表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/47

第4話 娘のお願い②

「まあ、父親があの方なら気持ちも分かりますけどね。そこら辺の女に、お父さんをとられたくない、みたいな?」

 とは、グレンの妻であるサムの言。

 アンジェラも、メロディの父親の若かりし日の姿を思い浮かべて苦笑した。


 アンジェラとコンラッドは同い年だ。

 学園は違うが、学生時代、交流行事の関係で何度か顔を合わせたことがある。

 当時でもその美貌には絶大な人気があったけれど、対応が冷たいことでも有名で、とっつきにくい男子だったことを覚えている。

 メロディの母親が早くに亡くなった後、後添えの話は山のように来ていたことは想像に難くないが、いまだに独身であることを考えれば、娘が再婚に反対なのか、本人にその気がないのだろう。


 ナタリーは夫と兄以外の男は「かかし」にしか見えないタイプのため、メロディから気に入られているようだ。本来住み込みが主流の家庭教師なのに通いであることも、結婚後も続けていることもその為だった。

 それでも、ようやく念願の懐妊。

 予想以上につわりは重く、とても家庭教師を続けることなどできない。

「出産ギリギリまで面倒見るって約束したんだけど」

 そう言って眉を下げるナタリーだったが、こればかりは仕方がないことだ。


 自分の中に別の命があり、どんなに具合が悪くても病気ではないから治せる薬もない。

 アンジェラに出産の経験はないが、妊娠や出産で命を落とす女性や子供を何人も見聞きしてきた。それだけに喜びと恐怖は常に表裏一体であるため、今はとにかく娘の体を休ませ、元気な子を無事産めるよう補助するのが家族の役目だと心得ている。

 とはいえ――


「男の方を令嬢の家庭教師にはできないし、女の方だと、まあ未婚既婚に限らず、たいてい旦那様に色目を使うから、代理を見つけるのが難しいのよ」


 そう言ってため息をつくナタリーに、思わず吹き出しそうになったのをばれないようにするため、ひたすら真面目な顔を作るのが大変だった。

(どれだけフェロモンを駄々洩れにしてるのかしら?)

 すでにギャグとしか思えないコンラッドの色気話は、娘以外からも噂で色々聞いている。ここまでくると、大人の色気が加わったコンラッドを見てみたいとさえ思ってしまうくらいだ。アンジェラの中のコンラッドは、今も十八歳の姿で止まったままだから。


「そりゃあ、私が彼に色目を使うことはないけれど、メロディ嬢はそうは思わないんじゃないかしら。結婚に興味はなくても、世間的には一応独身女性なのよ? それとも四十歳なら眼中にないかしら」


 子どもは育てたが、結婚したことは一度もない。

 学生時代には地味で目立たなかったアンジェラだから、違う学園だったコンラッドが覚えているはずがないのは幸いだけど、娘が知ったら独身というだけでも「危険分子」だと判断するのではないだろうか。

「どう思う? サム」


 ナタリーは大丈夫だというけれど、サムに意見を求めてみれば「同感です」とアンジェラに同意した。

「素のお母様ですと、元々少し童が……いえ、実年齢よりもお若く見えますし、ナタリーと姉妹にしか見えませんものね」

 童顔は気にしているので軽く嫁を睨むふりをして肩をすくめる。

「実際、十二歳しか離れてないしね」


 代理に母親をと伝えてあるなら、それ相応の姿が無難だろう。メロディは娘が大事に教えてきた生徒なのだ。


「じゃあ、いっそ六十歳くらいに見せていきましょうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、そういうことだったのですね! 個人的な予想なのですが、メロディ嬢はナタリーのことをすごく気に入っていたと思うんですよね。それこそ、結婚していなければ、ナタリーとコンラッドの仲を取り…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ