(終)
その日の夜、坂東蛍子は長い夢から目覚め、中学二年生である自分の部屋の勉強机から頬を剥がした。どうやら勉強の最中にうとうとしてしまったようで、顔に眼鏡の跡がくっきり残っている。何故かいつもより高い椅子の脚を直しながら、本当長い夢だったなぁ、と薄れる記憶を辿る。とにかく長くて、変な夢だった。
「・・・二十九年かぁ」
蛍子は冬の寒さに身震いして、溜息を宙に放った。そんなに待てるか分からないけど、出来る限りは頑張ってみようかな。坂東蛍子はすっかり暗くなった夜をカーテンで隠すと、そのまま疲れた身体をベッドに滑り込ませた。明日から始まる我慢の日々の前に、もう一度だけ良い夢の続きを見られることを祈り、目蓋を閉じる。
幸運なことに、彼女の灰色の日常が再び色づき、花が鮮やかに輝くまで、二十九年もかからなかった。
一年後、少女は初めて恋をする。
あとがきはいずれ追記するかもしれませんが、ひとまずは終わります。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
おわりに、中学蛍子の続きとなる話を貼って締めたいと思います。
坂東蛍子、学校へ行く――高校一年、春の十日間。
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