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8話

 逆に清々しいくらいの見事な舌打ちをしてくれた受付嬢さん。100点満点。

 しかし悪い意味で有名だろうと、わたしの態度は変わりません。老若男女問わず。


「今お時間いいですか?」

「ダメです帰れ」


 取り付く島もありません。酷い言われように泣きそうです。ぐすんぐすん。


「まあそう言わず。すぐ済みますから」

「ここはあなたのような方が来る場所ではありませんお帰りはあちらですどうぞ」


 わたしの背後を手で指し示して早口で「出ていけ」と言われてしまいました。

 こんな可憐な乙女を雨の中へ放り出すなんて、よくそんな酷いことができますね。葬儀屋が葬儀屋に訪れることのなにがおかしいのでしょう。

 小声で「死神め……」と口が動いたような気がしましたが、それは気にしないことにして。


「わたしを早く帰したいなら話を聞いてくれたほうが賢明ですよ」


 話を聞いてくれるまでここを動くつもりはありません。

 そんな意思の固さを感じ取ったのか、盛大にため息をこぼして嫌々ながら対応してくれました。本当に嫌そうです。


「なんの用ですか?」


 折れてくれた受付嬢さんに「ありがとうございます」と、しっかりと美しく完璧なお辞儀をしてから本題へ入ります。


「昨日、死体が運び込まれたはずです。全身の皮が剥がされていたとか」

「…………」

「検分させてください。この街のために」


 すでに五人、同じ被害に遭っていると門番さんは仰っていました。

 ──二度あることは三度ある。

 五度もあれば六度目だってあるでしょう。この事件がこれで終わるなんて楽観的な考えは早々に捨てるべきです。


「……少しお待ちください」

「どちらへ?」

「タオルを持ってきます。濡れたまま歩かれるのは迷惑ですから」

「それは確かに」


 雨も滴るいい女ではありますが、濡れたままでは礼を欠くのもまた事実。これからお会いするのは死者ですから、最低限の身だしなみは必要です。

 受付嬢さんが持って来てくれたタオルでできる限り体を拭いてから、お返ししました。


「では、こちらです」


 受付嬢さんは奥の霊安室へと案内してくれました。

 霊安室とは、死んだ人を一時的に置いておく部屋のことです。死体安置所や遺体安置所とも言います。

 弔いかたは地域により様々ですが、基本は火葬か土葬。お金があれば火葬、無ければ土葬と思ってもらって構いません。

 悪魔は死体に宿るため、土葬では魔人になってしまうリスクが付き纏うのでなるべく火葬をオススメします。ちゃんと手順を踏んでお祈りすれば土葬でも大丈夫です。


「さっさと済ませてくださいよ。あなたと一緒にいたと知られたらなんと言われるかわかったものじゃないですから」


 言いながら案内されたそこには、人一人が入れる長方形の箱がいくつも並べられていて、そのうちの一つの前で立ち止まりました。


「きっと『羨ましい』と言われますよ」

「チッ」


 またしても見事な舌打ちを決めてくれました。

 心地の良さすら感じながら、全身の皮が剥がされた被害者とご対面。

 箱の蓋を開けます。


「……これは酷いですね」


 話に聞いていた通りと言いますか、それ以上と言いますか。




 頭のてっぺんから足の爪先まで、本当に全身の皮が綺麗に剥がされた男性の死体が収められていたのでした。

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