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4話

「ここだよ」


 男の子の案内に従って連れて行かれたところは、正直に言ってそこそこオンボロの宿屋でした。

 と言いますか、宿屋の看板を掲げているだけで、ただの一軒家です。洗濯物が二階の広めなベランダに普通に干してあります。どこのご家庭でも見る当たり前の光景。民宿と言ったほうがイメージに合っているかもしれません。

 だからこそわたしは安心しました。これなら宿代は安く済みそうだと。

 男の子と一緒にささくれだった木の扉をくぐって中に入ります。


「ただいまー! お客さん連れてきたよー!」


 男の子は元気にそう言いながら慣れた様子で奥へ進んでいきます。普通はすぐに受付があって名前を書いたりお代を支払ったりするものなのですが、ここは違う様子。

 ただいま、ということはこの宿はあの男の子の家でもあるようです。

 少しすると、奥の部屋から男の子が戻ってきます。誰かを引き連れて。

 見た感じ、やや歳の離れた兄、といったところでしょうか。男の子が成長した未来の姿を見ているようです。よく似ています。


「……弟から連れて来たって聞いたけど、見ての通りのボロ宿だ。それでもいいのか?」


 やはりこの二人は兄弟のようです。

 わたしはニッコリと微笑んで問いに頷きました。


「構いません。雨風が凌げて、食べられる物が出てくれば」

「チッ。ウチをなんだと思ってんだ……」


 あまり良くない顔をされてしまいました。自分で『ボロ宿』って言ってたのに。なぜ。

 お兄さんは小さくため息をつくと、後頭部を掻きました。


「まあいい。変に期待されるより、それくらい下に見てもらったほうがこっちもやりやすいってもんだ」


 お兄さんが人差し指をクイクイと動かして視線で「ついて来い」と伝えてきたので従います。


「部屋は二階の一番奥な。で、ウチは一泊するごと、食事をするごとにお代を頂くことにしてるから、食事が必要なときは事前に言ってくれ。じゃないと用意しないから注意しろよ。当然、どっちも先払いな」


 シンプルでわかりやすい、良いシステムですねそれ。


「ちなみにそれぞれおいくらですか? 見ての通りの旅人なので所持金は雀の涙なのですが」

「どうせ弟が『安くしとく』みたいなこと言ったんだろ?」

「ええ」

「これ以上安くできないくらい、もともと安いから安心しな」

「なるほど。これは弟さんに一本取られてしまいましたか」


 どうして人は〝値引き〟や〝限定〟という言葉に弱いのでしょう。わたしはまんまと弟さんのセールストークに引っかかってしまったわけですか。


「弟さんは将来有望ですね。このボロ宿も安泰です」

「はっ」


 鼻で笑われてしまいました。

 笑ってくれるとは思っていなかったので、どうやらわたしはジョークの才能まで持ち合わせていたようですね。わたしってばやっぱり天才。どや。

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