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010再会の第三騎士団

 あれを怒らせるのはやばいぞ、だとか姫さんの泣く貴重な瞬間が見れるかもなあ。などと黒杖イーリアスに散々脅された。挙句にからかってもリアクションが薄いと文句をつけられたので納得いかない。

 結局、先生の用事がなんだったのかというと。


「ちょっと先生とデートしましょう。動きやすい格好でお願いしますね」


 との事であり、特にお咎め無しだった。自分で破壊した地面を自分で直したのだけなのだから当然である。


『女誘うために怒ってるフリするとか性質の悪い男だな』


 メイドのエレナにデートに誘われたので休日は動きやすい格好の必要があると話したらとても楽しそうだった。彼女が楽しそうなのは良い事だと思う。

 そこから休日までの学園生活は平凡なもので、特出するとすれば薬草学や錬金学の授業があったくらいだろうか。


『……あれを平凡と言える姫さんがすげえよ』


 などと蒼核の杖は語るが私には一切の心当たりが無い。杖の身である彼にしてみれば新鮮な出来事だったのだろう。

 茶々も入れられはしたが、なんにしろ休日が来た。メイドのエレナが用意してくれたのは飾り気の無いワンピースだった。


「よく似合ってるよシールちゃん」


 などと声をかけてくれるのがエレナだ。彼女は誰もいない時は敬語を使わない。立場にちょっと厳しい杖のイーリアス的には不満のようだが私は特に気にならない。むしろ、なぜかその方が自然だと思えるのだ。

 集合場所などを指定されていなかったので部屋で待っていたら、先生の方から現れた。


「村娘のような格好でもシールさんの美しさは隠しきれないようです。本当はズボンの方がいいのですが、公爵令嬢にそれは望みすぎですよね。それじゃ行きましょうか」


 結局のところ、デートなどというが一体どこに連れていかれるのだろうか。


「私の好きなところですが、それ以上に貴方にとって必要な場所ですよ」


 そう言って、彼は私を馬車に乗せた。見た事の無い家紋がついていたのできっとメロゥ家の馬車なのだろう。

 御者が導くその先にある場所は。


「……騎士団?」


 それも今にも出かけますといった様相の、慌ただしい様子だった。


「おう、来たか。なんだそっちの嬢ちゃんは」


 短い髪がつんつんと立った、頬に傷のある男が私を見下ろす。


「私の生徒ですよ、団長。邪魔になるようなら私がちゃんとお世話します」

「それなら、いい。そろそろ出発だ。それまではルークにでも構って貰えや」

「はい、そうします」


 団長と呼ばれた目つきの悪い男を恐れるような様子もなく、先生は早々に話を打ち切ると私を連れて人を探し始めた。


「ああ! シールじゃねえか! おい、このやろう!」


 そう呼び掛けて青年は走って近づいてくると私の両頬をつまんできた。


「副団長に聞いたからな! 結局お前、父親にほとんど事情聴取の対応やってもらったんだってな!」

「いふぁい」

「僕は、言ったよな! お前が自分で頭使ってなんとかしろよって! 目標だって!」


 とても痛い。その話を知っているという事は、棺の魔王と会った日に馬に乗せてくれた男だ。


「姫さんになにしやがるこのボケ!」


 右手から出てくるやいなや、馬の男に拳骨を一発喰らわせる。


「いってえ! 誰だお前! なにしやがる!」

「俺はイーリアス! 姫さんの相棒だ!」

「相棒だかなんだか知らないけどこっちは元クラスメイトだ! 年季が違うんだよ!」

「ああん?」

「なんだあ?」


 などと睨み合いが始まるが、それは一人の男によって制される。


「シモン。何をやっているのですか。出発はもうすぐですよ」

「すみませんルーク副団長。ただ、こいつが……あれ?」


 馬の男が見ていない内にさっさと杖に戻ってしまった。これでは一人だけ舞台に取り残されたようなものだ。


「おや、ナエルですか。どうですか教師の仕事は」

「やりたいようにやらせてもらってますから。良いものですよ」


 そう親し気に話す先生と副団長。その話題はこちらへと向かってきた。


「たしかに貴方は学生時代から騎士団の手伝いをしてくれましたが、彼女に同じことをさせるつもりなんですね。ただ、まだ若すぎるのでは?」

「何かあったらフォローしますから。シールさんは魔王を倒すと宣言したルーアース家だけありますよ」

「随分と買っているみたいですね。確かに、我々としてもその実力は身に染みていますが……」


 そんな話を打ち切るように、決まりだと言わんばかりにやっと今日のデートの行き先を教えてもらった。


「それではシールさん、今日は魔の森にいきますよ。先生と一緒に魔物狩りをしましょうね」


 魔の森。それはモンスターが大量に発生する危険なエリア。場合によってはドラゴンさえも現れる為、王都の外を守る第三騎士団は常に見張りを置き、危険な魔物は即座に処分するようにしているという。ただ、それだけでは間に合わず。第三騎士団は定期的に森に向かい、魔物を狩る。そうでなければ縄張り争いに負けた魔物が森の外に出てしまうからである。ちなみに棺の魔王を発見できたのも騎士団の見回りのおかげであるという。


「棺の魔王は森に潜伏している。なんて噂もあるくらいでしてね。そうでなければこの前のドラゴンゾンビを使役していた事に理由がつきませんから」


 あの時はドラゴンゾンビではなくボーンドラゴンだったはず。私は荷物の増えたメロゥ家の馬車の中で副団長の話を聞いていた。この男、荷物に細長い剣を持っていたので思い出したが屋敷で事情聴取に来た男だ。

 私の視線を感じて、副団長は補足をしてくれる。


「我々が最初に戦っていたのがドラゴンゾンビなんですよ。ただ、倒したと思ったらボーンドラゴンとして蘇ってきて。倒しても倒しても周囲のスケルトンを作り変えてボーンドラゴンの素材にしてしまったのです。そんな事を繰り返したら突然フェアじゃないと言い出して……そこからはシール様も知っての通りです」

「何がフェアなんだろうな。僕には分からない」


 そう呟くのは馬の男。今、メロゥ家の馬車には私、先生、副団長、馬の男の四人が乗っている。あとはそこそこの量をした騎士団の荷物。


「魔王の価値観は僕みたいな凡人にはちょっと図りかねます。ああ、シールさん。魔の森には的がたくさんありますから、それらに対して確実に攻撃を当ててください。これは魔王を倒すための訓練です」

「わかった」


 そういう事なら否やは無い。たくさん倒せばたくさん強くなれるだろうか。


「例えば、そうですね。今あそこを旋回してる鳥が見えますか?」


 馬車の入り口付近に寄って確認する。はぐれた鳥なのか一羽で行動している。


「見えた」

「あれを。ばぁん」


 いつの間にか取り出した短い杖から放たれるのは魔法の弾丸。威力も射程もマジックミサイルよりも優れているが、代わりに誘導が一切効かない直進するだけの攻撃。それを、たったの一発で見事に仕留めてしまった。


「あれはエナバード。死肉漁りの魔物ですね。魔物の肉を食べると成長していくので早めに処理できてよかったです」

「はあ、すげえなあ。この距離で、座ったまま。しかも狙いをつける時間も見せなかった」


 感心したように話す馬の男の話を聞いていた副団長は笑って補足した。


「それも頭を、だ。ナエルの狙う力はやばいぞ」

「練習したので。ただ旋回してるだけなら当てます」


 今後これくらいはやれるようになってもらいますね。そう穏やかな笑顔で語るこの教師はとんでもない戦士のようだ。

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