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雨宿り
ザァァァっと突然、雨が降り出す。夏特有の通り雨だろう。藍花と羽紀は駆け足で建物へ走る。
ザァァァ。雨は激しく地面へとぶつかる。サァァァっと雨のにおいがしてきた。
――これがオゾンのにおい?
彼女は小学生のころ、先生から雨上がりのにおいがオゾンのにおいだと教わっていた。だからだろう、そんな風に思っていた。
「夏の雨っていいね」
ふいに彼女が話し出す。
「ん? どういうこと?」
羽紀は彼女の方を見る。
「なんだか、あったかいから」
彼女は雨雲の広がる上空を見て、微笑む。
「夏だからだろ?」
羽紀も上を見る。
「そうかも。でも雰囲気が誰かっぽいんだよなー」
彼女はそう言った。
「誰か?」
羽紀は問いかける。すると、彼女はくるりと背を向ける。そこには《企業秘密》の文字が。
「だからそれ、いつ書いてもらってるんだよ」
羽紀は微笑みながら、少し呆れた。