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第四話(とある冒険者視点)

 冒険者になって4年、ようやくギルドでのランクもBランクに上がった僕は仲間たちと共にデルナストロ山脈で採れるという貴重な魔法鉱石の1つ――『紫龍石』の採取というクエストに挑むこととなった。


 デルナストロ山脈はワーウルフやデビルベアといった魔物もそこらの森林やダンジョンに出てくるものよりも凶暴で力強いと聞いていたので、僕らは万全の準備を整えて、この地に足を踏み入れる。


 しかしながら――僕たちの準備はまだ不十分であり、実力に関して言えば完全に不足だった。


 あとになって知ったことだが、ギルド側が間違ってクエストの発注をしていたらしい。本来はAランク未満の冒険者は決して足を踏み入れてはならなかったそうだ。


 

 魔物たちの力は一体、一体がとても強力でなかなか倒すことが出来ない。――僕たちは徐々に疲弊していった。

 回復アイテムは底をつき、ヒーラー役の魔法使いの魔力も無くなってしまい……、僕らは全滅寸前まで追い詰められてしまう。


「はぁ……、はぁ……、このままだと……、僕たちは――」

「全滅……でしょうね。間違いなく」

「体力も、魔力も尽きて、さようなら……」

「辞世の句を読むんじゃねーよ……、ぜぇ、ぜぇ……」


 大木に横たわりながら、僕たちは自分たちの最期を予感した。

 僕以外は立ち上がる気力も失い、何とか目を見開いているという状態だし、助けなんて求められる場所じゃないからだ。


「なぁ、リック……。あっちの方を見てみろ……。誰か焚き火やってる奴がいるんじゃねーか……?」


「バカな……、そんなことをしたら魔物たちに自分の居場所を知らせるだけなのに……」


 誰かが焚き火をしてると、仲間で剣士のブライアンが口にしたので、僕はびっくりしてそちらの方向を向く。


 ほ、本当だ。こういう場所では火を出来るだけ起こさない事が冒険者の基本なのに。


「余程、腕に自信があるのではないか?」

「回復アイテムとか、持ってないのかしら……」


 た、確かにここで焚き火をするというような豪胆な人間……もしかしたらAランク以上の凄腕冒険者かもしれない……。


 動けるのは僕だけ……、腹と肩の出血が止まらないけど……行ってみるか……。



「ううっ……、だ、誰か……いるのか……」


 絞り出すような声だったが、僕は焚き火の主に何とか声をかけることが出来た。

 

 見たところ一人だけに見えるが……こんなところに一人でいるなんて、どんな屈強な冒険者――。


 あ、あれ……? あの格好は――め、メイド服? なんでメイドがここに……?


 衝撃の光景に頭の中が混乱して……僕はその場に倒れそうになってしまった。


「これはいけませんね。大回復魔法(ラージヒール)


 気付いたらメイド服を着た長い銀髪の女性に僕は抱きかかえられていて、回復魔法をかけてもらっていた。

 ラージヒールは高等魔法……。やはり、この人は只者じゃない。


 助かった? 僕がそう思ってしまったその瞬間――魔物たちの唸り声が木霊した――。


「「グルルルルッ――!」」


 焚き火の光に誘われたのか、ワーウルフの群れがこちらに向かってくる。

 いけない、僕を治療してたらこの人は殺られる。


「ぼ、僕に構わず……、逃げてください……」

「動くと傷口が開きますよ。しばらくそのまま動かないでください」


 ――そこからは目を疑いたくなるような光景が広がっていた。

 彼女は回復魔法を使()()()()()火炎魔法と雷撃魔法を()()()使いこなしていたのだ。


 さらに調理している途中だったからなのか、肉の焼き加減を調節したりする余裕を見せている。

 あっ、味見した。首を傾げているけど、そんな余裕があるのかな?


 す、すごい。傷の治療をしながら、魔物を倒して、その上で料理までしてるなんて。普通は一種類の行動するだけでいっぱいいっぱいになるのに。


 そんな彼女は僕の顔にグイッと顔を近付けて口を開く。


「つかぬことをお伺いしますが、あなた……塩を持ってたりしますか?」


「……えっ? な、仲間が持ってると思いますけど……」


「そうですか! では、少しだけ分けてもらえません?」


「べ、別に良いですけど……、あ、あなたは――?」


「エミリア・ネルシュタイン……マーティラス家の元メイドです――」


 琥珀色の瞳はどうしようもないくらい寂しげで、淡々とした口調はまるで温度を感じさせない。僕よりも若いように見えるし、元メイドだって言ってたけど、この人は今までどんな人生を歩んで来たんだろう。


 ていうか、塩が欲しいって何で……?


 ――そんなことを考えてたら、魔物たちはあっという間に殲滅されてしまっていた。ついでに僕の体も完全に傷が治っている。


「案内してください。他のお仲間も怪我をなさっているのでしょう?」


 あれだけの戦闘の後だというのに、彼女の顔は涼しげだった。


 エミリア・ネルシュタイン。僕たちの命の恩人。

 僕はこの日のことを決して忘れないだろう――。

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