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004魔法の特訓

 元クラスメイトの青年は言った。頭を使って日々を過ごせと。魔王を倒すには必要な事らしい。だから授業を受けたい。しかし魔王が来たから学園は休みだという。許せない。だから魔王を倒したいが魔王を倒すには頭を使う事が必要でそのためには授業を受けたいけれど学園は魔王のせいで休みで。

 そんな事を考えていたらメイドが朝食だと呼びに来た。向かった先にはお父様とお兄様、弟がいた。


「おはよう、シール」

「……おはようございますお父様」

「おや、やっと覚えてくれたか。嬉しいかぎりだね」


 まるで私が今まで父の顔を覚えてなかったかのような言い草である。


「姉上、僕は分かりますか!?」


 貴方もか、弟。


「弟」

「あ、名前で呼んでもらえたりはしないんですね」


 名前……名前? さて、なんだっただろうか。


「徐々に仲良くなりなさい。シールの席はフルブム、君の兄の隣だよ。さて、メイドに案内されなくても席は分かるかな?」


 まるで幼児に言い聞かせるような物言いである。大人からすれば私はまだ幼児みたいなものなのかもしれない。私は兄の隣に座った。


「消去法でも分かるけど一応聞くよ。私は誰だと思う?」

「お兄様」

「正解だ」


 なぜ皆、自分が誰かなんて問題を出すのだろうか。分からないがきっと意味がある。頭を使えば分かるのかもしれない。


「なぜ、そんな事を」


 しかし分からなかったので聞いてみる事にした。答えてくれたのはお父様だった。


「シールは勉強熱心でまるで家に帰ってこない。私たちの事を忘れてしまったのではないかと不安になっているのだよ」


 なるほど、確かに五年間学園に通い続けだ。家に帰った覚えもない。それは不安にもなるだろう。……五年?


「私は卒業していてもおかしくないはず」

「ふむ。急速に回復していっているな。魔王との接触が刺激になったか。――確かにそうだ。だがお前はね、テストの点数があまりにも悪すぎて、いや、これだと伝わらないか? つまり頭が悪いとみなされて学園でもう一度勉強する事になったんだよ」


 私はそんなに頭が良くなかったのか。それは元クラスメイトも頭を使えという筈だ。


「父上、適当すぎません?」

「フルブム、黙っていなさい。シールが飲み込める程度の事情を作り上げているんだ」

「あ、母上だ!」


 そう声をあげた弟の視線の先には一人の女性の姿があった。


「みんな、おはよう。……シール、私が母ですよ。できたら覚えてくれると嬉しいわ」

「お母様」

「よくできました」


 母は私を一度抱きしめると、父の隣に座った。


「シール、数日中に騎士団からの事情聴取が入るがそれまでは自由だ。なにかしたい事はあるかい?」


 父は私に問うが、やりたい事は決まっている。


「棺の魔王を倒したい」

「それはすぐには無理だ。もうちょっと身近な事がいいね」

「棺の魔王を倒すために頭が良くなりたい」


 ふむ、と父は考え込んでいるようだった。


「知識を得たい。ということかな。それなら図書室で勉強すればいい」

「いいえ、私が裏庭で魔法を特訓するわ。シール、お母様と一緒に魔法の訓練しましょうね」

「それは頭が良くなるとは違うんじゃないかな」

「あら、ちゃんとした魔法の知識よ。昨日シールちゃんが放っていた魔法も見ていたんだけれど、ちょっと思いついた事があるからそれを教えてあげたいのよ」


 父は息を一つ吐いて好きにしなさい、と言った

 話が一段落したところで食事の準備ができたようだ。ナイフとフォークがあり、皆が口に入れているようなのでこれは食べ物で間違いない。

 具体的に何なのか、という事までは認識できないが食にこだわりがあるわけでもないので問題ない。大事なのはこの後に母との魔法訓練があるという事だ。


 食事後、裏庭にドレイル布で出来たサンドバッグが用意され母は嬉しそうに腕を組んだ。


「じゃあ早速魔法の知恵を教えるわ。シールちゃんは今、魔法科一年生。だからマジックミサイルとマジックストライクしか攻撃魔法を教わっていない。そうね?」

「そう」

「でもね、それならその手持ちの武器を改造しちゃえばいいわけね! 私も学生だった頃はこのやり方で実技学年トップを取ってたのよ」

「おお」


 これが頭を使うという事。期待できるのではないだろうか。学園をやり直しにさせられた私が学年トップの技を得られればこれは大きな成果になる。


「まず属性付与がいいわね、炎属性とか氷属性とか付けて威力を上げる。後は魔力操作で回転を加えて威力を上げる。複数の魔法を一点に集中して威力を上げる。あとは身も蓋もないんだけど消費する魔力の量を増やして威力を上げる。このあたりね」


 なるほど。とにかくいろんな手段で威力が上げられるらしい。これはまずマジックミサイルから練習するべきだろう。そう考えて離れた位置にあるサンドバッグに向けて杖を構えると、後ろから母がサンドバッグと私の間に水の壁を出した。


「ウォーターシールド。これでサンドバッグ壊しても昨日みたいに砂まみれになったりしないわよ」


 とても頭がいい。これが頭を使うという事なのか。感心して母の顔を見ていたらなにか誤解をされてしまった。


「あら、まだ不安かしらね。じゃあサンドバッグの周りに水の結界を張るわね。ウォーターバリアー」


 同属性とはいえ、同時に別種類の魔法を使うのは難しいとされている。それをやすやすとやってのける母もまた、魔力の制御に自信があるのだろう。

 まずは普通のマジックミサイルを撃ち込んでみるが、目の前のウォーターシールドに飲み込まれてしまった。


「威力はだいぶ手加減してるのね。それでいいわ。そこから色々試してみなさい」


 では特訓として氷属性をつけることから始めてみよう。属性の変化はキャンバスに色を塗る感覚でいい。一色に染め上げたら、放つ。


「マジックミサイル・アイス」


 連射される氷弾の嵐は目の前の水の壁を凍らせていくだけだった。壁の凍った部分はすぐに氷を飲み込み水の壁へと姿を戻す。

 氷の属性の付与されたマジックミサイルを周囲に停滞させ、高速回転させたまま水の壁に向かって放つ。


「マジックミサイル・アイススパイラル」


 即座に凍った壁はその回転力に耐え切れず破壊。そのまま水の結界を同じように突き破ってサンドバッグへと命中した。

 なるほど、込めた魔力に対して費用対効果がいい。これが頭を使った魔法の使い方。

 次は複数の魔法を一点に集中する方法。これは先の棺の魔王との戦いで鎧の男達が戦っていた時の魔法部隊のやり方だと思う。マジックミサイルは連続で当てていく魔法だけれど、これを同時に命中させるだけ。狙ってやらないならば偶然同時に命中する事もあるけれど狙って束にする必要があるということ。


「マジックミサイル・コンセントレート」


 まずは五本同時から。壁は突き抜けたけれど結界に吸収されてしまう。

 次に十本。結界も突き抜けてサンドバッグに命中した。

 しかし、マジックミサイルは連射性が大事な技だと教わっている。これだけでは足りないのではないだろうか。

 そこで十本の束を十ほど用意して再びマジックミサイル。これで威力と連射性を兼ね備えた魔法になる。実際、結界を超えて全ての光弾が命中した。

 と、張られていた水の魔法が解かれる事になる。


「私の魔力の方が限界来ちゃったわね。攻撃魔法より防御魔法の方が消費は少なくて済むはずなんだけど。すごいわ。ちょっと休憩させてね。今のうちになにか質問があれば聞くわ」


 聞きたい事。なんだろうか。教えてもらった魔法の有用性については充分分かった。他に気になる事と言えば。


「シンジツノカガミってなに」

「……? 御伽噺かしら。神界ではみんながその鏡を持っているから嘘は通用しない。だから現世で嘘ばかりついていると神界に行ってから苦労するって教訓話よ」

「棺の魔王は私にそれを使いこなせと言っていた」


 そうすればすべての魔王と渡り合えると言っていた。まるで今後、他の魔王と出会う事があるかのように。


「十中八九、シールちゃんの右手のそれよねえ。その紋章の意味は神、だもの」


 私にはシンジツノカガミが宿っている? これをどう使えばいいのだろうか。これも頭を使うべき時なのだろう。


「じゃあ休憩を終わりにするけど……お仕事でも魔力を使うことになるから、特訓はもうちょっとだけ。ごめんなさいね」

「構わない」


 魔王を倒すために頭を使うというのがどういう感じなのか、少し掴めた気がする。

 あとはこのシンジツノカガミの謎を解きたい。実際に使ってみれば分かるのではないだろうか。


「シンジツノカガミの紋章よ……私に力を」


 瞬間、魔力が膨れ上がり私を中心に突風が吹き荒れる。私の中の魔力の属性が、私の知らない属性に塗り替えられるのを感じた。この魔力の使い方を私の中の何かが教えてくれる。この一撃は神属性。魔王を滅ぼす神の槍。本来であれば扱いきれない筈の力を、使える範囲に落とし込む。空に杖を向け、その名を唱える。


「マジックミサイル・グングニル」


 空気が破壊されていく音がする。宙を壊し、地面を揺らす。強烈などという言葉では表しきれない圧倒的な威力が、雲を千切り、果て無く突き進む。直進する光線とその周りを螺旋を描きながら空に昇っていく無数の光弾。

 恐ろしい事がただ一つだけあるとすれば、その凶悪な暴力ではない。この一撃をもってして、なお尽きる事の無い我が身の魔力。この力は……無限なのだ。

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