浮気は浮ついた気持ちなんだろJK?
※題名のJK→常識的に考えてと言うネット用語です。女子高生は出ません(キリッ)
俺は青井 陽。現在20歳の大学生だ。フツメンで特に自慢出来る様な特技も無い俺にも、それなりの大学へ入った事で、彼女を作るチャンスが出来たんだ。簡単に言えばただの合コンなんだけどな。そこで出会った彼女の名前は玲奈。1つ年下の19歳で短大生。
玲奈は若干コミュ障気味の俺とも、普通に話が出来る女の子だったんだ。俺としては可愛い女の子と話せて舞い上がっていたし、連絡先を交換した後は積極的にアプロ-チしたんだよね。もう必死だったと思う。時間があればラインや電話して。
そんな頑張りが認められたのか? 付き合って欲しいと言う俺のラインに、玲奈はOKの返事をくれたんだよ。もうその返事の文字を見た時は、何度も見返しながら飛び跳ねて喜んでしまった。俺は実家住みで部屋は2階だったから、何事かと思って見に来た母さんに怒られちまったけど。だけど母さんとは日頃から仲が良かったからさ。訳を話すと自分の事のように喜んでくれた。うちは両親が少し親バカなんだけどな。
しかし彼女が出来たとは言え恋愛初心者な俺は、玲奈を何処へ誘えば良いのか分からない。そこで出会う切っ掛けを作ってくれた友人の信太朗に、恥を忍んで相談する事にしたんだ。
「信太朗! 俺、玲奈ちゃんと付き合う事になった!」
「餅つけ! いや、落ち着け。みっともないぞアオハル。周りを見てみ? 目立っちまってんぞ」
「す、すまん。あまりにも嬉しくて。実は相談があるんだ」
「ん? まぁ大体予想はつくけどな。アレだろ? デートに誘う方法とか。何処へ行くとか」
「あはは。ズバリその通りです。ご教授よろしくお願いします」
俺達は大学内のテラスへ移動し、返事を貰うまでの経緯から説明した。信太朗は俺の話を聞きながらウンウンと頷き、一通り聞き終わった後に、ため息をつきながら言った。
「アオハル。お前がっつきすぎな。そんなんじゃ折角出来た彼女に嫌われんぞ」
そこからは信太朗のお説教が続いた。四六時中ラインとか電話する奴は、下手すればスト-カ-だと。今回はたまたま玲奈が気にしなかっただけだとね。確かに言われてみれば気持ち悪かったかもしれない。俺は大いに反省し、信太朗のアドバイスを必死にメモ。気をつけるべきポイントに赤線でチェックも入れた。
そんな俺の必死さに信太朗は苦笑しつつ、スマ-トなデートへの誘い方なども教えてくれたよ。ただ問題もあった。信太朗に言われるまで気づかなかったが、デートへ行くなら服装にも気をつけるべきだと言う事。それにデート代も必要だろうと言う事だ。
「高校生じゃないんだから、毎回公園デートなんて許されないぞ? 最初はそれなりに気を使うべきだしな」
「た、確かにそうだ。でもどうしよう? 俺そんなに金持ってない」
「働けよっ! デート代を親に借りるとかはするなよ?」
「わ、分かってるよ。流石にそんなカッコ悪い事はしない......よ?」
「......お前の親なら出しそうだがな。だが親離れしろ。バイトなら俺が紹介してやる」
「マジで? ありがとう! やっぱり持つべきものは親友だな!」
信太朗は高校時代からの数少ない友人だが、当時からかなり大人っぽくてさ。とにかくモテていたんだよ。顔も雰囲気イケメンだし、人当たりも良いから彼女は常にいた感じ。そんな信太朗と俺が友人なのは、唯一勉強が出来た俺が大学の進学に手を貸したからなんだ。俺の家で一緒に勉強したんだが、本人の努力もあって今の大学へお互いに合格できた。進学してからも何時も一緒に行動する様になり、色々な面で助けられてる。俺の親にも気に入られてるしな。
そんな訳で信太朗のアドバイスを参考にし、気持ちをグッと抑えて連絡頻度を減らした。でもちゃんと自分の気持ちは伝えつつ、初デートの約束も取り付けた。先ずは玲奈の事をもっと良く知るために、ランチデートからだ。お店もネットで評価の高い場所を探したし、服は信太朗に選んでもらった。少し情けないが、これも経験だと思う。
迎えた初デートはかなり緊張したけど、お店選びを褒められたりして大成功だったと思う。相変わらず聞き上手な彼女とは一緒にいて心地良かったよ。もっと長くデートをしたかったけど、その日は夜までに解散。勿論、次のデートの約束も出来た。もう嬉しくてさっそく信太朗へ電話。
「信太朗! 大成功だった! ありがとうな!」
「ああ。ハイハイ。分かったって。じゃあ次はバイト先でな」
「え⁉︎ それだけ⁉︎ 嘘だろ⁉︎」
「......嬉しいのは分かるが、俺はバイト中なんだよ!」
ガチャリと切れる電話。あまりの嬉しさに浮かれていたが、確かに今日はバイトだって言ってたな。後で謝ろう。しっかりと反省した後、玲奈にデートが楽しかったお礼もラインでしておいた。すると次回も楽しみだと言う返事。また舞い上がりそうな気持ちをギリギリ抑え、無難な返事を返しておいた。コレも信太朗のアドバイスだ。
次の日。講義を終えた俺と信太朗は、バイトの面接へ向かった。紹介してくれるバイト先もオシャレな雰囲気のカフェだった。信太朗はウエイターなんだが、俺は厨房での採用が決まる。まぁイケメンじゃない俺に、こんなお店で接客が務まるとは思えないよ。
信太朗としては接客させて、俺のコミュニケーションを向上させたかったみたいだけどね。こればっかりは、経営者の判断なので仕方ない。雇って貰えただけ感謝だ。
「ちぇっ。アオハルの教育したかったのに」
「仕方ないだろ。俺は中で頑張るよ」
「いや。厨房から品出しする時に、お客をしっかり見ろ。そしたら流行りの服や髪型なんかを知ることが出来るから。この店はそう言う意味でも使える」
「な、なるほど。人気店ならそれもあるよな!」
俺は必死で仕事を覚えながら、若いお客様の服装や髪型のチェックをした。確かにキラキラした人が多く、自分に足りない物が分かった。まぁ普通に自分と比べて凹んだけど。
玲奈とはあれから数回デートをしたよ。もう違和感なく話せるし、色々と話題も提供出来たりもする。コレもバイト先の影響が大きいと思う。身嗜みにも気を使う様になり、周囲から良い意味で垢抜けたと言われたよ。まだ自信はないけど。
そんなある日。俺は何時もの様に信太朗へ相談を持ちかけたんだ。またしても経験が無い俺の悩み。
「信太朗。どうしたら良い?」
「主語がねぇな⁉︎ まぁどうせ手を握りたいとか、キスしたいとかだろ?」
「お、お前はエスパーかよ⁉︎」
「ちげえよ。目がこえーからだ。キモいからやめろ。アオハルは、名前通り青いから仕方ないがな」
ぐっ。また何時もの発作的なやつが出たのか? 焦って近くの鏡を見たら、確かに血走った目をしていた。ダメだ。自分で見ても怖い。何度か深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。
「とりあえず、ベタな所へ行けよ。もう夏だし花火大会とかあるだろ。はぐれない様に手を握るとかだとハードルは低いはずだ。それかカップルの多いスポットへ行けば、そんな雰囲気になるかもな」
「おお。分かった! それ試してみる!」
「焦るなよ? 相手も子供じゃないんだから、お前ががっつけばドン引きされる。スマートを心掛けろ。良いな?」
「お、おう。鼻息を出さず、頑張ります!」
と言う事でまたもやネットサーフィン。1番近くて移動の負担が少ない花火大会を見つける。それを玲奈にラインすると、ちょうど空いていると返信あり。さっそくプランを考える。もうワクワクが止まらず、その日までが待ち遠しくて仕方がなかったよ。
そして迎えた花火大会当日。天気も良く朝から俺のテンションは高かった。出かけるのは夜なのにな。時間が進まな過ぎてしんどかった。あはは。
そんな時間を過ごし、待ち合わせ時間より早く着き過ぎてしまったよ。遅刻するよりマシだろ? 因みに待ち合わせたのは、お互いの家から近い駅前だ。ソワソワしながら忠犬の様に待つ事暫し。俺の視界に天使が舞い降りる。
「ごめんなさい。待たせちゃた?」
「い、いや。俺もさっき着いたから」
などと言うのが俺の限界だった。だって現れた玲奈は浴衣を着ていてさ。もう可愛い過ぎて目が離せなかったんだ。ヤバいだろコレ?
「もしもーし。ハル君聞いてる?」
「はっ⁉︎ ご、ごめん。じゃ、じゃあ行こうか」
自分の世界に入りそうだった俺は、玲奈の言葉で我に帰る。いけない。何度も深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。そして平静を装いながら、2人で電車に乗って移動した。時間的には少し早いが、同じ様に花火大会へ向かう人は多い。
俺って人混みが苦手だから息苦しさを感じた。空気を読んで玲奈には言えないけどね。今はこの幸せな時間に集中しよう。そんなこんなで目的地へ到着。花火が上がるまで出店を見て回り、楽しい時間を過ごした。
そしてそろそろ花火が始まる時間だからと移動する。するとこのタイミングで奇跡が起こる。人の列に押されそうになる玲奈を庇う為に出した俺の手が、無意識に玲奈の手を握ってたんだよ。玲奈も何の抵抗も無く受け入れてくれた。
それを意識したのは、もう間も無く花火が上がる頃。何とか場所をキープした時、自分の手が玲奈の手を握っている事に気づいたんだ。思わず玲奈の顔を見ると、少し赤面していた。
「ごめん。痛くなかった?」
「大丈夫だよ。守ってくれてありがとう」
花の様な笑顔でそう言われ、心臓がバクバクし過ぎてここから記憶があまりない。正常に戻った頃には花火は終わっていた。嬉しそうに感想を言う玲奈に見てなかったとか言えないから、必死に相槌を打ってごまかした。
結局この日はそれ以上の進展は無かった。でももう手を握る事にも抵抗は無くなったし、帰りも駅までそのままだったんだよ。ちょっと手汗が大変な事になってたけど。
家に帰ってから、それを信太朗へ報告。相変わらず反応の薄い返事だった。それでも良かったと言ってくれたけどね。それからも何度かデートを重ね、無事に初キスまで進んだよ。何度もタイミングで失敗したけど、恥ずかしいからここでは語らない。
もうそこまで行くと普通のカップルだったと思う。でもその時期から少し玲奈の態度が変わっていくんだ......。会う頻度も減るし会えば何か不機嫌。そしてとうとう喧嘩が起こる。
俺は相変わらずバイトも続けていたし、人の観察も継続していたんだけどさ。その行為が玲奈を怒らせてしまったんだ。俺は無意識だったんだが、デート中に他の女の子を見ていたらしい。
「ちょっとハル君! また私以外の女の子見てたでしょ!」
「え⁉︎ ち、違うよ。トレンドチェックだから」
「嘘だ! 絶対見てた! コレって浮気だよ!」
「はい⁉︎ な、何で浮気になるの?」
「だって常識的に私以外に目が行くって浮気だもん! 浮気って浮ついた気持ちって事なんだから!」
もうね。絶叫に近い感じで言われたらさ。まぁ怖かったよ。言ってる事はあってる様な気はするが、流石に身に覚えの無い事で疑われるのは嫌だ。だから必死に謝ったんだが、どうにも機嫌が直らない玲奈。少し冷静になろうと言う事でその日は解散したんだ。
家に帰ってからも何度か謝罪のラインを入れたが、返事は全く来なかった。俺は玲奈の怒りが治まるのを待つしかなかった。でも何か納得出来ない部分もあり、またしても信太朗へ相談をしたんだ。
「信太朗。助けて!」
「またかよ。上手くいってたんじゃねえのか? 毎日惚気まくってたじゃん」
「そうなんだけどさ。今日こんな事があって......」
俺は今日の喧嘩? について事細かに説明。とりあえず一通り聞き終わった信太朗は、少し間を置いてから俺に言った。
「今からお前の家に行くわ。ちょっと気になる事もあるし」
「お、おう。分かった」
いつに無く真剣な声だったから、どうしたんだろかと思った。でもわざわざ家に来てくれる事が嬉しかったよ。こんな事を相談出来るのは、信太朗だけだしな。
俺は最近飲めるようになったお酒とつまみを用意し、信太朗を待った。大体30分ほどで信太朗はやって来たよ。ちょうど両親もいたから信太朗を大歓迎。放っておくといつまで話しそうな両親を抑え、俺の部屋に信太朗を引っ張って行く。
「すまん。うちの親は信太朗が大好きだからな」
「いや。俺も悪い気はしないから大丈夫だ。ん? コレはまた準備が良いな」
「明日は休みだしさ。たまには良いかと思って」
とりあえず酎ハイで乾杯し、取り留めない話で盛り上がった。慣れないお酒でほろ酔いになると、さっき迄の憂鬱な気持ちも薄れたよ。だがここで信太朗が真剣な顔になる。
「これ以上飲むと酔いそうだ。まぁアオハルには、その方が良いかも知れないがな。良いか? 今からする話を先ずは何も言わずに聞け。聞き終わってから、怒りでも何でもぶつけて良いから」
「え? どう言う事?」
少し回らない頭で返事をする俺に対し、信太朗は無表情のまま話し出した。もうね。何度も叫びそうになったよ。それでも最後まで話を聞いたけどな。だが何だろう? 聞き終わってみると、確かに思い当たる事が沢山あったんだよ。
「すまん。俺も後から聞いたんだ。だがあまりにも嬉しそうなアオハルには言えなかった。殴ってくれても良いぞ」
「何言ってんだよ。お前に責任なんてねぇよ。俺が1人で舞い上がってただけだ。でもまだ正直信じられない。それに悔しい。ちょっと頭が整理出来そうにない」
この話の後、少し1人で考えたいと言って信太朗には帰ってもらった。俺は残っていたお酒をがぶ飲みし、気づいたら翌日のお昼まで寝ていたよ。目を開けて室内を見ると、空き缶が散乱していた。頭はガンガンするし、完全に二日酔い。
それでも無理矢理起きて部屋を片付け、熱いシャワーを浴びて頭をハッキリさせた。そして昨晩の話を思い出す。
信太朗の話を要約すると、俺は玲奈に遊ばれていたらしい。彼女には本命の彼氏が居て、それは同じ短大では有名な話だったんだとさ。信太朗はその話を知り合いに聞いたが、その時には俺の付き合い報告を聞いた後。そんな事実も知らずに舞い上がってる俺には言えなかったらしいよ。
普段はズケズケ言うのにさ。変な所で気を使うんだから、俺は信太朗を怒る気になれない。玲奈本人から聞いた訳ではないから、噂でしかないんだけどさ。俺以外にもキープ君は何人が居て、飽きたら今回の様に難癖つけて捨てるそうだ。と言う事は俺は既に飽きられたって事だ。会うペースが最近減って来てたし、辻褄が合うんだよなぁ。それにデートも地元以外へ行きたがっていたし、中々予定が合わない事も多かった。
身体の関係も上手く断られてたし、俺って食事代とか出してたから良い様に使われてたのかもな。カッコつけるんじゃなかった。あはは。俺は自分の携帯を見るが、玲奈からは返事が無い。あれ? 既読にもなってないじゃん。もうブロックされてるんのかな?
暫し既読にらならない画面を見つめていると、突然携帯が震えて思わず落としてしまった。慌てて拾い画面をみたら、信太朗からだった。
「もしもし」
「生きてるか? 心配してたんだぞ? ライン送っても返事ねぇし」
「え? ホントだ。全く見てなかったよ。すまん」
「それなら良い。なぁアオハル。お前今からバイト先来れないか? 実は今、店に玲奈が来てるんだ。男と一緒に」
「......わかった。すぐに行くよ」
俺は急ぎ身支度をし、自転車でバイト先へ向かう。その間、色々と考えた。とりあえず出たとこ勝負だ。既に通い慣れた店だが、今日はとにかく遠く感じる。気分が重いからそう思うんだろうけど。
店の裏手に自転車を止め、裏口から店内へ入る。すると店長が俺の元へやって来てさ。いつもと違う制服をわたされたんだ。
「話は聞いた。お前のやりたい様にやれ。但し、暴力は無しだ。分かったな?」
「はい。ありがとうございます」
俺は手早く着替えを済ませ、注文された料理を受け取った。チラッと信太朗を見ると、無言で親指を立てていた。俺は1つ頷き、目的のテーブル席へ向かう。
「お待たせ致しました。Aセットでございます」
そう言った俺の声に玲奈の表情が固まる。こちらを見て口をパクパクさせているので、思わず吹き出してしまったよ。俺は慌ててコホンと咳をし、玲奈に声を掛けた。
「お客様。どうか致しましたでしょうか?」
「な、何で⁉︎ 何でここに居るの⁉︎」
俺は何度もバイト先を此処だと言っていたが、玲奈は興味も無かったんだろう。もうそれだけで気持ちが冷めきっていく。
「なんだよ麗花。お前の知り合いか?」
「へえ。名前も違うのか。流石は男何人もキープする玲奈さんだなぁ」
「ちょっ! 余計な事言わないでよ!」
一緒に居る男は何か気づいた様だが、玲奈は取り乱し叫ぶだけ。正直言うとこの程度では心も癒えない。だがまぁお店に迷惑も掛けられないし、どうせこの後は男から責められるだろう。だから最後に一言だけ言おう。
「浮気は浮ついた気持ちなんだろJK?」
俺はニッコリ笑ってそう言い、テーブルを離れた。その後はコップの割れる音と男の怒声が店内に響く。その対応は店長がしてくれたが、色々と迷惑だったと思う。
それから数ヶ月が経った今、俺はそんな経験を糧にして日々を楽しく過ごしている。風の噂で聞いた話だが、玲奈はあの後、本命の男にこっ酷くフラれたそうだ。それを聞いた短大の友人には同情もされず、今は1人孤立しているんだとか......。