道警
「来たぁ! 北海道!」
藍花は、わーいとジャンプをする。
――おいおい。
「俺たちは研修に来たんだぞ?」
羽紀は隣で呆れた。
二人は、北海道で導入されているペースカー制度の見学にきたのだった。
「こんにちはー!」
二人は北海道警察の本部に到着した。
「お待ちしておりました。担当の横山香奈です。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
藍花と羽紀は資料をもらった。
ペースカー制度とはペースカーを一定の速度で街中を走らせ、速度超過になるのを防ぐ制度である。ペースカーがあるかわりに、信号がなくペースカーが停止したら、後続車は停止しなければならない。ペースカーは完全なる無人車両で人工知能が管理をしている。
ピー。すると、電子音が鳴った。
「道警から各局。ひき逃げ事故が発生。臨場せよ」
被害者は70代の女性。ペースカー制度があるのにも関わらず、ひき逃げ事故が起こってしまった。
「私たちは臨場しますが、一緒に来ますか?」
「はい!」
藍花は目を輝かせる。
「行こう」
「あぁ」
「ここが現場です」
鑑識の彼女、横山香奈は現場へ案内してくれた。
「私は現場鑑識へ行ってきます」
「はい」
彼女は鑑識作業へ向かった。
「どうする?」
藍花は羽紀の方を向いて、尋ねた。
「現場を見て回ろう」
「そうだね」
一通り見て回ったが、ひき逃げだということしか、二人には分からなかった。
「鑑識の情報を待ったほうがいいかも」
交通課ガードレール係の二人には現場は大変なようだ。
道警。臨場も終わり、横山香奈が返って来た。
「どうでした?」
藍花は尋ねる。
「どうやら、事故車はペースカーのようです」
「え!?」
藍花は驚く。
「現場に落ちていた破片からそう判断しました」
「なんと!?」
「しかし、事故を起こしたはずのペースカーが現場にないんです」
「え? なぜ?」
「分かりません。ペースカーのドライブレコーダーの映像も道警に送られてきていないみたいで。今、原因を確認しているところです」
「分かりました」
二人は彼女と別れ、別行動をとることとなった。それは、抽出捜査だった。
「何でいるの?」
藍花は不服そうに尋ねる。
「私も見学です。私が来ないとは誰も言っていません」
「大丈夫なの? 警視庁の本部は?」
「大丈夫です。私は超個体状態でも作業ができます」
「はいはい」
藍花は少し呆れた。
「では、私たちはいなくなったペースカーの行方を捜しましょう」
「そうだな」
羽紀は槻真冬の言葉に頷いた。
二人は鑑識課へ向かった。
「再び、すみません」
藍花は横山香奈へ謝る。
「いいえ、大丈夫ですよ。でも、大変ですね。抽出捜査なんて」
「え?」
「だって、東京の警視庁にはあるのでしょう? 人工知能の補佐官が指揮する包囲網が」
「え、えぇ。まぁ」
「かっこいいなぁ。さすがです」
横山香奈は目を輝かせた。
「ありがとう」
藍花も笑顔で答えた。
「あ、そう言えば、N-システムですね? 今、検索します」
横山香奈は鑑識作業を始めた。
ピ。電子音が鳴った。
「これですね」
藍花と羽紀の二人は画面をのぞき込む。
「これが事故を起こす前に取られたN-システムの画像です」
「事故後はありますか?」
ピピ。横山香奈が操作する。
「ないようです」
「ちなみにGPSはどうなってる?」
今度は羽紀が尋ねる。
「それが電源がOFFなのか、事故の衝撃で破損してしまったかのどちらかで、反応がないんです」
「そうか、N-システムで探すしかないのか」
「あ、でも他のペースカーは正常です」
「ん?」
藍花は首を傾げた。
「他のペースカーのドライブレコーダーの画像に何か映っていないかどうか確かめてみませんか?」
「そうか、確かに!」
槻真冬が現れる。
「話は聞かせてもらいました」
「え!? この方があの人工知能の!?」
横山香奈は突然のことに慌てる。
「えぇ、槻真冬と申します」
「えー!?」
横山香奈は目を輝かす。
「データを私に送ってください」
「え?」
「データの確認は私が短時間で処理しますので」
「あぁ、そうですよね。分かりました」
ピ。電子音がした。
「どうでしたか? 該当する映像はありましたか?」
横山香奈は槻真冬へ尋ねた。
「ないですね」
「そうですか」
彼女は少し、残念がる。すると、槻真冬は淡々と話す。
「こうなったら、ローラー捜査をするしかないですね」
「ローラー捜査?」
「事故現場から次のN-システムがある各所まで」
「そうですね。それがいいと思います」
「では、早速、担当の刑事たちに伝達を」
「はい」
「ペースカー発見」
――なんと!
無線でその情報が入って来た。そして。
「南へ逃走中。応援を!」
続けて、その応援要請も聞こえて来た。
「どうする!?」
藍花は羽紀に尋ねる。すると。
「追いかけよう」
羽紀はそう答えた。
「でも、強制停止用の車両が!」
「大丈夫です。昔、使われてたものがあります」
横山香奈はそう言うと、藍花と羽紀の二人をその車両のある場所へ案内した。
「行こう」
ゴォォォ。エンジンとタイヤがうなる。
――どこだ?
藍花は神経を集中させる。
――あれは!
「見えた! 行くよ!」
「あぁ」
藍花はスピードを上げた。どんどんと逃走車両に近づいて行く。
強制停止圏内へ入った。そして、藍花は運転席のボタンを押した。
強制停止用の鎖が前方の車両のタイヤへ絡みつく。それにより、逃走車両は停止した。
バタンッ、バタンッとドアが開き、その後、閉める音が二回聞こえた。道警の捜査一課の刑事たちだった。
彼らは、逃走車両に近づき、それの運転席側のドアを開けた。中からは、今回の事件の犯人が出て来た。そして、彼はそのまま連行された。
今回の事件の犯人は、四十代の男性だった。どうやら、ペースカーを追い越そうとして衝突し、そのままペースカーを押し出すような形で、被害者をひいてしまったのだった。
ペースカーは少し進んだところで放置して、自身の車両で逃走していたようだ。
「今回はありがとうございました」
藍花は礼を言い、頭を下げた。
「いいえ。こちらこそ、貴重な体験をさせてもらいました。ありがとうございます」
担当の横山香奈も頭を下げた。
「君はとても優秀でしたよ?」
「え?」
横山香奈が顔を上げると、そこには槻真冬の姿があった。立体映像で姿を現したのだった。
「そう言ってもらえると、とても嬉しいです」
横山香奈は笑顔になった。
「それでは」
藍花は新幹線の車両に乗り込むと、横山香奈へ手を振った。彼女も手を振り返す。二人は笑顔だ。
――また、会えるといいな。
藍花はそう思った。