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旅立ち

見切り発車の宵越しの上ストックは持たない主義なので不定期更新になります。

 

世界の果て(ワールドエンド)』と呼ばれる場所がある。


 ある書物によれば、巨大な世界樹の頂上。


 ある英雄譚によれば、昏い迷宮の最奥。


 ある遺跡の碑文によれば、雲上に浮かぶ楽園。


 ある龍の知識によれば、海底の古代神殿。


 ある王家の伝説によれば……


 ある古文書の一節によれば……


 ある魔王の最後の言葉によれば…………


 兎に角、各地に『世界の果て』の伝説、伝承が存在し、永遠の命や尽きることの無い財宝、最強の聖剣、世界を支配する力といった具合に『強大な何かしら』が眠っているとされている。



 彼は()()()()()()()()()()()()


『何故だ?強大な物が眠っていたことは伝えられているのに何故誰もそれを使っていないんだ?それは本当に実在するのか?』


幼いながらに抱いた思いは、彼の胸に消えない火を宿した。






「おい、もう終わりか?」


 遥か神代に神が作った五つの大陸『秩序の大陸』、『叡智の大陸』、『渇望の大陸』、『情熱の大陸』、『恵みの大陸』。


 その一つ、『情熱の大陸』のある国のある街のある屋敷の庭にて。


 青年の声が響く。


 異様な光景が広がっていた。


 一人の青年を除いて15人程の人間が倒れている。そして、倒れている人間の内の半分以上が、角と翼、鱗に包まれた尻尾を持つ龍人(ドラフィア)であった。その他にも、耳の長いエルフや狼の耳を持つ狼人(フェアウルフ)、髭ヅラの小柄なドワーフ、真っ赤な髪の焔精霊(イフリート)などがいた。


「ぬぅぅぅ……ヴィッツよ、どうしても行くのか……?」


「今生の別れでも無いのに何故止める」


「それは勿論……」


 ただ一人立っているのは、翼が見えない、赤の混じった黒い髪の龍人の青年。彼の名は『ヴィッツ・ヴェアヘーゲン』。紅いマナの残滓を纏った木刀を庭に突き刺して問うた。


 彼の足元で倒れて問いかけているのはその父親、『エアーリヒ・ヴェアヘーゲン』。


「貴様に家督を継がせワシは楽隠居する為だ!」


「たわけ、俺はまだ未成年だ」


 ヴィッツは24歳、龍人の成人は40とされる故、間違ってはいない。長命種の名家の当主ならば社会経験を多少積ませる為にも旅に出るのは間違ったことでは無い。


「なら未成年に一人旅などさせんぞ!」


 エアーリヒの言い分は一般常識ならば大して間違っていない。頭に『なら』とついていて説得力に少々欠けるが。


「俺は短命種ならもう老齢に差し掛かる年齢だし、基人(ヒューム)基準でも成人だ。そもそも未成年で旅をしてる奴など掃いて捨てるほどいるだろう」


 ヴィッツは一般からは大分外れた長命種だった。


「か弱い我が子を一人旅に送り出すなど!」


 やはりエアーリヒの言うこと自体は間違ってはいない。


「使用人どもと共に俺に挑み、真龍態まで使って無様に床を這いつくばっている奴が何を言うか」


 説得力に欠けてはいた。エアーリヒは使用人や親類一同を率いてヴィッツの旅立ちを阻止しようとしたが返り討ちにあったのだ。一部の親類は面白がって参加しただけでロクに本気を出していなかったのも敗因であるが、執務ばかりで弛んだ体で挑んだ結果逆鱗にいいのを一発貰ってしまったのが1番の敗因だろう。


「甘やかし足りん!!!」


 旅立つ子に親が言うこととしては筋が通ってはいる。


「嘘をつくなバカ親め。去年の誕生日プレゼントの金を出し渋った事はお袋から聞いたぞ」


 筋を通してはいなかったようだ。


「何故旅に出るのだ!勉強ならば家でも出来るだろう!」


「優秀な教師に質のいい参考書で出来上がるのは没個性な後追いだ。ここにいても俺は貴様以上にはなれん」


「ぬぅぅぅ……」


 何とかして引き止めるべくエアーリヒは思考していた。


「100年、長引いても200年は掛からず戻ってくる。その時は家督でもなんでも継いでやるさ」


 永劫を生きる龍人のスパンでは1000年以下ならばそこまで長い期間では無い。


「ぬぅぅ……せめて新年ぐらい帰って来んか……?」


「たわけ、それでは大陸から出られんではないか」


「せめて5年……」


「はぁ……分かった。成人の儀の時に1度帰る。あと弟か妹が出来たら手紙を寄越せ」


 ヴィッツは譲歩した。案外チョロいのかもしれない。


「おお……!困った事があったら直ぐに帰ってくるのだぞ!!」


「ああ、行ってくる」


「風邪を引くなよ!」


「気をつけるさ」


「好き嫌いはするなよ!」


「選り好みこそすれ食い物を無駄にはしないさ」


「ならよし!行ってこい!!」


 もっとごねるかと思ったんだがな、と考えながらもヴィッツは旅立つべく荷物を持って屋敷の外へ向かった。









「成程な……」


 ヴィッツの眼前にはいい歳してガチ泣きしている紅い髪の母親がいた。小賢しい屁理屈を捏ね回す父よりもよっぽど難敵だ。


「ど゛う゛し゛て゛行゛っ゛ち゛ゃ゛う゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!?!?」


「そんな今生の別れでもないんだから泣くなよ……」


「だっ゛て゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」


「そのうち帰ってくるから」


「ちゃんとお手紙書いてね…………お土産も期待してるから……」


 実はあんまり悲しくないんじゃないかという疑問がヴィッツの中で鎌首をもたげる。


「分かった分かった」


「最後にハグ……」


 ぎゅううううっ!と万力の如き力でヴィッツを抱きしめる。ヴィッツは彼女に力負けしているため引き剥がすことは叶わない。背中を何度か叩くが一向に離れる気配がない。


 満足するまで数分程待ってから荷物を担いで外へと向かう。


「行ってらっしゃい」


「行ってきます」


 そうして龍人の青年は旅立って行った。



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