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警視庁交通課ガードレール係  作者: 津辻真咲
9/9

タクシー


ゥー……。遠くから救急車のサイレンが聞こえて来た。現場にいた通りすがりの人が呼んだのだった。

病院へ担ぎこまれたのは四十代女性。ひき逃げ事故に巻き込まれたのだった。


次の日。

『メールです』

その声がした。パソコンからのアナウンスだった。

――何だろう。

藍花はメールを開いた。すると。

『槻真冬』

――え!?

彼女は驚く。そして、落ち込む。

藍花のもとへ抽出メールが届いたのだった。

「羽紀、行こう」

藍花は渋々、席を立つ。

「課長、行ってきます」

「え!?」

課長の真狩砂雪はそのまま、置いて行かれた。



ゴォォォっとエンジンがうなる。藍花と羽紀は幹線道路を警察車両で進む。

「槻」

藍花はそう呟く。すると、その声に反応して、槻真冬が姿を現した。

「抽出メール、受け取った。今回の事件は何?」

「この事件です」

槻真冬はフロントガラスの近くに立体映像で資料を映し出した。

「これって……」

「昨夜のひき逃げ事故です」

「それで?」

「N-システムに犯行時刻にすぐそばを通ったタクシーが映っていました。タクシー会社へ行って、タクシーの車載カメラの映像を受け取ってほしいのです」

「分かった。行こう」

羽紀はそう答えた。


タクシー会社。二人はそこへ到着した。バタンッ、バタンッと車両のドアを閉める。

――さて、行くか。

二人はタクシー会社へ入って行った。

「こんにちは」

藍花は受付の女性に挨拶をする。

「はい。何でしょうか?」

 その女性、武藤むとうは笑顔で応対した。

「私たち、警視庁交通課の者なのですが」

「はい」

「このタクシー会社の全ての車両の車載カメラのデータをもらえますか?」

 藍花はそう言う。すると。

「分かりました。担当の者に確認します」

武藤は内線を使い、担当の者に連絡を取った。すると、担当者らしき人物が藍花と羽紀の二人の前にやって来た。すると、その担当者の男性はいきなり頭を下げて謝罪した。

「え!?」

「実は、今調べたところ、車載カメラのデータが全て削除されておりまして」

 その男性、道重みちしげは申し訳なさそうに話す。

「え!?」

藍花は再び驚く。

「すみませんが、ご協力できかねます」

「そうですか。分かりました。失礼しました」

二人は、そのまま、警視庁へ帰った。



「報告は受け取りました」

 槻真冬は淡々と言う。そして、続ける。

「もう一度、タクシー会社へ行って下さい」

「え? でも、もうデータはないって……」

 藍花は戸惑う。

「今度は鑑識の人物と一緒に行って下さい」

「ん? というと?」

「タクシー会社のデータを復元して下さい」



藍花は再び、タクシー会社の建物を見上げる。

「ここですね?」

「えぇ」

彼女は登藤とどう。槻真冬によって抽出された鑑識だ。

「こんにちは」

藍花は再び、受付の女性、武藤へ話しかける。

「はい」

彼女は再び、微笑みを向ける。

「今度は、先ほどの車載カメラのデータを復元したいのですが」

 藍花が話を切り出す。

「復元ですか?」

「はい」

「分かりました。担当の者に案内させますので、少々お待ちいただけますか?」

「はい」

しばらくして、先ほどと同じ担当者が現れた。

「こちらへ」

その男性、道重は彼らを案内した。

「こちらのパソコンになります」

「分かりました」

登藤は復元作業に取り掛かった。しばらくすると、データが復元された。

「これです」

「それじゃ、このデータを全て、コピーさせてもらいます」

「はい」


警視庁交通課にて。

――どうして、事故の映像がない?

藍花は槻真冬と共に悩んでいた。復元したデータを受け取ったはいいが、そのデータの中に該当するデータがなかった。要するに、事故の瞬間を映したデータがなかったのだ。

――これは?

槻真冬は何かに気付いた。タクシーデータの中に少し変わったGPSデータを見つけた。

それは、長い間、交差点で停止しているタクシーがあったというものだった。

「このデータを見て下さい」

「ん?」

「交差点で長い間、停止している車両が一台あります」

「確かに」

「このタクシー運転手に聞き込みをして下さい」

「はい」

藍花たちは再び、このタクシー会社へ向かった。



「私は何も見ていません」

 そのタクシー運転手の男性、国枝くにえだはきっぱりと言い放つ。

「それは本当ですか?」

藍花が念を押す。

「だから、仮眠を取っていて、何も見ていません」

 彼は同じ質問に少し、疲れ気味だった。

「そうですか」

 藍花は残念そうにする。

「帰ろう」

「え?」

「聞き込みはここまでにしよう」

「うん」

 藍花は羽紀の言葉に従った。



警視庁交通課にて。

「怪しいけど、証拠がないね」

「あぁ」

 藍花と羽紀があれこれと考えている中、立体映像で槻真冬が姿を現した。

「こんにちは」

「あ」

 二人はそちらへ振り向く。

「少々、頼みたいことが」

「ん?」



槻真冬は地域課の警察官にタクシー運転手の情報を集めさせていた。そのタクシー運転手は最近、今の支店へ移って来たとのこと。

そして、元々は本店のタクシー運転手だったということが分かった。槻真冬は本店にタクシーデータの提出を依頼する。しかし、タクシー会社が協力拒否したのだ。

しかし、令状の犯罪記述の欄に記入する証拠がまだない。別件の調査を所轄の刑事へ依頼するが、なかった。そこで、槻真冬は藍花に依頼をすることにしたのだった。

「国枝へ接触して下さい」

「分かった」

藍花と羽紀は、タクシー会社へ向かった。



「こんにちは、国枝さん」

 藍花は運転手の国枝に話しかける。

「え、何ですか?」

 国枝の方は少し、戸惑っているようだ。

「ご同行願えますか?」

「何でですか?」

「令状を持ってきました」

 藍花はそのようなはったりを言うと、封筒を取り出そうとする。すると、それを見ていた国枝が逃走した。

「え!?」

「追うぞ」

「うん」

国枝は自身のタクシーで逃走する。しかし、それはすぐ終わった。藍花たちが強制停止させたのだった。

バタンッ、バタンッとドアが閉まる。藍花と羽紀は車両から降りて、国枝の元へ向かう。羽紀はタクシーの運転席のドアを開ける。そして、彼に手錠をかけた。

「公務執行妨害ですよ」

「はい」

国枝は観念したようだった。


「ありがとうございます」

槻真冬がお礼を言う。どうやら、令状が下りたようだ。

「どーも」

藍花は微笑む。槻真冬はタクシー会社へデータの提出を求めた。

犯人はタクシー会社の社長の息子だった。タクシー会社の社長は、息子を修業させるためにタクシー運転手として、働かせていた。しかし、その息子が交通事故を起こしていたのだった。



警視庁交通課にて。

「一件落着だね」

 藍花は微笑む。

「そうだな」

 羽紀も微笑する。

「ありがとうございました」

――あ。

槻真冬が立体映像で姿を現した。

「抽出捜査には慣れましたか?」

 槻真冬はそんな質問をした。

「え。っていうか、慣れるという問題なの?」

「まぁ、慣れないほうがいいですよね」

――その分、平和だからね。





10.朝顔



「あ、雨」

二人は雨宿り。すると。

「道端から摘んできた」

羽紀は小さな花を差し出す。

「勝手に? っていうか、これ」

藍花は戸惑う。

「朝に咲く真夏の合弁花だよ」

羽紀は藍花へ花を持たせると、走って逃げた。

すると、彼の背中が見えた。そこには半紙に書かれた《二重否定》の文字が。

「なるほど、二重否定と来たか」

藍花は微笑む。そして。

「こら! 逃げるな!」

羽紀を追いかけた。


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