大型トラック
3.2.1.0…
乗用車と大型トラックが衝突をした。辺りには轟音が響き渡った。
乗用車は右方向から中央分離帯を乗り越えて侵入して来た大型トラックを避けられず、衝突してしまったのだ。
遠くからは自動連絡による救急車のサイレンが聞こえて来た。
翌日。
――暇だなぁ。
藍花は伸びをする。今日は快晴。高気圧のせいで雲一つなかった。すると、電子音。藍花のパソコンにメールが届いたのだ。
――誰からだろう?
藍花はメール画面を広げる。
『槻真冬』
――Nooo!!
藍花は思わず叫んだ。あの無作為抽出メールの餌食になったからだ。
――また、あいつ。
藍花は落ち込んだ。
「そんなに嫌なのかよ」
羽紀は隣で呆れていた。
『昨日の交通事故について 人工知能二種が麻痺し、操作不能になった大型トラックを調査して下さい』
――え!? 昨日の交通事故!?
「っていうと、都内だけで結構ある」
羽紀は呟く。
「あ、スクロールしたら、資料出て来た」
「……」
彼は藍花の言葉で呆れた。
「よし! 行こう」
「え!? ちょっと!」
二人は課長の言葉を無視して、パトロールへ向かった。
「槻」
藍花がそう呼ぶと、槻真冬は立体映像で姿を現した。
「お待たせしました。メールの件ですね?」
「うん」
「事故の原因は自動運転の故障です」
「故障?」
藍花はきょとんと聞き返す。
「はい。事故直前に手動運転に切り替わっていました」
「通常なら搭載されている簡易人工知能が自動運転を担っているよね?」
「えぇ。しかし、故障すると警告音ののち、手動運転へ切り替わります」
――確かに。
藍花は考え込む。
「でも、車体本体の簡易人工知能が故障しても、地域の各エリアごとの自治人工知能が作動し、車体を停止へもっていくのでは?」
今度は羽紀が尋ねる。
自治人工知能は、それぞれの運送会社の交通基地局から監視しているのだ。
「今回は両方の人工知能が同時に麻痺していました」
――え!?
「なるほど、人工知能二種の同時、麻痺は初めてのケースだもんな」
羽紀は頷く。
「えぇ、事故なのかどうか調べてほしいのです」
「そっか。うん、分かった」
藍花は快諾した。
――最後は手動運転かぁ。
藍花は運転をしながら、ため息をついた。
「どうした?」
「いや、大型トラックは自動運転なんだなぁと思って」
藍花は前を向く。
「まぁ、長期距離移動だからね? 大変だよ、運転は」
「そうだね」
「運転手に動機はないと思うけど?」
「そうだよね。考え過ぎか……」
「それで、どこへ向かっているの?」
「所轄の鑑識」
「なるほど」
羽紀は沈黙した。
「え!? 物理的故障!?」
藍花は鑑識の言葉に驚く。
「えぇ。今回の交通事故を起こした大型トラックの簡易人工知能はプログラムの異常やサイバー攻撃ではなく、物理的に故障していました。いわゆる、接触不良でした」
「へぇ」
羽紀は頷く。
「きっと、中の配線に細工がされていたのでしょう。それが原因です」
「事故じゃ無くなっちゃったね」
「あぁ」
桜田門交通基地局近くの所轄の鑑識課。
「お待たせしました。こちらが資料です」
鑑識課、新垣は藍花へ資料を渡した。
「ありがとうございます」
藍花はそう言うと、笑顔で資料を受け取る。
「どうやら、交通基地局の自治人工知能も麻痺していたようです」
新垣は囁くように小声で言った。
――麻痺!?
「どうしてでしょうか?」
「この交通基地局の停電が原因です。まぁ、でもすぐに復旧したみたいですけど」
彼女は声が小さい。
「そうですか」
「分かりました。ありがとうございました」
二人は再び車両に戻った。
「槻。聞いてた?」
「えぇ。もちろん」
彼は立体映像で姿を現した。
「大型トラックの簡易人工知能が意図的に壊されていたことから、事故じゃなくなってしまったね」
藍花が首を傾げて、苦笑する。
「えぇ」
「どうするんだ? 殺人未遂で調べる?」
あとに続いて、羽紀が尋ねる。
「立件する前に依頼したいことが」
――?
藍花は首を傾げた。
「監視カメラの映像を集めてほしいのです」
「え?」
「簡易人工知能を物理的に壊した人物を特定してほしいのです」
「映っているのか?」
羽紀は尋ねる。
「駐車場の監視カメラだけではなく、駐車場に向いている周囲の監視カメラ映像もです」
藍花と羽紀は車両をおいて、街中を歩く。ありとあらゆる監視カメラの映像を集めるためだ。
「あった。監視カメラ」
羽紀はコンビニの監視カメラに指を指す。
「よし。もらいに行こう」
二人はすたすたとコンビニの中へと入っていった。
「すみません。警視庁交通課のものですが、少々よろしいでしょうか?」
藍花が警察手帳を見せる。
「はい」
店員の男性は驚く様子もなく、藍花たちの捜査に協力してくれた。
「これが外の監視カメラの映像です」
藍花は店員の寺田からそれを受け取った。
「ありがとうございます」
二人はお礼を言うと、再び、映像集めに戻っていった。
――こんなもんかな。
二人は警視庁に戻って来ていた。映像集めがひと段落したのだった。あとはパソコンに取り込んで、槻真冬にデータを送るだけだ。彼は人工知能なので、映像をデータとしてもらえれば、一瞬で解析ができるのだ。
ガチャッ。パソコンにディスクを入れる。そして、パソコンがうなる。映像は一枚数分で取り込める。それを繰り返す。
「あー。肩こった!」
藍花は伸びをする。
「大丈夫か?」
「無理」
彼女は机に伏せる。
「ったく。あとは俺がやる」
「え!? いいの!?」
藍花は驚いた様子で振り返る。
「つらいんだろ?」
「いいよ! でも三分の一ね」
彼女はそう言い、ディスクを奪い返した。
「はいはい」
彼は呆れながら苦笑した。
サイバー対策課。
「ありがとうございました。その捜査結果、使わせていただきます」
「よろしくどうぞ」
その刑事は微笑んだ。
「では」
彼、槻真冬は姿を消していった。
交通課。
「こんにちは。監視カメラ映像は集められましたか?」
槻真冬が姿を現した。
「はい。これが最後の一枚」
藍花はそれをパソコンに入れる。そして、彼女はデータを彼へ送った。ヒュ。立体映像が少し揺れた。
「犯人が特定できました」
「本当に!?」
「えぇ。今回、集めてもらった映像と、サイバー対策課に調べてもらったもので」
「サイバー対策課?」
「彼らにはインターネット上から自治人工知能を攻撃した犯人を追跡してもらいました」
「それで、身元が分かったのか」
羽紀は尋ねる。
「はい。犯人は 東京都在住の戸倉智。四十歳。現在、車両に乗り移動中。捜査一課の刑事に確保を頼む予定ですが、万が一のためにガードレール係のお二人にも出動してもらいたいのです」
「分かりました。出動します」
彼らはそういうと、駐車場の警察車両へと向かった。
ゴォォォっとエンジンがうなる。ガードレール係は捜査一課の車両の後ろをいく。
――あ。
対象車両が見えて来た。
――あれだ。
捜査一課の刑事、手石市治が犯人の運転している対象車両に停止を呼びかけた。
「白のセダン。左によって停止しなさい」
しかし、停止しない。
手石市治はもう一度、言う。しかし、変化なし。むしろ、加速した。
――ガードレール係の出番かな。
彼はそう思った。
園馬進は自身の座る運転席の窓を下げ、右手で合図を送った。
それを見た藍花は彼らの車両を追い越す。そして、対象車両の後方へぴったりとつけた。
藍花は運転席のボタンを押す。すると、強制停止用の鎖が飛び出し、前方の対象車両の後方タイヤへそれが絡みついた。
ガガガガッ。鎖が巻き込まれる。そしてタイヤが停止し、車両も停止した。
今回の犯人は、被害者のトラック運転手の同僚運転手だった。彼は被害者から多額の借金をしていた。それによるトラブルだった。乗用車を運転していたもう一人の被害者は関係なく、ただ巻き込まれただけだった。
「お疲れ様でした」
人工知能の槻真冬が立体映像で姿を現した。
「どういたしまして」
「ありがとうとは言っていないだろ」
羽紀が即座に言い放つ。すると。
「これが新しいメールです」
「え!?」
「依頼、お願いします」
「えー!?」
羽紀は大きな声を出して、呆れた。