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第8話 どうせなら

星降る夜に、あの日のキスを~から、試験的にタイトルを変更しました。内容は変わっていません。

 かつて他校の王子であった有名人に知られていたことに唖然としたアンジェラは、再びエドガーを見て納得した。


 エドガーの母ヴィクトリアはコンラッドの同窓生だ。

 彼らの出身校であるカレイド学園で、ヴィクトリアはコンラッドに次ぐ高成績保持者であり、その美貌とあわせても人気だった。


 ヴィクトリアとアンジェラは幼馴染であり、当時その関係から(というか、主にヴィクトリアのノリで)リリスとカレイドの交流会が多く持たれた。他の年代にはない特別とも言える期間だったそうだ。

 コンラッドはヴィクトリアにくっついていたアンジェラを、オマケ的な意味で覚えていたのだろう。となれば彼の立場や関係から、エドガーのことも、その特殊な事情のことも心得ているものだと納得した。


「旦那様は記憶力がよろしいんですね」

 覚えているとも否とも言わずにそう返すと、コンラッドが何か物問いた気な目になるのに気付いたが、何も言わずにエドガーに視線を戻した。


「エドガー。こちらの旦那様はカレイド学園現理事のお一人よ。あなた、本当だったらもうすぐカレイドに入学するはずだったわよね?」

「はい、先生。でも……」

 理事にどこまで伝わっているものか悩んだのか、珍しくエドガーの歯切れが悪い。でも根本的な事情を説明しないわけにはいかないだろう。


 とはいえ、

「あなた、世間的には武者修行の旅に出たってことになってるんですって?」

 一瞬堪えたものの、耐え切れずに少し噴出してしまう。

 実際捜索までして見せたというのだから、ヴィクトリアたちも徹底している。


「エドガー。君が復活した魔王を倒すため、勇者として異世界に呼ばれたことは知っている。まさかそれがここ(・・)なのか?」

 感情をうかがえない落ち着いた声のコンラッドに、エドガーは一瞬目を丸くした後、何かに気づいたように不敵にニヤリと笑った。

「閣下はもしかして、あかつ……」

「んんっ!」

 何か言いかけたエドガーの声を、コンラッドの咳払いが消してしまう。


(あー、不名誉なあだ名か何かをお母さんから聞いているのかな)


 そう察したアンジェラは何も気づかなかった振りをしたが、この人にもそんなものがあるのか思うと少しだけ親近感がわいた。他校生からは遠い存在でも、同窓生だったら意外な姿で親しまれていたのかもしれない。

 彼が素早く頷いて肯定して見せたことでエドガーは満足したようだ。


「じゃあ、何も隠し事はなしで説明します。」

 ホッとしたのだろう。先ほどまで小さくなっていた少年は、いつものようなふてぶてしいまでの自信に満ち溢れた顔に戻る。それでも目が申し訳なさそうなのは、本気で反省しているからのようだ。


   ◆


 長い歴史を持つゴルド家は、王国時代は王も輩出した由緒正しい血筋だが、話はエドガーの先祖が約三百年前に勇者として召喚され、魔王を封印したことにまでさかのぼる。


 その魔王の目覚める兆しがあったため、子孫である彼が再び召喚される事態になった。そのことはアンジェラも、彼の母親から聞いていてすでに知っていた。


 今のアンジェラが生きる世界には、「異世界につながる扉やひずみ(・・・)」のようなものが数多(あまた)に存在している。昔で言う王侯貴族並みに魔力の高いものでなければ感知できないし、見ることが出来る者も稀ではあるけれど、異世界という概念は昔からあったのだ。


 勇者としてこの世界に召喚されたエドガーは、自分を呼び出した魔術師や護衛騎士と共に、呼び出しの根本的な人物がいるという城に向かうところだった。

「城までは馬で三日程度の距離だったんですけどね」

 召喚には色々な必要要素があるとかで、それだけの距離が必要だったらしい。


 丁寧に対応されて順当に進んでいたものの、城まであと少しというところで魔獣に襲われた。

「あの飛竜?」

「いえ、あれはまた別で」


 魔獣の奥に、エドガーを迎えに来たのとは別の魔術師がいた。

 騎士らが魔獣たちに気をとられている隙にその魔術師が何かしようとしているのに気付いたエドガーは、まっすぐそこに駆けて行ったのだが――


「俺をどこかに飛ばそうとしてたんですよね。むしろ近づいちゃダメだったんです」

(でしょうね)

 なぜ行こうとしたのかと突っ込みたかったけれど、経験不足だからとしか言いようがない。若さゆえの自信過剰もあっただろう。


「何か空間がゆがんだ感じに気づきました。ぐにゃッとつぶされそうな重圧と共にそれに取り込まれそうになる瞬間、とっさに力になるものを呼んでしまって……」

「……ああ、なるほど。そういうことなの」


 エドガーの力を封じているのはアンジェラだ。

 順当にいけば解錠などいらない術だけど、エドガーはとっさに力を解放しようとしたと考えられる。


「エドガー。その時に何を考えたのか教えてもらっても?」

 コンラッドの問いに、エドガーは記憶をたどるように視線を少し上に向けた。

「力。安全。あと、錨のようなものでしょうか」

「なるほど」


 エドガーが無意識に呼んでしまったのはアンジェラだ。

 しかもアンジェラ自身に魔力が多かったため、自分がいた場所及び人まで巻き込んでしまった。妊婦である娘を巻き込まなかった分マシと言えないこともないだろうか。


「どうせなら、私一人を呼べばよかったのに」

 実際そうなると家庭教師ドタキャンで、やっぱり娘に叱られる未来しか見えないけれど、他人を巻き込むよりずっといい。

「いえ。先生、ガキみたいなことしてすみません」

 頭を下げるエドガーがしたそれは、無意識に母親を呼んでしまうに近い行為だった。けれど、アンジェラに彼を責める気はまったくない。むしろ今はエドガーと、巻き込んでしまったコンラッドたちを、それぞれどう無事に帰すかが問題だ。


「あの飛竜は、飛ばされた先で遭遇したの?」

「はい。飛ばされた先が割と大きな街中だったんですけど、そこにちょうど飛来したのを見つけたんです。明らかに飢えてて、小さな子どもを狙ってたから、囮になろうと思って引き寄せてあちこち走り回ってました」

「そう。頑張ったのね」

 しばらく走っても他に仲間はいない単体だったらしいので、群れからはぐれ迷った末に空腹で町を襲おうとしたと考えられる。

 ある程度のところで倒すことはできただろうけれど、エドガーの特技は剣だ。

 引き寄せるまでもう少し時間がかかっただろう。

 とにかく、エドガーも街の人も、メロディたちも無傷で本当によかった。


「旦那様」

「なんでしょう」

「どうやら私のほうがよっぽど、土下座をする必要があるようですわ」


 本気でそう言ったアンジェラに、コンラッドは、「そんなことは絶っっ対に、しないでくださいね!」と、目をむいた。


(いやぁ、でもねぇ。私がここにいなければ、旦那様たちはこんな目にあわなかったわけでしょう)


 それでもコンラッドから、

「お願いします、アンジェラ」

 と、なぜか強く名前で呼ばれてしまえば、雇われた身としては押し黙るしかなかったけれど。

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