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警視庁交通課ガードレール係  作者: 津辻真咲
5/9

車両は三台、星は一つ。


パパっとライトが光る。少女は振り返る。しかし、彼女は自転車から転倒し、そのまま動かなかった。

車はブレーキランプの点灯後、再び加速し、走り去って行った。彼女の服にはタイヤ痕が残った。


「あー。疲れた」

藍花はそう言うと、顔を机に伏せた。

「お前、クロスワードしかしてないし」

羽紀は彼女を見て、いつもながら呆れていた。

「メールです」

パソコンが鳴る。

――メール? 誰だろう。

藍花はメールを開く。

『槻 真冬』

――ひぃぃぃ! また抽出されたぁぁぁ!

藍花はのけぞる。

「あいつか。今度は何だ?」

羽紀はパソコン画面をのぞき込む。

『昨夜の交通事故についての捜査依頼』

藍花と羽紀は添付されたデータを開いた。

――なるほど。

藍花はデータを見て、頷く。

「よし、出発!」

「俺も」

課長は唖然としていた。

――槻の抽出メールのせいで……。


警察車両内、藍花はそれを運転する。助手席には羽紀。

「槻」

彼女がそう言うと、立体映像で槻真冬が姿を現した。

「お待ちしておりました」

彼はそう言い、瞬きを二回した。

「詳しい情報を」

「はい。検死報告書が紛失しました」

……。

「えー!?」

藍花は叫び驚く。

「え、何で!?」

「分かりません」

「誰が?」

「分かりません」

「どーしろと……」

「探してください。検死報告書を」


担当の所轄へ到着する。

「はぁぁぁ、何でまた抽出されてんのぉぉぉ!」

「うるさい」

羽紀はきっぱりと言う。

「だってぇ。担当じゃないのに、いっつも抽出捜査」

「困ったもんだな、お前」

「え? というと?」

「あれだけ、人工知能のかたもっといて」

 羽紀は少し、すねる。

「そりゃ、槻は優秀だし、人望もあるし、頭いいし」

「ほら、ほめちぎってるし」

「あ、確かに」

「みんな、文句いいながら、従ってんじゃん」

「確かに」

『いい奴だよなー』

二人の声が重なった。


鑑識課。そこへ到着した。

「警視庁の交通課に渡しました」

「へ?」

彼、榊原さかきばらはきっぱりと答えた。今回、鑑識を担当した鑑識班だ。

「もらってないよ!?」

「いいえ。渡しました」

「えぇぇぇ!?」

藍花は彼のきっぱりとした応対に目を丸くした。

「どうしようか?」

藍花は羽紀の方へ向く。すると。

「N-システムはどうでしたか?」

 羽紀が彼に尋ねた。

「はい。死亡推定時刻に三台の車両が映っていました」

「三台というと?」

「順に、乗用車、大型トラック、そして軽自動車です」

「分かりました。ありがとう」

「いいえ」

すると、榊原は少し愛想笑いをした。

「帰るか」

「そうだね。それがいい」

二人は、そのまま帰ることにした。


ゴォォォ。帰りの車内で一人、苛立っている人物がいた。

「何をやっているのですか?」

彼は敬語で言い放つ。

――何でキレ気味?

藍花は少し申し訳なさそうにしていた。

「いいですか? 任務は死亡報告書の確保です。今は逃走車両ではありませんよ」

――う。

藍花はショックを受けている様であった。


キィ。車両が停止する。二人は再び、さっきの所轄へと戻って来た。検視官に会う為だ。

「こんにちは」

藍花は検視官の彼に挨拶をした。

「昨夜の事故の検死をしたというのは……」

「私です」

彼はそう答えた。

「詳しく、でしょうか?」

「はい。お願いします」

「分かりました。まず、遺体には三種類のタイヤ痕がありました」

――三種類?

藍花はきょとんとする。

「腕に残る、軽自動車のタイヤ痕には生活反応がありませんでした」

――え!?

「それから、死斑に動いた跡がありました」

「誰かに動かされた!?」

「えぇ。たぶん」

「犯行現場はここじゃない?」

 藍花は羽紀の方を向く。

「しかし、他にどこが?」

 羽紀は疑問を返す。

「とにかく報告!」

「ありがとうございました」

羽紀は検視官の彼へそう言うと、藍花と共に警視庁へ戻っていった。


「槻、聞いてた?」

「えぇ」

彼は姿を現した。

「今回は検死報告書の内容、ありがとうございました。では」

そう言うと、彼は消えていった。

「え!? こんだけ!?」

「こんだけだろ」

「えぇ!?」

――一体、何を驚いて。

羽紀は横目で呆れた。

「調べる?」

「調べたいのか? お前」

「うん!」

藍花は目を輝かせる。

「仕方ねぇな」

「わーい」

藍花は少しジャンプをして、喜んでいた。


ゴォォォっと走る車内。運転は藍花だ。

「槻」

「何でしょう?」

槻真冬は立体映像で姿を現す。

「情報教えて?」

「なぜ?」

「え」

藍花は固まる。

「では、今後、犯人が逃走した場合に備えて伝えておきます」

――わーい。

藍花は心の中でジャンプする。

「死斑が動いた件ですが、二回目以降にひかれた時に動いたものでしょう」

「ということは?」

「ということは、一度目にひかれた時に絶命していたということです」

「なるほど」

ピー。電子音が鳴った。槻真冬に情報が入ったのだ。

「ガードレール係、出動です」

「はい!」

「犯人は北へ逃走中。強制停止させよ」

「了解」

藍花は頼もしく答えた。


ゴォォォ。二人は北へ向かう。捜査一課の刑事たちも向かっている。

「あ!」

――見えて来た!

藍花は逃走車両を目視した。

「ナンバー、合ってる。あれだ!」

藍花はスピードを上げる。そして、逃走車両の後ろへぴたりとつけた。

――よし。今だ!

藍花は運転席のボタンを押す。ヒュンっと強制停止用の鎖が飛び出る。そして、ガチャっとその逃走車両の後輪に絡まった。

キィ。道路にタイヤ痕が伸びた。バタンバタンっとドアが開き、閉まる音が聞こえた。後方から捜査一課の刑事たちがやって来たのだった。犯人確保のために追いついてきたのだろう。その刑事は犯人に手錠をかけると、連行していった。

「一件落着。戻ろう」

「あぁ」

二人は、捜査一課の刑事のあとを追うように、警視庁へ戻って行った。


今回の犯人は、被害者を最初にひいた乗用車を運転していた男性だった。どうやら、ひいたあと、怖くなって逃げたそうだ。それにより、遺体がそのまま道路に置き去りにされ、後々にやって来た大型トラックと軽自動車にひかれてしまったのだった。

被害者の遺体をひいてしまった残りの二車両を運転していた人物たちもそれぞれ、事情聴取を受けていた。どうやら、大型トラックの運転手も軽自動車の運転手もひいたことには気付かなかったらしい。


「あー、やっと終わった! 抽出捜査!」

「だな」

羽紀は伸びをする藍花を見て、微笑む。

「また、明日も抽出されるのかな?」

 藍花は青い空を見上げた。

「さぁな。でも、明日も警察官の誰かが抽出されるんだろうな」

「そうかもね。所轄か、本庁かは分からないけど」

「あぁ」

 羽紀も空を見上げた。


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