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012聖女のアポと時間制覇

 勇者。それは再生の聖剣、幸運の聖鎧、鉄壁の聖盾を身に着けた神よりの使者。特に聖剣は人の言葉を用いて勇者を導き、魔王を倒すための助言を与える。これによって勇者は魔王と対峙し、打ち取ってみせるのだという。

 魔王について調べようと思って書物を開くと大体は勇者の話からになる。そういうのはいいので棺の魔王についてさっさと書いてほしい。

 封印術を使える人間は主に教会出身者で、それが勇者についていって弱った魔王に封印をかけるという。一説によると魔王にはより強化される第二形態があり、殺そうとすればその本性が牙を剥く。それは勇者でも敵わないほどの力を持つらしく、討伐はしないそうだ。

 元々聖属性が得意だから教会の人間が多いだけで私でも封印術を覚える事は出来るのではないだろうか。ただ、その封印術をどこで覚えるのかが問題だ。授業で教えてくれるだろうか。

 という事を休日を利用して学園の図書室で考えていた。


「ここにいらっしゃいましたか。先日のお礼を、と思いまして馳せ参じました」


 細身の男で腰に細長い剣を差している。彼は第三騎士団の副団長だ。


「先に寮の方へ向かわせて頂いたのですが、貴女のメイドがこちらにいると教えてくださいました。その時に手土産のお菓子も渡してありますので後で食べて頂けたらと」

『甘いもんか? 悪くねえなあ』


 などと収納されながら私の杖は言う。味覚担当なので食べ物関連が嬉しいのだろう。帰ったらメイドのエレナと食べる事にする。


『姫さん。こういう時はお礼を言うものだぜ』


 なるほど、そうなのか。


「ありがとう」

「とんでもございません。我々の方は命を救っていただいてるのですから。むしろ昨日の今日で大したものが用意できなかった事を申し訳なく思っております」


 何か返答が違ったみたいに感じるけれど、どうなのだろうか。


『いいんですー。あってますー。そういう謙虚な心ってのが人間には大切なんだよ』


 そうらしい。杖に人間らしさを説かれてしまった。

 椅子に座っている私に対して、副団長が跪いて本を開いていた私の手を取ってくる。


「シール様のおかげで我々は救われました。第三騎士団一同を代表して私が感謝を捧げます。本当にありがとうございました」

「はーい、そこまでな」


 杖のイーリアスが人間化して飛び出してくる。


「……貴方は?」

「姫さんの相棒。いや、この前そういうとこ見逃したら姫さんの手にキスしたエロガキがいたからちょっと今回も警戒しとこうかなって」

「確かに手の甲にキスくらいしてこいと団長には言われましたが」


 やっぱりかこんちくしょう! と非常に元気のいい反応を見せてくれた。

 副団長は手を離して立ち上がる。


「自分で言うのも恥ずかしい話なのですが、今回の件で私がお礼に来たのは家柄と、あとは顔がいいからシール様も喜ばれるだろうという団長の判断なのです」

「それを自分で言うのはマジでやだな」

「はい……。団長も顔が悪いわけではないですが、その、一般受けしないので」


 それは顔が悪いと言わないだろうか。疑問が浮かんだけれど人の顔にとやかく言うつもりもない。


「ワイルド、そう、ちょっと野性的なのですよ」


 こうもフォローを入れられる顔とはどんなものなのか。

 咳払いを一つ入れて強制的に話題を切り替えられた。


「う、うん! それよりも、第三騎士団に何か望む事はありますか? よほどの事で無い限りは助けになりましょう」

「ない」

「突然言われてもそうなりますよね。何かあれば遠慮なくお声かけください。力になりますから」


 私がやりたい事と言えば魔王を倒す事くらいなのだから、それは自分で……。


「あった」

「はい。私達に出来る事ならばなんでも」

「封印術を覚えたい」


 そう言うと副団長は何かを考え出した。


「確かに心得はあります。しかし……一つ難点がありまして」

「がんばる」

「その必要はありますが、そうではなく。シール様が望まれるのは魔王を封印するための封印術でしょう。お教えする事はできますが、それで魔王を封印できるという確証が無い。なにせ実際に封印した事がないので」


 神属性の魔力と混ぜてあとは魔力量でどうにかするので基礎だけ教えてもらえればいいのだけれど。どうにも生真面目な事である。


「ですので、魔王を封印した経験のある者に騎士団から話をつけてみせましょう」


 そんな人物がいるとは。確かにそれなら頼もしい。


「あー? 最後に魔王を封印したのは百年前。エリーザ・ディルタイって聖女だろ? 本に書いてあった。生きてたとしてもうボケてねえか、それ」

「いえ、聖女は魔王を封印した報酬として自分の後継者に封印術を教えるまで歳を取らなくてよいという契約を神と結んだそうなのです。なのでまだまだ現役ですよ」

「神と話したり百年も生き続けたりと御伽噺みてえな事してるな」


 そもそも魔王封印が御伽噺のようなものですよ、と副団長は笑った。

 では、と前置きした上で彼は踵をかえす。


「早速話をつけてきます。来週までにはいい知らせを持ち帰れるでしょう」


 そう言い残して。

 ちなみにメイドのエレナに持たせてくれたお菓子は私を通してイーリアスが喜んで食べた。私の感想としては甘い、である。味は分かるようになったが興味があるかは別問題である。

 そうして週は明け、再び学園が始まったのだった。


「今日皆さんに覚えていただくのは鍵閉めと鍵開けの呪文ですね。これは貴族の皆さんには当然すぎてつまらない授業かもしれないです」


 そう前置きして始まった先生の授業。

 要は特定の物を開かなくする魔法とそれを解除するというだけの魔法だ。

 扉は当然として、布袋なんかも閉じる事ができる。

 とはいえ、開ける事も可能なのだから大した魔法ではない。私はこれを開けてほしくありませんという意思表示でしかないのだから。

 貴族社会ではこの魔法を本当に開けてほしくない時に使うので、迂闊な鍵開け魔法はマナー違反であると先生は主に私を見ながら言った。

 なぜこちらを見るのか。


『姫さんは容赦無く開けそうだと思ったんだろ』


 とは私の相棒の弁である。

 他に教わった魔法で有用そうなのは沈黙魔法。これを覚える時に少し絡まれた。


「人形ちゃん。一緒にやろうぜ」


 そう言って赤髪の少年が誘ってきたので受けたのだが、私が沈黙魔法にかかる番になるとこれがまたよく喋るのだ。


「兄貴とデートしたんだって? 楽しかった? 俺様ともデートしない?」

「兄貴が放課後の課外授業楽しみにしてるってよ。俺様も時間がある時に君と会えたら嬉しいねえ。いや、時間なんて作ってみせるよ」

「兄貴と一緒にいられて俺様といられない理由なんてないよな……?」


 何かと彼の兄である先生を引き合いに出しながら、自分を売り込んでくるのだ。

 ただ、時間を作るというのは面白い。私もやってみたいものである。


『いや、そういう物理的な意味じゃねえから。でも面白そうだな』


 という魔杖の発言から時間に対する議論が始まってしまう。赤髪の少年には沈黙魔法をかけっぱなしである。


『姫さんの魔力が無限だとするな? そうすると時間停止ってのはやべえんだ。解除する本人の時間まで止まってたら誰も解除できないし魔力切れの解除もない。一瞬で世界が終わる』

「なるほど」

『だから、時間を作ってみるってのはまだ問題が少なそうだとは思うんだよな。自分の時間だけ増えればそれって時間停止とやれる事は一緒だろ』

「つまり」

『姫さんなら時間停止と同じ事が出来るんじゃないかって説』


 私の杖は賢かった。後は私が実践できるかどうかだ。

 シンジツノカガミを起動して、ウォッチを発動。目の前に時計が現れる。今から私はこれを増やすのだ。


「ウェルダンド」


 唱えると、私は私が増やした時間に入り込む。時間とは誰にでも平等に与えられるもの。だからみんな動けるわけで、私が増やした時間の中では私しか動けないのが道理である。

 ただ、この魔法には問題がある。私の増やした時間の中では息が吸えなかったのだ。

 なんらかの改善の余地がある事が分かった。それを伝えるとイーリアスは笑った。


『時間逆行魔法ウルド、息を止められる間は自分だけの時間に引きこもれるウェルダンド、数秒後の未来が見えるスクルド。制限付きとはいえ時間に関する魔法をこれだけ使いこなせるのはやばいだろ』


 確かにどれも有用な魔法だと思う。特にスクルドで危険を確認したらウェルダンドで回避できる。頑張れば自分まるごと過去や未来に飛ぶことも出来るんじゃないかと思うが、特に魅力を感じない。肝心なのは棺の魔王と戦う武器になるかだ。

 武器といえば封印術を教えてくれるかもしれない聖女との交渉はどうなっているのだろうか。実践経験者の話は確かに価値がありそうだ。

 などと考えていたら軽く小突かれる程度の威力をした魔法の弾丸が額に放たれた。


「自分の世界に浸るのやめてもらっていいです? 授業中ですよ」


 先生に注意されてしまった。

 私のストッパーである黒杖も乗ってきた話題であるし、一番迷惑のかかっている魔法の練習相手は沈黙しているので私に話しかけられなかった。

 確かにそれでは私を止める者がいないはずだ。授業中に他の魔法の開発をしてしまうとは私も思わなかった。私は集中力があるらしい。


『いや、集中力あったら授業に専念するだろ』


 もっともである。

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