第十八話(クラリス視点)
「やっほー! あんたがエミリアちゃんの元ご主人様のクラリスちゃんか」
メリッサに連れられて応接室に入ると、如何にも平民って感じの赤毛の女がソファーに座ってた。
誰がクラリスちゃんよ。もっと卑屈になって敬いながら、クラリス様と呼びなさい。
「メリッサ、帰ってもらって。私は疲れてるの。朝からずっと結界張りっぱなしだったし」
「だ~か~ら~、来てやってんのよ。うちのエミリアちゃんの結界……すんごいの。魔物が大量に現れても全っ然壊れないんだから。クラリスちゃんも習ったらいいのに」
何なのよ! この偉そうなクソ女は! この私が、この聖女クラリス様がエミリアみたいな使用人に教えを乞いなさいですって!?
私のことを何だと思っているの? 無礼にも程があるわよ。
「メリッサ、二度も言わせないで。帰ってもらいなさい。そもそもエミリアはこの国を追放――」
「ほう、エミリア・ネルシュタインがメーリンガム王国で巫女をねぇ。あの子は結界術が使えたのか……。知ってたか? クラリス」
お、お、お父様……。何でお父様がここにいるのよ。
まさか、メリッサのやつ。お父様まで呼び付けて。
お父様にエミリアが結界術を使えることがバレたらヤバいってのに。
「い、いえ……、初耳です」
「へぇ、そうなんだ。てっきり、あたしはクラリスちゃんの代わりに結界を張ったりしてたと思ってたわ。なんせ腕が良いからね。エミリアちゃんのおかげでさ、メーリンガムには魔物はほとんど入って来ないのよ」
「なるほど。知り合いがメーリンガムは治安が良いと話していたが……まさかエミリアのおかげだったとは」
くっ、エミリアのやつ……隣国で何を遠慮なしに生きてんのよ。
あいつがメーリンガムで活躍なんかしてなかったら、私がこんな目に遭わなくても済んだのに。
「エミリアちゃんはこっちの国も救いたいんだって言ってんのよ。クラリスちゃんが苦戦してるって聞いたからさ」
「ふーむ。嬉しい申し出だが……エミリアはこの国で不祥事を起こしましてな。追放者を国内に入れるわけには――」
「そこよ、そこ。マーティラスさん、あたしらはエミリアちゃんがそんなセコい罪を犯したなんて信じられないのよ。冤罪って線を考えてるってわけ」
こいつの目的はそれか。さっきから、ニヤニヤしながら私の顔を見て。
エミリアが何か言ったのかしら。だったら、もっと私を追求しても良いはずだけど……。
「冤罪か……。確かにエミリアはよく働いてくれていた。ニック殿下があれほど早く刑を執行しなければ、私も再調査を進言していたところだ」
そう。だから、お父様が留守の間を狙ってあの子を追い出したの。
そして、偽の証人を国外に逃した。あいつらが見つからない限り、私が疑われることはない。
メリッサが証拠とか言ってるけど、絶対に見つかりっこないんだから。
「旦那様、レヴィナス家のネットワークを利用して調べたのですが……。誰かさんが雇ってたらしいんですよね。エミリアさんの罪をでっち上げる証人を……」
「――っ!? メリッサ!!」
馬鹿な!? エミリアについて嘘の証言をした証人たちが見つかるわけ……。
いや、レヴィナス家は王家のために諜報活動をする特殊な部隊があると聞いたわ。メリッサなんて、ただのメイドのはずなのに。そんな連中を動かせるはずが……。
「メリッサ……、それは本当かね? 確か、レヴィナス伯爵から君の兄は諜報部隊の部隊長をしていると聞いたが」
「ええ。実は私はエミリアさんに恩がありまして。今回のことが信じられなくて、兄に頼んで調査をお願いしたのです」
「へぇ~~、それはいいタイミングね。だったら、エミリアちゃんの冤罪が晴らせるじゃない」
イリーナは嬉しそうに笑い、メリッサは静かに私に近づき耳打ちする。
「……頃合いかと思いまして。あなたの信頼も落ちてきたことですし」
「うっ……」
どうしよう。どうしたら、私は……。
このままじゃ、バレちゃう。こうなったら、メリッサを殺しちゃう? いや、お父様も聞いちゃったし……それは無理……。嫌だ、嫌だ、嫌だ……。
絶対に許さない。エミリアも、メリッサも。この屈辱は必ず……。
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