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第三話

「え、エミリア。君は本当に……」


 ニック殿下が愕然とした表情をしながら、侮蔑を込めた視線を私に送ります。

 本当は弁解したかった。信じてもらえずとも無実を訴えたかった――。

 

 しかし、ネルシュタイン家にとってマーティラス家は神にも等しい存在。例えば、クラリス様が雪を「黒い」と言えば、私はそれを肯定して「黒い」と答えなければならないのです。


 つまり、彼女が私を潰そうと考えた時点で私の負けは決まっていました。


 クラリス様はきっと約束は守ってくださるでしょう。ネルシュタイン家を潰しても何の得もありませんから。

 その代わりに私は罪人です。畏れ多くも王家の人間に怪我を負わせて、それをたらし込んだ悪女にされてしまったのですから。


 ニック殿下には顔も見たくないと言われ、クラリス様はそんな彼に寄り添いながら、私に国家追放の罪を受けることになる、と宣告されました。


 つまり、私はもう二度とネルシュタイン家に戻ることは許されなくなったのです。


「死罪にならなかったのは殿下の情だってさ。つまらないけど、あんたの顔を見ずに済むならそれで我慢してもいいわ」


 ニック殿下が帰られると、クラリス様は退屈そうな顔をしながら私が死罪にならなかった理由を述べました。

  

 殿下、ごめんなさい。あなたの情けによって貰えた命――せめて大切にさせてもらいます。


「感謝なさい。私、面倒な手続きも全部やってあげたの。もうじき、執行人たちが来るから……、あなたは直ぐにでも追放処分を受けることになるわよ」


 えっ? もう、そんなことを?


 だって、私はまだメイド服を着たまま着替えもしてませんし、荷物も何も準備してません。

 こんな状態で放り出されるなんて……野垂れ死にしろと言っているようなものです。


「あ、そうそう。殿下には伝え忘れたけど、あんたには特別サービスしてあげるんだった。これからあんたが向かう場所――それは『魔の山脈』と呼ばれている『デルナストロ山脈』の樹海よ」


 デルナストロ山脈――このボルメルン王国と隣国であるメーリンガム王国を東西に分ける巨大な山脈です。

 

 かつて、魔王と呼ばれた者が居城を構えていたというその邪悪の本拠地は、現在でも多くの魔物たちが住処にしておりました。


 そこには多くの貴重な魔法鉱物と呼ばれる資源が眠っているのですが、そんな状況のため……屈強な冒険者たち以外は決して中に足を踏み入れないのです。


 国家追放される者は大抵は南か北の国境沿いの関所に送られるというのに。クラリス様は自分の楽しみのために私を――。


「せっかく命は助かったと思ってたのに……残念ねぇ。丸腰であんなところに行ったら魔物の餌になるかしら? それとも八つ裂きにされちゃう? 私をナメた報いなんだから、それが当然よ。ネルシュタイン家の生まれのクセに調子に乗ったことを後悔なさい。あーはっはっは」


 嘲り笑うクラリス様のその美醜が入り混じった顔を私はもう忘れることがないでしょう。



 彼女の言ったとおり執行人たちは5分と経たない内に到着して、私はこのままの格好で馬車に乗せられて、そのまま丸三日かけてデルナストロ山脈の樹海へと送られました。

 その間、私は水と一切れのパンしか食事を与えられておりません。


 ――樹海はまだ昼過ぎだというのに、木々が鬱蒼と生い茂っていて、真夜中のように暗かったです。


 もう、この故郷の地を踏むことは二度とない……そう思うと自然に目頭が熱くなります。

 

 感情を殺して生きていましたけど、もうその必要がない……そう思うと頬が自然と冷たくなりました。


 この山で私は朽ちて、土になるのでしょう――。



 ◆ ◆ ◆



「意外と何とかなるものですね……」


 ワーウルフやデビルベアといった獣型の魔物の肉の臭みを運良くその辺に生えていた香草を使って消しながら、私は自分が思ったよりもサバイバル出来てることに驚いていました。


 魔物を狩るのは慣れてましたし、食べられる植物も大体分かります。お腹が空いていたので食事にすぐにありつけたのは非常に助かりました。

 魔法が使えるので、水の調達や火を起こすことも出来ますし、丸腰と言ってましたが実は果物ナイフは携帯してましたので、調理なんかはそれで何とかなります。


「うーん。やはり、塩気が欲しくなります。調味料を発明された方は偉大と言わざる得ませんね」


 イマイチな味付けに首を傾げながらも、私は薄くスライスしたワーウルフのもも肉を口に運んでいました。


 まぁ、餓えなければ何とか人里に辿り着けるでしょう。


 ――おやっ? 今、何か声のようなものが。

 

 少しだけ希望を持てた私の耳に男性の声が届いたような気がして、私はその方向に首を向けます。


「ううっ……、だ、誰か……いるのか……」


 声のする方向からは腹と肩から多量の血を流した金髪の青年が、よろよろとこちらに歩いていました。

 

 まさか、こんなところで人と出会うなんて……思いもよりませんでした――。

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