22話
──死神め。
受付嬢さんが呟いた言葉が脳内を反芻しました。
そう、わたしは死神。
人間にとっても。そして、悪魔にとっても。
「物騒だなあ。言葉遣いには気をつけたほうがいいって記憶にあるよ?」
「それはお前の記憶じゃないだろ」
「御明さブ」
「黙れ」
わたしとのお喋りで油断でもしていたのか、簡単に顔面を鷲掴みにできました。頬に爪を食い込ませて。
滲む血が爪の隙間に入り込んで、不快感がさらにわたしの握力を増大させます。
「お前が門番さんじゃないのなら、もう遠慮する必要はない。どう死にたい? 圧死? 爆死? 焼死? 凍死? 一番嫌いな死にかたを選ばせてやる」
簡単に殺してしまっても良いのですが、それではわたしの気が収まりません。金輪際、常世の空気を吸えなくしてやります。
口を塞ぐようにして鷲摑みしていたのに、口が額のほうへ移動しました。きしょい。
「好きな死にかたを選ばせてくれないなんて酷い人だ。でも君は忘れていないかい? 私の魔法を」
三日月のように細くなる悪魔の目。
確かに、この悪魔はまだ一度も魔法を使っていません。ナイフを使った近接戦闘しか行っていないのです。
そしてこの悪魔の魔法の本質をわたしはまだ理解していません。人間の皮を剝ぎ取ったのがこの悪魔の魔法、と推察したりもしましたが。
「私の魔法は──記憶を読み取ることさ」
「……皮を剥ぎ取ったのは魔法ではないと?」
「あれは手作業だよ。綺麗だったろう? 慣れたものでね、ちょっとした自慢さ」
「悪魔め」
「最高の褒め言葉だ」
思い返してみれば、記憶を拝借したようなことを言っていましたね。そしてやはり、首の切り傷から皮を剥ぎ取っていた、ということでしょう。
タネが明かされたところで、今更という感じですが。
「そしてこの魔法のお陰で、私はずっと生きながらえてきた」
「もうすぐ死ぬ」
「それはどうかな。葬儀屋とは何度か遭遇しているけど、須く凄惨な過去を持っていた。そこをほじくるだけで面白いくらいに自滅していったよ」
「……なるほど。なら、やってみるといい。後悔するぞ」
「言ったね? ではお言葉に甘えて、そうさせてもらおうかな!」
わたしの目を見つめる悪魔の瞳が虹色に揺めきだしました。
そして──
「おぼぇ」
──額から吐瀉物を撒き散らしました。クソが。




