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第十五話

「私はこうやって魔力を運用してます。左右のバランスを気にしながら、均等に配分出来るように……」


「凄いです。エミリアさんの言うとおりにしてみたら、かなり楽に結界を張れるようになりました。以前よりも堅固になりましたし」


 私の結界術は独学ですが、魔力の燃費が良い上に丈夫だということでノエルはどのようにして発動しているのか教えてほしいと尋ねてこられました。


 元々巫女であるノエルは私がコツを教えますと簡単にマスターします。

 こうやって誰かに教えられることがあるということは少しだけ誇らしいと感じました。ノエルの負担を減らすことができて良かったです。


「結界術は複雑な行程ですから、やり方を知らずに独学で覚えるのは至難のはずなのに。エミリアさんの才能が羨ましいです」


「才能だなんて。ただ、必死だったんです。キチンとしなくては家が潰れるかもしれなかったので……」


 結界術だけでなく、クラリス様の身の回りの世話から護衛、時には諜報活動まで。多岐にわたって彼女の理不尽な要求に応えるため――私はどんな事でも出来るようになって、同時に複数の動作をすることが当然になっていました。

 マーティラス家のメイドたる者、これくらいは完璧に出来なくてどうするのだと、自分に言い聞かせて努力を続けていたのです。


「あっ、すみません。エミリアさんの努力を才能なんて陳腐な言葉で片付けてしまって……」


「いえ、そういうつもりで言ったわけじゃありませんから。ノエルさんこそ立派です。純粋に国を想う気持ちから巫女になろうと決心したのですから。私よりも数段崇高な精神を持ち合わせています」


 私にとって巫女という仕事は腰掛けというか、成り行きというか。右も左も分からない故郷の隣国で食べていくための手段です。


 結界術が出来るからその仕事に就いただけで、何か明確なビジョンがあって始めたことではないのです。


「では、エミリアさんはこの国がお嫌いですか? 皆さん喜んでいますよ。あなたが来て良かった、と。もちろん、私も……」


 ノエルは私の手を握りしめて真っ直ぐに目を見つめられました。

 その綺麗な瞳に吸い込まれそうになる錯覚を覚えた私は妙な心地良さを感じます。

 

 この国が嫌いなはずがありません。得体の知れない存在の私を受け入れてくれたのですから。

 厳格ですが優しく私たちを引っ張ってくれるクラウド、いい加減なように見えて面倒見の良いイリーナ、そして同じ巫女として志を共にするノエル。


 短い間に大切な人がこんなに出来ました――。


「私はメーリンガム王国が好きですよ。そりゃあ何としてでも守りたいと言い切れるくらい長く居た訳じゃないですが。少なくとも仲間は守りたいと思えるくらい……」

  

 これが私の本心です。大事な人が出来たから守りたい。それならば、今の巫女という仕事にもそれなりに誇りが持てると思いました。


 でも――。


「やっぱり故郷が気になりますか?」

「ノエルさんは私の心が読めるのですか?」

「そんな能力はありませんが、エミリアさんが優しい方なのは知ってますから」


 そうです。私は故郷であるボルメルン王国のことを気にかけてます。

 クラリス様が一人で国を守りきれない場合……国にもしものことがあれば、ネルシュタイン家に残した家族がどうなるのか想像もつきません。


 色々と気にして情報を集めた結果……分かったことは魔物からの被害が思った以上に甚大ということでした。


 隣国とはいえ、魔物の巣窟であるデルナストロ山脈を越えた場所に故郷はあるので何もすることが出来ないことが歯がゆいです。

 もっとも国外追放処分を受けた私があちらにいくことは無理なのですが。


「エミリアさんが故郷を助けられるように私も何か出来ないか考えてみます。クラウドさんたちにも相談して」


「の、ノエルさん?」


「エミリアさんには曇った顔は似合いませんから。悩みを解消するお手伝いがしたいんです。恩返しとして……」


 彼女は大真面目でした。私のために何の縁もない隣国を助けたいと本気で提案したのです。

 ノエルの言葉で私は少しだけ心が軽くなりました――。

 

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