ハジマリ
初めての連載作品になります。
前回は私自身が見た夢をベースに書きましたが
今回は全て私の思いつきで書いた完全オリジナルです。
一応ホラーですが怖さよりも
他要素に力が入ってしまった気がします。
ゆったりお読み頂けると幸いです。
眠れない。
もう何日目だ。
睡魔は夜の闇を引き連れ
確実に俺を飲み込もうとしている。
それなのに、だ。
こんなにも眠いのに寝かせてくれない。
ドン………ドン………
うるさい。うるさいうるさいうるさい。
大変な暑さを記録した夏が過ぎ
9月も中盤に差し掛かった。
段々涼しくなってくる頃だろうに。
だがそんなことは関係ない。
午前2時34分、
何も無い部屋、
やつれきった頬に一筋の涙が伝う。
俺は今日も眠れないでいる。
━━━
「達也ー!来たよ!」
俺は4月の大学入学と同時に
念願だった一人暮らしを始めた。
平凡なアパートの角部屋、208号室。
ここに来て丁度一ヶ月が経過したわけだが
今日は高校の頃から付き合っている香織が
初めて俺の部屋にやってくる日だった。
遠足気分なのか
少々はしゃぎ気味な彼女の荷物を預かると
その重さからして普段のデートより
持ち物が多いのだろうと容易に想像出来た。
それもそのはずで、
今日彼女はこの部屋に泊まることになっている。
「へ~、意外と綺麗にしてるじゃん。」
香織は目を細めニヤニヤしながら
部屋のあらゆる所を見回している。
小姑かよとツッコミたくなった。
そんな香織を他所に
俺は夕飯で頼もうと思っていた
出前カタログに集中する。
何を食べるか訊ねたところで
ようやく香織が俺の視界に飛び込んでくる。
「えーっと、
マヨコーンピザは絶対でしょう?スイーツはぁ…」
数時間後━━━━━
すっかり満足した様子の香織は
壁にもたれかかってスマホを触っている。
一人暮らし用の小さな机の上は
ピザの箱やら飲み物で埋め尽くされていた。
いい加減片付けようかと立ち上がろうとした
その時だった。
ドン……ドン……ドン……ドン……
俺は香織とアイコンタクトを取ろうとしたのだが
当の香織はというとそれどころじゃない様子で
飛び跳ねるように壁から身体を離した。
「何、今の。」
普段の香織からは想像出来ないような
怪訝な顔とセットでその低い声は発せられた。
俺は一瞬 隣りの部屋だよな くらいに思ったが
その考えは脆くも打ち砕かれた。
今現在、隣りは空き部屋だからだ。
壁にもたれかかっていた香織曰く
先程の音は確実に壁すぐ傍から聴こえたようで
彼女には隣りが空き家であることも伝えていた為
酷く怯えている様子だった。
無論俺も、この現象がこれっきりであるよう
頭の片隅で祈った。