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009一日目にしてお騒がせ

 先生と第三王子と離れてからはテレポートと瞬動術の練習を行った。テレポートは距離を伸ばす事に成功したものの、瞬動術の方は止まり方を教えてくれていなかったようでまだ使い勝手が悪い。速ければ速いほど進む距離が強制的に長くなるというこの魔法は、近距離移動専用にする予定な事を考えると相性が良くなかった。練習か工夫が必要になりそうだ。

 忘れていたがあくまで本来は水魔法の授業であり、しばらく経つと集合させられ教室に戻った。時間経過による魔力回復を待つ間、座学をするという。

 先生の声は聞き取りやすく、柔らかな印象を与える歴史の授業はまるで、昔話を語る吟遊詩人のようだった。

 その授業の中で分かった事として、魔王を封印するための術は聖属性。ヒールなどの回復魔法を得意とする属性を必要とする事が分かった。これは聖の力も身につけなければならないだろう。

 ついでに授業の本筋から脱線した事で知った知識として、腕を吹っ飛ばされたとしても腕を無くした本人に大人数で魔力を分け与えて自分で治癒魔法をかければ治るという。本人が治癒魔法を使えない場合はその人の元の形を知っている人物ならば代わりに治せるとも。ただ、人の形を意識して見ていないといけない為に騎士団の治療部隊は注意深く人体を見ていると言う。それがいざという時に仲間の治療に役立つ。

 興味があったのはそのくらいである。あとはとりあえず聞くだけ聞いた。


『興味無いなら俺が聞いておくけど』


 とは私の賢い杖の弁である。とてもありがたい申し出だったけれど私は頭を使うのだ。人任せにばかりしていられない。

 続いて実技の時間。雑談からの流れで自分の魔力を相手に分け与える魔法を習う事になった。二人一組になって相手に渡す、渡されるを繰り返す授業だ。相手がいる、というのもあるがこの魔法は洗練すればするほど渡す魔力にロスが無くなるため、覚えてもそのまま練習。自習時間は無しという事だった。ちなみに生物に魔力を渡すのは物体に流すよりも難易度が高いらしい。

 相手に手を触れてそこから流す、と聞くやいなや赤髪の少年が近くに寄ってきた。


「悪いなアレン。こういう時は女の子と組みたいわ」

「ふっ、仕方のないやつめ。許す。人形と戯れるがよい」

「そーいうわけでよろしくな人形ちゃん。ささ、手ぇ出して手」


 楽しそうに笑うこの男に立ちはだかるように、私の杖が人間化して飛び出した。


「このエロガキ! 姫さんに触れたいだけじゃねえか!」

「いやいや俺様達同じ公爵家だし? 魔力量も近いでしょ。練習相手としてちょうどいいっていうか」

「今の話聞いて誰がそんな事信じるか!」


 他に組む相手がいないのは紛れもない現実である。人間化した私の杖と組んでも仕方がない。あれはあくまで人の形をとっているだけで杖なのだから練習にならない。


「よろしく」

「そうこなくっちゃ。よろしくね人形ちゃん。ああ、可愛らしくて柔らかい手だ」


 そう言って、私は彼の手を取った。


「ああ、くっそ! 姫さんに余計な事したらぶっ殺すからな!」


 杖のイーリアスは物騒な捨て台詞を残して私の右手の中に収納されていく。


「あの護衛、どっから出してるの?」

「杖収納」

「ええ……」


 などというやり取りもありながら、魔力の受け渡しを開始した。まずは私から。


「ちょっと冷たい、か……? 人形ちゃん、得意属性は氷だったりする?」

「どちらかというと」

「そっかあ。分かるもんなのかねえ。というか一発で成功させてるのな」


 言われてみればそうだ。やる事といえば結局のところ杖に魔力を流すのと同じなのだから難しい事はないと思う。


「じゃあ次は俺様な。……どう?」

「感じない」

「そっか。割と抵抗がキツくて、流れないっぽいな」


 入れる量が悪いのかねえ。と呟いて赤髪の少年は真剣な顔をした。触れられた手から魔力が流れ込んでくるのを感じる。


「来た」

「お、よかった。でもこれこんなに消費するのか」


 そう言って眉を寄せたが、私はそんなに苦労してないので答えを持ち合わせていない。。


「順調そうです?」


 先生が私達の前に顔を出すと、素直に現状を吐露した。


「ああ、兄貴。それがさ、魔力をかなり込めないと駄目で。これでいいのか悩んでるんだよ」

「学園では先生です。力任せはよくありませんね。メロー、あなたはダンスの得意でない相手を力任せにリードしますか?」


 その言葉を聞いて、再び私に魔力を流し込んでくる。


「……なるほど! やっぱり兄貴はすげえや。抵抗の流れを掴むんだな!」

「学園では先生です。何度言ったら分かるんです?」


 悪い悪い、と笑う赤髪の少年の顔は私に向ける表情とは違っているのではないか。


『すっげえ嬉しそうだな』


 と、私の杖が収納の中で呟くのできっとそうなのだろう。

 それはそれとして魔力の受け渡しの制御の練習は終わりである。周囲の声を拾うと、疲労や魔力の消費を訴える者が多数だ。

 しかしここで次の授業はマジックミサイルの連射を訓練しますとの先生からのお達しがあった。


「いつでも万全の状態で戦えると思ってるんです?」


 との事だ。この教師、ふわふわした見た目の割にやる事がハードである。

 そんな訳でついに行われた攻撃魔法の訓練。校庭で一人ひとり順番に打ちたいだけのマジックミサイルを打つように命じられた。


「クリストさんは魔力量が足りません。僕は、この生徒は平民だから仕方ない、なんて済ませ方はしませんからね」

「リンドホルムさん、連射速度に不満ありと言ったところですね。一発一発が丁寧なのはいいですけど相手に反撃の隙を与えない連続攻撃がマジックミサイルの肝ですよ」

「アルフォンス・キンスキーさん。僕を馬鹿にしてるんです? そんな射程で何を倒す事を想定しているのですか。やり直してください。なるほど、魔力が足りない。分かりました。もう一度だけ言いますね。やり直してください」


 座学や補助魔法の時とは違う、鬼のような教師の姿がそこにある。

 声は落ち着いていて、優しいのだがそこに含まれる迫力が段違いだ。


「次はメロー。公爵家として恥ずかしくないだけの実力を皆さんに見せてもらえますか」

「任せてくれよ兄貴」


 そういって肘までの長さがある杖を構えて左手で額の上に横ピース。片目を閉じたポーズを取って放たれる呪文。


「マジックミサイル・フレイム・コンセントレート」


 炎属性の込められた三本のマジックミサイルが絡み合い一本の光となり、校庭を貫く。それを十発放ったところで魔法は打ち止められた。


「まあ、いいでしょう。好きなだけ打てといったのは僕ですからね。たとえ限界まで打ってなくても文句は言えません。……皆さん、あれが属性付与とマジックミサイルの誘導性能を活かした集弾です。マジックミサイルの欠点である威力の低さを補うのに有用な方法ですから、皆さんにも得意属性の付与したマジックミサイルくらいは覚えてもらいたいです」


 母はマジックミサイルの改造について、学年トップをとったやり方だと言っていた気がする。という事は、当時の学年トップレベルの技術を全員に身につけさせたいと先生は言っているのだ。


「次はアレン王子ですね。お願いします」

「任せよ。とはいえメローの後では児戯にも等しいだろうがな」


 ご謙遜を、と笑って第三王子に魔法の発動を促した。


「マジックミサイル・サンダー」


 雷撃を纏った魔力の塊が絶え間なく杖から放たれていく。その速度はとてもではないが何本打ったか数えられないほどだ。


「素晴らしいですね。雷属性は威力と速度に優れ、制御が難しい属性です。それを扱う王子の将来性に期待しましょう」

「ふ。それではまるで今は駄目だと言っているようなものだが、構わん」


 実力不足は自覚しているからな、と不敵に笑った。

 さて、最後に私の番である。杖のイーリアスはやる気満々だ。


『姫さんのすげえところ、こいつらに見せつけてやろうぜ!』


 やりたい事があるのでそういうのはパスである。私としては、シンジツノカガミを覚醒させずに神属性を引き出す、というものをやりたい。

 と、いうのも私の普段の魔力が百として常時その百が補充されている状態であり、実質無限。鏡の起動を行うとこの魔力が万になり、回復量も万になってついでに神属性が付与される。自分ではこの万の魔力を制御できているつもりなのだが、馬車に乗る時などに馬が怯えるなどの弊害があるという事を知ったため普段は抑えた方がいいという話になった。

 ここまでを前提として、ならば普段使いの魔力でも神属性を使いこなせると、いざという時に起動の隙を稼ぐ為の牽制が出来るのではないかという事だ。

 覚醒前の私は弱いので鏡の起動前でも戦う手段を欲っしているくらいの話である。


「ではシールさん。魔王を倒すと公言しているルーアース家の力を見せてください」


 そう、私は棺の魔王を倒すのだ。


「アピアランス」


 魔杖イーリアスを収納から取り出し、構える。

 黒いボディの中に輝く蒼の核が、私に対して任せろと語っているように感じた。

 普段使いの魔力を自分の中に眠る神属性に浸していく。染め上がったその魔力を徐々に解き放っていく。


「シン・マジックミサイル」


 わずかに青みがかった白の光弾が絶え間無く何もない校庭の端から端を通り過ぎていく。

 だが、これでは足りない。棺の魔王なら自身の軍勢を盾にして身を守ってしまうだろう。

私は光弾を山なりの軌道に変えて、棺の魔王を倒すイメージで魔力を校庭に叩きつけた。地面は揺れ、穴が空いている。先生のもういいです、という声を認識するまでにそこかしこにクレーターが山のように出来ていた。


「威力、射程、連射性、誘導性。すべてにおいて完璧だった。いえ、それ以上と言えるでしょう。問題はこの惨状を誰が直すかということですね」


 結局のところ、やりすぎだったらしい。

 いい練習になったので私としては満足である。


『姫さん姫さん。これを直すいい方法が思いついたぜ』

「その方法とは」

『結局のところ、理屈さえ思いつけば魔法を使いこなせるんだろ? ちょっとウォッチ使ってみて』


 ウォッチとは時計を浮かび上がらせる魔法である。それをなんに使うつもりなのか。


『これって時属性魔法なんだよな。だからさ、この針を後ろに戻すイメージで魔力を流してやれば、時間を戻す魔法が使えるんじゃねえのかなって』


 今、明らかにイメージと言った。その時点で理屈ではない。

 とはいえ、他に手段もないのでやってみる。


「ウォッチ・リターン」


 数あるクレーターの中の一つがちょっと埋まった。出力が足りないようだ。


『やれるじゃん! なら、あとはたくさんの魔力が食えるアレの出番だな!』


 そう、シンジツノカガミの起動。魔法発動時に自動で魔力を供給する関係で光るのだと思うが、覚醒させてやると常時光りっぱなしになって微妙に目に悪い。


「シンジツノカガミの紋章、起動」


 右手を掲げると赤とピンクの中間ぐらいの色の光が周囲を照らす。溢れる魔力を制御して、神属性に染まる魔力に今回は逆らい、時属性と織り交ぜた。


「ウルド」


 呟くような私の声で魔法は成される。地面の時間は逆行し、平らな校庭へと戻っていく。

 これで誰も文句は無い筈だ。


「シールさん、今日の件については後でお話しましょう。次の休日は空けておいてくださいね」

『あー、これ姫さん後で説教だわ。どんまい』


 駄目だったらしい。ちゃんと自分で直したのに。

 解せぬ話だ。

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