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014動き出す影

 魔王を封印する手段は手に入れた。あとは何ができれば魔王を封印するところまで追いつめる事が出来るのか。もしかしたら今の段階でもう渡り合えるかもしれない。

 ちなみに聖女は神との契約が切れたのかどうか不明な状態であるらしい。呪文を詠唱したらと提案しただけと言ってしまえばそれまでで、何か身体に違和感があるわけでもなく。もしかしたら不老は解除されていないのかもしれないとの事だった。

 聖女でも出来ないと言う対象の体力が多く残っている状態での封印も成功させているため、封印の威力はお墨付きを貰っている。

 その時に使った魔物は封印の解除をした後に副団長が処分した。あのままでは数十年か数百年後か、それ以上未来かは分からないが教会の中庭に檻に入った魔物が現れてしまうためである。

 副団長が使う刀という武器の切れ味は鋭く、檻ごと魔物を叩き斬ってしまった。それだけの実力を持ってしてなお倒せなかった魔の森の蛇の実力がどれほどのものだったか分かる。

 つらつらと色々な事を考えたが、今大事なのは封印術の他に教えてもらった神と交信する魔法である。伝説になっている魔法で、魔法の名しか伝わっていないというのだが。とにかく神に関わるのだから神属性の魔力を使えば大丈夫なのではないだろうか。との発想で学園の寮の元、杖を片手に部屋の中心で魔力を練る。


「オラクル」

『ホワイトキックっていうのは白けるって意味なんだよ』


 は? と疑問を浮かべたのは黒杖イーリアス。喋る杖だ。そんな反応にもなる。ホワイトキックってなんだ。

 込める魔力が足りなかったのか。もう一度試してみたい。


『ボールを持った時に両足で着地するとどちらの足を動かしても、もう片方の足が軸足扱いになりトラベリングが取られにくくなるよ』


 声が聞こえる時間が長くなった。相変わらず意味が分からない。ならば魔法陣を描く方法ならどうだろうか。左足を軸にして、魔力を込めた右足で爪先立てて一回転。内部の紋章は私そのものが代理となる。実質、魔力を込めて円を描くだけで魔法が強化されるという代物だ。これならばどうだろう。


『ラーメンとうどんで悩んでるよ』


 私が知らないもの二つで悩まれても答えようがないし、そもそも答えて届くものなのかも分からない。

 これは魔法そのものが失敗しているのかもしれない。数をこなしてみれば何か変わるだろうか。


『オラクルは一日三回までとなっております。またのご利用お待ちしております』


 別人の声がそう伝えてくる。そういう決まりならば仕方ない。この魔法が役に立つ日は来るのだろうか。

 聞こえた声の内容が気になっていたらしいイーリアスにその話を伝えてみると、ゴミ魔法じゃねーか! との言葉を貰った。私としてはもう少し長い目で見ていきたい。

 さて、私には神属性の攻撃魔法、防御魔法、補助魔法、移動魔法そして封印魔法があるがこの中で移動魔法に関してはまだまだ練習が必要ではないかと考えている。

 そういうわけで第三王子に瞬動術のコツを聞く事にした。今日の実習はマジックストライクの強化である。


「杖先から魔力の刃を出して固定するだけです。難しいことはなにもありませんよ」


 との事であり、実際に簡単だったので暇な時間を使って第三王子に接触した。


「よかろう。必要とあれば教えよう。……しかし、待て。まだ授業で覚えるべき事がまだ成されていない」

「魔力を循環させるだけ」

「人形よ、お前は簡単に言うがな。体内から杖、杖から外に、と流したものを再び戻せば多少のロスが生じる。失った分の魔力を正確に補充するのは骨である」


 そういうものなのか。あまり人の魔法をしっかり見る機会が無いので知らなかった。しかし周囲を見渡せばそこまで細かく魔力操作を行っている者はいない。揺らぎはあるけれど武器として使えれば充分といった感じである。それを問うてみれば。


「私は王族であるゆえにな。いざ魔法を人に見せる時、あまり恥ずべき様など見せられん。これぞ王の血族であるという風格を保つためには魔法一つに関しても手抜きは出来ぬという事よ」


 民とは違うのだ、という完璧主義が彼に高いハードルを課している。


「これは存外に時間がかかりそうだ、先にお前の問いに答えよう。止まる時は発動する時とは逆に足をつけて魔力を地面に流せ。さすれば地面の方がお前の足を離すまいよ」


 それならばやってみよう。魔力を強化した足に込めて、爆発。足を地面につけて魔力を流して、止まる。確かにきちんと止まるようだ。魔力を流すのをやめれば足もすぐに離れる。何度か練習していると、知らないところまで来てしまった。


「……お前か」


 そこにいたのは聖女の子孫だった。どうにも校庭の中でも三年生の訓練する場所まで突撃してしまったようだ。


「余計な事を」


 してくれたな。これでエリーザ様は寿命を迎えるかもしれない。と、言外に言っている。相変わらず口数の少ない男だ。


『いや、だからなんで分かんのよ』


 などと茶々を入れてくるイーリアスは今回は放っておく。


「必要だった」

「お前のエゴで人が死ぬ」

「構わない」

「お前が後継者なはずがない」


 だから聖女は死なない。そう思い込みたいのだろう。


「……死んでほしくない」


 だから自分は聖女から封印術を教わりたくなかったという。魔王が復活した今の時代においても。


『姫さんは姫さんで勝手なところあるけど、こいつも相当だよなあ。何のために聖女サマが不老になったのかって話だよ。魔王を封印出来るだけの逸材に封印術を教えたかったんだろ? それ、本来ならこいつが教わるべきものだろうよ』


 結局は私が覚えてしまったのだから、彼の拒絶は無駄になったということだ。


「私は魔王を倒す」

「お前なんて」

『今のは俺にも分かるからな。こいつ倒されちまえばいいって言っただろ? このガキ……! そもそも、そんなの聖女サマが一番報われねえ展開じゃねえか』


 動き出す寿命、引き継げない封印術、活動を続ける魔王……確かに誰も得しない話になる。


「そもそも魔王が何をした」


 言われてみれば棺の魔王は何をしているのだろうか。一度騎士団と相対した以外に活動らしい活動を見せていない。人々の警戒は薄く、私の個人的な倒したいという意思は理解されないものかもしれなかった。


「それでも魔王を倒す」


 しかし、そんな事は関係ない。ただ、私がやりたいからやる事だ。今更、最近見知った少年に何を言われたからと言って揺らぐ理由にはならない。


「……僕は、お前が嫌いだ」

「構わない」


 好かれるとか嫌われるというのは私にとってどうでもいい。存分に嫌ってくれて構わない。私は彼に背を向けて、今度はテレポートの距離を伸ばす練習をしながら去った。


「授業中にあまり遠くに行かれると困ります。シールさん、どこにいってたんです?」


 などと先生に注意を受けるものなので、何をしていたか簡潔に伝える事にする。


「魔法を使って男に会っていた」


 場は騒然である。男に会うとそれほどに驚かれるものなのだろうか。聖女の子孫がもし女ならそれほどでもなかったのかもしれない。

 などと考えていたらクラスの女子に囲まれて質問攻めにされていた。


「どんな人?」

「いつから付き合ってるの?」

「かっこいい?」

「私達の知ってる人?」

「名前は?」


 などと聞かれるので一つ一つ答えていった結果、付き合っていないと知った時点で彼女たちの興味は薄れていったらしく追加の質問は無くなっていた。


『魔法を使ってたら、偶然知り合いの男に会ったので少し話をしたってだけだからな。ややこしい言い方しすぎだぜ』


 ややこしかったらしい。イーリアスが言うのだからきっと間違いはない。

 先生が二度、三度ほど手を叩いて場を仕切り直した。


「はい、ではこちらに注目。今日の授業はここまでです。食堂は混んでるでしょうが皆さんきちんと食事を取るようにしてくださいね。では、解散」


 との掛け声でクラスメイト達はそれぞれの従者と合流し、食堂へ向かう。もちろん平民の学生には従者などいないので手早く席を取ることが出来る。多少の時間のずれがあるとはいえ五学年が同時に食事を取るだけあって食堂は広く、しかし集まる人数が多ければそれでも手狭になってしまう。今日はそういう日だった。

 メイドのエレナが席を確保し、そこに座る。混んでいるので今日は相席だ。


「……またお前か」


 エレナが配給の学食を持ってくるので私は座って待っているだけ。貴族なんてそんなものである。


「おい」


 よほど従者と仲が良ければ一緒の席で食べる事もあるけれど、さすがにこれだけ混んでいれば学生優先である。学園の主役は生徒なのだから。


「無視をやめろ」


 先ほどから声をかけてきているのは聖女の子孫。さっきの今で奇遇である。しかし面と向かって嫌いだと言い放たれた相手への対処法というのは少し分からない。こういう時に頼りになるのが私の杖だ。ふむふむ、なるほど。そう言えばいいのか。


「用が無いなら話しかけるな。私の前から消えてほしい」

「先に席についたのは僕だ。お前が消えろ」


 そうこうしている内にメイドのエレナが食事を持ってきてくれたので頂く事にする。今日も食事がよく見えないしそもそも料理の名前も知らない。イーリアスはこの現象を三大欲求がなんらかの原因で削られているからではないかと推測している。言われてみれば睡眠欲もないのでそうなのかもしれない。性欲に関しては、そういう感覚そのものを失った訳では興味が無い程度。


「本当に僕の前で食事するのか」

「何様のつもりですかねこの子。シール様は公爵家なんですけど立場分かってます?」


 などと痛烈な事を言うのはエレナだ。


「メイドの分際で」

「いや、私は貴方と同じ伯爵家なんで。それもそちらの家みたいな成り上がりじゃなくて歴史あるリトホルム家」

「エリーザ様の功績を侮辱する気か」


 そう言ってエレナに杖を向ける。許さない。


「アピアランス」


 私も立ち上がり、黒杖イーリアスを収納から取り出して聖女の子孫に杖を構えた。


「シール様、大丈夫ですよ。ここは反撃しちゃ駄目です。一方的に攻撃させて罰を受けさせましょう」

「悪巧みを人の前で相談するな」

「聖女の家の子が学園で人を傷つけた、なんて話が伝わったらどうなっちゃうんでしょうねえ」

『姫さんこいつ……味方だけど性格悪いぞ!』


 賢いだけである。エレナを悪く言ってはいけない。


「本当嫌になっちゃいますね、こんなのが聖女の家系だなんて。ついに魔王が暴れ始めたなんて話も知らないんでしょう?」


 それは私も知らないので詳しく知りたいのだが。

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