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015真なる軍勢

 メイドのエレナは語ってくれる。棺の魔王が指揮するアンデッドの軍勢が三日前にとある町を襲ったと。

 目撃者は魔物狩りをしていた冒険者の男。平地を進む異様な群れを森の中から見ていたという。

 その男がこっそりあとを追うと、町を守る守護兵が剣を持ったスケルトンに殺されたかと思うと立ち上がり反転。魔王の指揮下に入ったらしい。

 町に入った後の事は分からない。その場で逃げだしたとの事。ただ、それを他の町に報告して確認してもらったところ、襲われた町はもぬけの殻。人だけではなくペットなどの生物も一切が存在を消して死の町になったという。残ったのは戦闘を行ったであろう形跡の血痕だけ。


「という情報が入ってきたのが今日です。話が伝わる速度から分かるかもしれませんが、ここ……王都からはかなり遠いですね。今は第三騎士団が調査に向かってます。魔王の居場所がはっきりすれば聖女様の動員も行われるでしょうね」

「いやだ」


 エリーザ様はもう充分に戦った。なぜまた戦いに巻き込まれなければならない。と聖女の子孫が言っている事をエレナに伝える。


「何故も何も。力ある者の義務ですよ。国のため、人々のため。そのために私達は魔法を学んできたわけで。実力者が称えられるその裏には、何かあればまたお願いしますって意味も込められますよ」

「もし僕が封印術を継いでいれば」

「学生の身では難しいかもしれませんが、もしかしたら貴方が代わりに戦いに出ていたかもしれませんね」


 そうなると私はどうなるのだろうか。聖女のお墨付きを貰った封印術を持っているのだから、魔王が見つかったらせめて情報くらいは流してもらえるといいのだが。


「僕が」


 聖女を戦場に向かわせたようなものではないか。エリーザ様は僕に封印術を継ぐように勧めていたのだ。命の危険に晒されるよな事があれば僕のせいだ。間接的に僕が彼女を殺すようなものだ。と言っている。ずいぶんと後ろ向きな発想をする。


『いや、今の一言でそこまで理解できるのはおかしいって! 姫さんあいつの通訳か何かでいらっしゃる!?』


 私の杖もつまらない事を気にするものだ。分からないよりは分かるほうがいい。それだけの話なのに。


「さて、シール様に絡んできた面倒な男もへこませてやったので食事にしましょうか。私もう一回貰ってくるので温かい方食べてください。私そっちの冷めたのもらいますから」


 そう言って再び並びに行ってしまった。私は別に食事の温度を気にしたりしないのだけれど。

 それから一か月が経っただろうか。各地で村や町単位での失踪事件が相次いでいる。先の事件と同じく血痕も残っているために、棺の魔王の仕業であろうと予想が立てられていた。早めに犯人の目星がついたのは不幸中の幸いである。魔王の暗躍と分かれば警戒のレベルも違う。そのため第三騎士団が王都の外へ出向いてあちらこちらへ走り回っていると聞く。

 しかし、手掛かりらしい手掛かりは掴めていない。予想出来ている事といえば、棺の魔王は各地の死体を回収し、戦力としているのだろうという事だけだ。次の出現位置さえ分かっていない。まるで何も考えてないかのように西へ東へ、南へ北へと動き回っていく。とてもではないが追い切れていない。

 かくいう私もそんな魔王の動きに翻弄されて、魔王の出現情報を聞いてはそこに自分がいたならばと考えるばかりだ。

 国中に探知魔法をかけて魔王の位置を確認する事は出来た。しかし、反応が途切れたかと思うとまるで別の場所へ移動されてしまう。テレポートによるフットワークが軽すぎるし、私ではそれに追いつけるだけの瞬間移動の技術が無い。というのも、行った事が無い、視認していない場所にテレポートする方法が分からないからだ。こればかりは魔力の量も制御も関係ない、発想の問題になる。

 なので、私に出来るのは一点読み。王都に攻撃を仕掛けてきたところを狙って、倒す。それだけだ。


「今日の授業は反撃の魔法です。この呪文は対象に近づく、もしくは触れる事を条件として発動する遅延魔法。自分にかけておけば身を守る手段として使えますが相手に危害を加える事になる事を忘れちゃ駄目ですよ。また、自分の守りたいものにかけておく事もできる魔法ともなります」


 そう言ってカウンターの魔法をお手本で見せてくれている先生の魔力の流れをシンジツノカガミが写し取ってくれる。これで覚えた。

 最近は鏡の性能が高まってきていて、まるでこれから起こる激戦に向けてその真価を発揮しようとしてくれている。そんな風に感じさせた。


「人形の最近の様子は鬼気迫るといったところだな」

「俺様も声かけようか迷っちゃう……ん?」


 拡大された鐘の音が響く。


「緊急事態の警報です! 皆さん静かに、落ち着いて指示を待ちましょう」


 先生の言葉に生徒達がざわめく。そんな事態になるとしたら、もしや、と。


「魔王が軍勢を伴って進行中! 繰り返す、魔王が軍勢を伴って進行中! 万一の事態に備え、王都を捨てる準備をするように! 繰り返す――」


 王都中に響かせているこの声は、もう私には聞こえない。私の相棒、黒杖イーリアスに乗って、学園内を飛びぬけ王都を飛び出した。空から見えるその大群は千か万か、はたまたそれ以上か……まるで動く森のようだ。

 第三騎士団は皆、他の町に出払ってしまっている。よって王都を守るために立ち塞がるのは治安維持部隊の第二騎士団だ。そして、彼らに守られるように聖女も立っていた。

 いまにも進軍しようとする騎士達の前に着地し、その動きを妨害した。


「お前は……公爵家の!?」

「最初の一撃は私がやる」

「あの人騒がせの魔法を使ってくれるという事か」

「違う」

「なんだと!?」


 くるりと一回転して魔力の円を描き、自身が紋章となり放つその一撃はかつて空に放った一撃ではない。


「もっと凄いのを撃つ」


 シンジツノカガミ、起動。

 高まる魔力が極限に達する。


「グングニル・シュート」


 限りの無い神属性の魔力をさらに高めて打ち込むそれは、魔王を含め、王都へと進軍する六割の群れを焼き払う。表現などしようもない、圧倒的な破壊がそこにはあった。


「大したものだねえ。一回死んだと言ってもいいだろう」


 それでもなお、棺の魔王は生きている。拡声魔法を使いこちらに声をかけてくる。私は杖に再び乗り、低空飛行で魔法が空けた軍勢の穴へと飛び込んだ。

 スケルトンが、ゾンビが、ゴーストが。私に近寄ってくる。


「カウンター・ファフニール」


 銀の龍を象った魔力の塊がそれらを迎撃し、邪魔な魔物を蹴散らしていく。

 続いて巨人族のスケルトンだ。こちらに向けて棍棒を叩きつけてくる。

 龍がその木の塊を弾き返すがそれだけでは足りない。


「フェンリル・レギオン」


 神属性と氷属性の複合魔法。巨大な狼の形をした氷が群れで巨人族の骨に噛み付き、地面に押し倒し凍り付かせた。


 軍勢の真ん中、私の魔法でぽっかりと空いた穴を埋めようと少しずつ両翼が縮まり私を包囲しようとしてくる。


「メデューサ」


 相手に対してかけ続けなければならないが相手を石化させることのできる魔法。私なら、神属性の魔力なら多数に対して長時間かけておくことができる。

 これでもう、私と棺の魔王の間を邪魔するものはいない。ただ、距離があるだけだ。


「アルテミス、スクルド」


 その間に防御魔法と未来視魔法をかける。準備は万端だ。


「ウェルダンド」


 時間生成魔法によって私は私だけが動ける今一瞬の時間を増やす。息は出来ないが構わない。事実上、時間の停止されているのと変わらないこの隙に一気に距離を詰め、棺の魔王の懐に潜り込んだ。杖から降り、魔力を込めたところで時間の生成を終了する。それは強力な近接攻撃魔法、マジックストライクの神属性化。


「エクスカリバー」


 下から上に斬り上げる一撃。これで魔王とはいえひとたまりもない。

 ……はずなのに。棺の魔王の服が破れただけだった。


「強い、強いねえ……また一回殺されてしまったよ」


 などと言う。嘘だ。シンジツノカガミは魔王の言う事に虚偽がある事を示している。


「嘘」

「ああ、そうか。嘘は通じないんだったねえ。とはいえ実際、倒せないまでも封印できるまでには追い込めてるはずなのさ」


 今度は本当だ。だとしたらなぜ傷のついている様子を見せないのか。


「道徳ではね、こういうのさ」


 突然語りだした棺の魔王に警戒はするが、特に未来視に不穏な様子は無い。


「命の価値は平等だってね。だから私は他者の命を集めて盾にする事で、ダメージを逃れているのさ! 虫、爬虫類、両生類、魚、人間……様々な命を集めてきた! それら一つ一つが私を守る! 私を殺して殺して殺し尽くして、それでやっと私に傷をつける権利を得る事ができる! さあ、シール。尽きぬの魔力と尽きぬ体力、どちらが強いかやってみようか! これが、これこそがフェアな戦いというものだ!」


 私が一度距離を取ると多数の棺が魔王を囲み、新たな軍勢を呼び寄せていく。

 ……長い戦いになりそうだ。

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