになった、もう1人の憐を。


 僕の知る2人の憐、そのどちらにも幸せになってほしい。そう思うことは、傲慢なのだろうか。パラレルワールドとして、あってはならないことなのだろうか。


 僕は忘れないでいたい。2人の再会を。つながりを。匂いを。そしてまた会いに行きたい。その後の彼らの世界を。願わくは、その時彼らがまた1つに、そして家族になっていることを。


 今僕は書斎にいる。パソコンを前に、エアコンが鳴らす小さな音を聞きながら。僕はあの世界での体験を記そうとしている。僕の記憶が薄れていく前に、まだ鮮明なうちに。いつか役立つ日が来ることを願って。


 その世界は二度と、僕を導いてくれないかもしれない。二度と起きないどころか、実在しないただの夢だったのかもしれない。


 それでもやっぱり、役立つ日が来ることを望んでしまう。もう1人の憐に会える日を願ってしまう。だってあなたは、やっぱり憐だから。僕の最愛の人だから。

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