3話
門番さんからの簡単な質疑応答を終えたわたしは門をくぐり、街の石畳を踏み締めます。
つい先ほど怪事件が発生しているという話を聞いたものですから、もしかしたら閑散としているんじゃないかと思いましたが──案の定、閑散としておりました。
勇気ある者だけが道の隅で露店などを出し、まばらな客が視線を流すだけ。
きっと本来は、沢山のお店と沢山のお客で賑わっていたことと思います。
「さて、まずは拠点を探さないとですね」
そんな光景を横目に見ながら、観光がてら適当に歩きます。
所持金的にこれ以上は旅を続けられそうにありません。しばらくこの街に滞在してある程度稼いでから出立しようと思います。
そのために、まずは腰を落ち着けられる場所を確保しないといけません。
いざとなったら好物のパン屋さんにでも短期で雇ってもらいましょう。人の顔と名前は覚えられませんが、パンならば名前も値段も覚えるのは得意なんですよ。どや。
別に賄いを頂けるとか期待してませんよ? ホントですよ?
「おねーさん」
男の子に声をかけられたような気がしますが、今はそれどころではありません。わたしの頭は残りの所持金を宿に割くか食事に割くかで揺れています。
「おねーさんってば!」
安い宿に泊まり、美味しい食事にありつくか、食費を切り詰めてそこそこの宿に泊まるか。
旅の疲れも癒したいので寝床のランクは高いほうがいいですが、空腹も満たしたい……ああ悩ましい。
「あれー、聞こえてないのかな……? そこの白くて綺麗なおねーさん!」
「はい、なんでしょう。綺麗で美人で白百合のように美しい完璧なお姉さんですが」
「そこまでは言ってないよ?!」
「声が聞こえた気がしましたが、幻覚でしたか。先を急がねばなりませんね」
「待った待った! 言った! 言ったから待ってってば!」
わたしの進行方向に割って入ってくる男の子。
10歳ほどでしょうか、茶髪にまだまだあどけなさの残る顔つきをしています。
不思議とからかいたくなってしまうような雰囲気を出していました。
「おねーさん宿を探してるんじゃない?」
「よくわかりましたね」
「その格好と荷物を見たらこの街の人じゃないってすぐわかるよ。拠点がどうのって聞こえたし」
「君が宿を紹介してくれると?」
「その通り! ご飯も美味しいし、安くしとくよ!」
まさに棚からぼた餅。口は災いの元とは言いますが、口にしたからこそ引き寄せられる幸運もあるということですね。これはラッキーです。
「ちなみにですが」
「うん?」
「わたしの懐の寒さを舐めないほうがいいですよ」
どや。
「誇らしげに言うことじゃないよ?!」




