第十二話
「た、確かに完璧な結界術じゃ。これほど見事なモノは見たことないやもしれぬ」
メーリンガム王国の国王。アルフレッド・メーリンガム陛下は臨時で執り行われた巫女試験で私の結界術をご覧になり、感嘆されたご様子でした。
クラリス様の黄金の結界術と比べて些か不格好なのですが、問題ないみたいです。
「文句なしに合格じゃ。これでメーリンガムに二人目の巫女が誕生した。エミリア・ネルシュタイン、そなたをメーリンガム王国の至宝の存在として認める」
アルフレッド陛下から私は巫女の証である腕章を授与されました。
巫女になるとその扱いは上流貴族と同様になるらしく、この腕章には身分を示す意味もあるそうです。
ということは、もしも故郷のネルシュタイン家が危機的な状況に陥ったとしても、私が巫女である限りは家の人たちをこちらで匿うことくらいできるのでは? そういう意味でもこの身分保証はありがたいですね。
「しかし、クラウドよ。護衛隊の人数に些か問題があるのでは? エミリアを守る者の人数は確保しておるのか?」
陛下はクラウドに護衛不足について尋ねられます。
この問題についてはクラウドとイリーナも悩んでましたので、私からの提案を飲んでもらう形にしました。
「はっ! エミリア様には護衛隊も兼任していただきます。彼女は結界術を使いながらでも、戦闘することが可能な人材ですので、暫くはノエル様と共に動きつつ交代で結界術を使っていただく予定です」
そう、護衛隊の人数も足らないなら戦力を分散させるのは愚策です。
なので、精神力と魔力の消耗が激しい結界術は交代しながら使用して、ノエルが結界術を使っているときは私は護衛として動くことを提案しました。
彼らは無茶だと言われましたが、私としてはマーティラス家のメイドをしているときよりも楽できるくらいでしたので、このやり方で何の問題もなありません。
「――ほう、何とも稀有な人材よ。クラウド、エミリア・ネルシュタインは国の宝とも呼べる傑物。何よりも優先し、彼女を守るのだ」
「承知しました」
アルフレッド陛下の言葉にクラウドは傅き、巫女試験は幕を閉じました。
これで、私は明日から巫女として護衛として働くこととなったのです。
そして、月日の流れは早く、私が巫女になって2ヶ月が経過しました――。
◆ ◆ ◆
「今日はこれで終わりですね。あれから、また急激に魔物が増えたのでエミリアさんが一緒で助かりました」
「い、いえ。私も国を追われたときはどうしようかと思いましたが、こうして暮らしていけるので助かってます」
仕事が終わりもう一人の巫女であるノエルと互いに労いの言葉を交わしました。
彼女の綺麗な目を見ると未だに緊張してしまいます。
「しっかし、エミリアちゃんはすげーよな。武芸百般っつーか。剣も槍も魔法も全部つかえるんだからさ。おまけに結界術も完璧だし」
「……イリーナ、何度も言うが。エミリア様と呼ばんか!」
「いいんですよ、クラウドさん。私もその方が気楽ですから」
「そうだろ? あたしもさー、ノエル様みたいに最初から巫女だったら畏まっちまうんだけどな。エミリアちゃんは、半分同僚みたいなモンだし」
肩を組んで楽しそうに話すイリーナと、規律に厳しく真面目なクラウド。二人とも新人の私をよく気遣ってくれるので、こちらでの暮らしにはすぐに慣れることができました。
「そういや、知り合いのAランク冒険者から聞いた話なんだけどさ。ボルメルン王国から国外に移住する人が増えてるんだってさ。魔物がめっちゃ国に入るからって」
「ほう。しかし、エミリア様が言うにはあちらには優秀な聖女とやらがいるのではないのか?」
「んー、あっちもこっち並みに魔物の数が増えてるだろうからさ。色々と一人じゃキツイんじゃないのー?」
ボルメルンに魔物が多く侵入してる? まさか、クラリス様のサボり癖が災いして?
イリーナとクラウドの話を聞いて私は故郷に迫っている危機的状況を感じ取っていました。
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