第九話(クラリス視点)
「まったくイライラするわね! エミリア! エミリアは何処!」
「エミリアさんはクラリス様が追放されたじゃないですか」
「うっさいわね! 知ってるわよ。そんなこと!」
結界術を使う仕事を二、三日サボってたら、北の街が魔物によって襲われて、マーティラス家に苦情が入ったらしい。
たかが100人くらいが死傷したくらいで大袈裟なのよ。今日は乗馬をしたり、狩りをして遊ぶ予定だったのに。
「あんた、代わりに結界張ってきなさいよ」
「そ、そんな! 無理ですよ! そもそも、マーティラス家の血を引かないエミリアさんが使えたこと自体が僥倖でしたのに」
またエミリアだ。あいつが涼しい顔して結界を張るから、他のやつでも簡単に出来ると思ってたのに。
あいつ以外は誰も覚えられもしないって、使えない使用人共だわ。
イラッとしたから、何人かクビにしちゃったじゃない。
「見ろよ、クラリス様だぜ」
「相変わらずお美しい」
「なんか怒鳴ってるように見えるけど」
「――クラリス様、外で人も聞いております。ですから、その辺で」
「わかってるわ。集中出来ないから、ちょっと離れて」
うるさい雑音のせいで集中が乱れる。結界張るのだって楽じゃないんだから。
さっさと済ませて帰りましょう。マーティラス家の天才と呼ばれた私にかかれば、直ぐに終わるんだから。
「……いくわよ。光の結界っ!!」
「おおっ! なんと神々しい!」
「黄金の光が魔物のいる森を包みこんで……」
そう、これが私の結界術。ゴージャスに輝く美しい光の結界はどんな魔物も寄せ付けない。
エミリアの汚い結界とは違うんだから。はぁ、疲れたわ。早く帰って――。
「クラリス様、森の端まで結界が伸びておりません。距離の計算が間違っています」
「はぁ? ふざけたこと言わないで。私が間違えるはずないでしょ」
「と、言われましても。実際に光の結界は森を包みきれておりませんので」
新しくメイドになった黒髪のショートボブが特徴の女。メリッサは、はっきりと物を言う嫌な奴だ。
お父様曰く、同じく大貴族であるレヴィナス家から借り受けたメイドらしく、あちらの顔を立てるためにクビにしてはダメだと念押しされてる。
こいつもそれを知ってるのか、ウザい態度ばかりとってくる。お父様がクビにするなって言ってなかったらとっくにボコボコにしてたわよ。
「ちっ、もっかいやれば良いんでしょ。やるわよ」
こんなことなら、エミリアをクビにしなけりゃ良かったかしら。あいつはあいつで、王家に媚びて私を出し抜こうとした愚か者だけど、私には逆らわなかったし。
まぁ、デルナストロ山脈に送ってやったから死んでるでしょうし、考えても仕方ないけど。
面倒ね……、もう一回結界を張るのって。さっきより大きめに作らなきゃ。
「「ガルルルルッッ!」」
そんなとき、結界の隙間から抜け出してきたのか、デスケルベロスという魔物が飛び出して私に向かってきた。
「クラリス様! 逃げてください!」
ちょっと、逃げて下さいじゃないわよ。メリッサ。何でボーッと突っ立ってんの? 早くこいつをどうにかしなさい。
何で、動かないの? まさか、私を守ろうとしないつもりかしら? 許せない…。
「ちっ! 光の槍ッ!」
光の槍を呼び起こし、デスケルベロスの体を串刺しにして絶命させる。
この私が下等な魔物の殺処分までさせられるなんて、屈辱だわ。
「メリッサ、あんた何で私を守ろうとしなかったの?」
「クラリス様の護衛は仕事の範疇ではありませんから。それに私は戦闘能力皆無なのです。ネルシュタイン家で鍛えられたエミリアさんとは違いますので」
「マジで使えない子ね……」
「クラリス様ならあれくらい楽に倒せるのでは?」
私が倒せる、倒せないは関係ない。私を畏怖して、命懸けで助けろと言ってるの。
護衛を命じられてなくても、実際に助けようとしないなんてメイド失格じゃない。
「しかし、不思議です。一夜で百人を殺傷する程の魔物の群れが出てくることもさりながら、結界で覆い尽くせなかったとはいえ、ピンポイントでそこから魔物が出てくるとは」
「はぁ? 何それ? 意味わかんないこと言わないでくれる?」
メリッサの戯言なんて聞いてられないわ。早く終わらせて遊びに行きましょ。
それで、明日は絶対に休む。もうこれは決定事項よ。
一日くらい聖女が働かなくたって国がどうかなるなんてあり得ないでしょう。
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