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17話

 いつもは全方向から均等に圧力をかけてペシャンコにします。このほうが余計なことを意識せずに済んで簡単なので。

 ですが今回は板と板で挟むようなイメージで潰してあげました。こうすることによって人としての原形は残さず、面影は残すことができます。

 とっさに領域の形を変えることくらい、このわたしならば造作ぞうさもありません。なら頭を残せたのでは? なんてことは言いっこなしです。

 これならギリギリお兄さんであるとわかるでしょう。両腕はその辺に落っこちちゃってますけど。


「確認が取れないと面倒ですし。酷だとは思いますが」


 ショックで身内が死んだことを認められない人も沢山いるので〝誰なのかわかる〟ことは葬儀屋として必要なことです。

 そういう意味では容赦する必要がない魔教徒を相手にしたほうが気が楽ですね。一応報奨金も出ますし。

 あ、魔教徒というのは悪魔信仰のクソみたいな連中のことです。ぐしゃぐしゃにしても誰も文句は言いませんし、むしろ喜ばれるくらいの連中です。


「気が重いですね。門番さんにはなんとお伝えしたらよいでしょうか」


 弟さんの魔力板マギボードについても気にかけているようでしたから、きっと家族想いの方だったに違いありません。だというのにご子息を亡くされて、さぞ悲しまれることでしょう。

 ……そういえばお母様はどうしたのでしょうか。存在を臭わせることもありませんでしたが。


「ひとまず弟さんを移動させましょう」


 ベランダでずっと雨ざらしになっているのは可哀想ですから。

 消し損ねた紫炎を圧縮して消しつつ、お兄さんの隣に寝かせてあげて、今度こそちゃんと手を合わせて祈りを捧げました。

 ──せめてあの世での邂逅かいこうを。


「なに……これ……」


 そのとき、ふと女性の声が聞こえてきました。このタイミングで現れたということは、もしかしてお母様かもしれません。

 声のほうを見てみると、そこにいたのは葬儀屋でお世話になった受付嬢さんでした。舌打ちが気持ちいいあの人です。でも母親にしては若すぎます。お姉さんとかでしょうか。

 戦いの影響で元々ボロボロだった宿屋はボロボロを通り越してもはや廃屋です。穴ボコだらけなのは魔人の紫炎とわたしの魔法のせいですが。

 受付嬢さんはキョロキョロとして、そんな凄惨せいさんな屋内を見回しています。


「またお会いしましたね」

「げ。どうしてあなたがここにいるのよ?」


 受付嬢さんが心底嫌そうな顔をしています。また舌打ちが聞けそうです。


「ここでお世話になることになっていたのですが」

「……え?」

「葬儀屋から戻ってきたらここの弟さんが亡くなっていまして」

「……へ?」

「それからお兄さんが魔人になってしまったので処理しました」

「……は?」


 正直に、端的たんてきに、顛末てんまつを語りました。受付嬢さんは固まりました。


「ち、ちょっと待って……あんたの後ろのって……まさか」

「ああ、コレはお兄さんで、こちらは弟さんです」


 声の震える受付嬢さんにも見えるように一歩位置をずらしながら、手で示します。


「ちょうど良かったです。受付嬢さんは身内の方で合っていますよね? お兄さんと弟さんであると確認を取っていただけますか? ちょっと難しいかもしれませんが」


 かたやペラペラ、かたや皮なしですから、パッと見ではわからないかもしれません。


「葬儀屋なら死体は見慣れていますよね。身内なら特徴も把握しているはずです」

「……これで、私一人……」


 受付嬢さんはフラつく足取りで歩み寄り、息絶えている二名の前で──




 ──自害しました。

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