13話
わたしの体を包み込む紫色の炎。恨みと憎しみによる負の感情が熱量を伴って襲いかかります。
「まあ、わたしには効きませんが」
わたしは魔力を全身の表面に纏わせるように展開し、魔法を発動。
全身を覆う紫炎を直接圧縮して瞬く間に消し去り、傷も汚れも無い美しい姿を魔人に見せつけてやりました。どや。
目には目を、歯には歯を。
魔法には魔法で対抗する他ありません。一般人なら抵抗すらできずに死に、魔法使いでも策が無ければ即お陀仏。
「単純に相性が悪かったですね」
わたしが身に纏っている白い旅装束は特別な難燃素材で出来ていますが、さすがに魔法の炎を耐えるのは難しいです。すぐに真っ黒けです。
お気に入りですし高かったので、そんなことになってしまってはショックで死んでしまいます。なので即対応です。
そして振り返りながら遠心力を乗せた裏拳を右頬へ叩き込みました。
顔面にめり込む確かな手応えと共に、魔人は後方へ激しく吹き飛び、壁をぶち抜いて家の中へ。
「女性だからといって、非力だと思ったら大間違いですよ」
どや。
単なる力勝負では敵いませんが、全身の力を全て効率よく打撃に乗せることができれば、それなりな威力になるのです。当たるとは思っていませんでしたが。
「周囲の被害を考えると家の中のほうがいいでしょうか」
魔人が出たことはあまり周囲の人たちに知られたくありませんし、中で処理するとしましょう。混乱を招くといけませんからね。
幸いにも今は雨。外を歩いている人はおらず、今のところ目撃者はいません。近所の人は騒がしくて不審に思っているでしょうが、こちらはそれどころではありません。
「ふぅ」
──あれはお兄さんではなく魔人。あれはお兄さんではなく魔人。あれはお兄さんではなく魔人。あれはお兄さんではなく魔人。
悪魔。悪魔。悪魔。
人類の敵。滅ぼすべき相手。
殺す。
自己催眠のように自分に言い聞かせながら、崩れて穴の開いた壁を跨いで家の中へ。
「隠れても無駄ですよ」
負の感情を孕んだ揺らめく紫炎が存在を教えてくれます。あちらも、もはや隠れるつもりなどないのでしょう。ありとあらゆる感情がわたしへと向けられているのだから。
ひしひしと感じます。プレッシャーを。
「今度はこちらから行きますよ」
わたしが使える魔法は距離が近ければ近いほど有利に働きます。家の中ならば申し分ありません。
手を差し向け、魔力の領域を前方へ伸ばし魔人に重ねてすぐ、開いていた手の平を握りました。
次の瞬間、魔人の左腕がボドッ……と床に落ちました。




