第十三話(クラリス視点)
「クラリス・マーティラス……、そなたが何故ここに呼び出されたのか分かっておるな?」
「はい……」
ちっ! 何で私がこんなことに。謁見の間で跪きながら私は自分の不運を呪った。
目の前にいるのはボルメルン王国の国家元首。ヴィルフリート・ボルメルン陛下その人。
こっそり仕事をサボったりしてたら次々に結界が破られて魔物が大量に国内に入ってきたらしい。かなりの死者が出たらしく、中には陛下の旧友という人物もいたみたいで、私の責任が追求されている。
何よ、普段は聖女様って頼ってくる癖に、ちょっとミスしたらこうやって責めるなんてどうかしてるわ。
お父様の耳にも入って大目玉食らうし。大体、『魔周期』なんだから犠牲が出るのは当たり前でしょ。聖女が一人しかいないんだから、仕方ないじゃない。
「噂によると聖女クラリスは自分の職務を忘れ……それを放棄しておると聞いたが、それは真か?」
だ、誰がチクったのよ。信じられない。まさか、メリッサ? あいつには口止めしたはずだけど、私のことを舐め腐ってる節があるし。
まったく、少しだけ休憩してたら、それを怠慢だって責め立てるなんて。
息抜きくらい誰だってするでしょ? そんな細かいことを糾弾するなんて、なんて狭量な王なのよ。
「いえ、とんでもありません。私は一日いえ……一秒たりとも聖女であることを忘れたことはございません。陛下の仰るとおり、残念なことが起きてしまったのは私の力不足ですから、言い訳はしませんが……それだけは信じてください。ぐすん……」
私は精一杯目に涙を溜めながら、陛下の信頼を勝ち取ろうとした。
ここは変に言い訳しないほうがいいわ。この際、力が足りなかったことにして逃げ切るしかない。
「父上、クラリス殿は嘘は吐いてないように見えますが」
私の援護射撃をしてくれたのは第四王子のニック殿下。エミリアの元婚約者だ。
この世間知らずの坊っちゃんはちょろい。私の用意した偽の証拠を鵜呑みにして簡単に婚約者を追放するんだから。
まっ、あんなに簡単に崩れる愛なんて大した絆じゃなかったに違いないわ。あんまり簡単に上手くいってエミリアも顔を真っ青にするもんだから、笑いを堪えるのが大変だったわよ。
「ふむ。ワシもニックのようにクラリスを信じてやりたい。マーティラス家は代々国を守護しておるし、その歴史の中でもクラリスの力は強い。国民からの人気もあったしのう――」
「ならば父上!」
「だからこそじゃ! それだけの力があるにもかかわらずこの体たらく。違和感を感じんか!? 急に魔物が大量に入って来たのじゃぞ!? 怠慢が招いた結果だと疑わん方がおかしいじゃろ?」
あーあ、この頑固親父マジでしつこいわね……。
本当にエミリアが居なくなってろくなことが無い。許してあげたら良かったのかなぁ。
いや、何言ってんの。あのクソ生意気なエミリアを許すなんてあり得ない。
それにあいつはデルナストロ山脈に捨てられたのよ。生きてるはずがないわ。
「――とにかく、次に同じようなことが起きたら……如何にマーティラス家の聖女であってもタダでは済まんから、それを忘れるでないぞ」
「はい、陛下。聖女としての自覚を持ち。国のために微力を尽くすことを誓いますわ」
「うむ……」
はぁ、やっと終わった。ウザい説教が……。
昨日はお父様に叱られて、今日は陛下だなんて。厄年なのかしら? ニックの弁護も役に立たないし。
「クラリス様、お疲れのところ申し訳ありませんが、南西の森の結界が限界を迎えつつあるそうです」
「はぁ? 私、今……疲れてんだけど。明日でいいでしょう?」
「遅れると旦那様の耳に届きます故、早い方がよろしいかと」
「ちっ! あんたがチクんなきゃ良いでしょうが!」
私はイライラしながらメリッサの言葉に返答した。
そうよ。こいつが来てから全部おかしくなったのよ。この女を何とかしなければ、私の築き上げたモノが壊れてしまう。
――絶対に許さないんだから。
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